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ブルーファントム
ブルーファントム
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エースコンバット レイム・デュ・シュバリエール

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 思うがままに走る若い狼、これであたしは分かった。この『知恵の狼』はあたしにとっての『チャンス』なんだって。
 あたしの七年の経験上、素人が勘だけでここまで飛べる所を見たことはない。間違いなく『逸材』だと確信したね。
 これ以上続ける必要もないだろう、素質は十分に見れた。
「わかったよ、あたしは納得……」
 あたしは認めることにした。だけど……
「……もっと」
「……ん?」
 「もっと」って言ったのか、今?
あたしはやな空気の流れを感じる。このままちんたら話してるのは危ない気がして、あたしは終わりの音頭を取ろうとする。勘ってのは大事って教官も言ってたろう?
「レイフ、もう十分……」
「足りない。まだ、行ける……!」
 だが、一歩遅かった。
「うおぅっ!?」
 アイツの悪い癖、今でもたまに出るやつさ。一人で突っ走る癖があるのよ。それに救われたことも何度もあるんだけどね。
 その時、突如あたしを襲ったのは前方向へのG。
 急激な減速。アイツはスポイラーを一挙に展開したようだ。
「お、おい! 無茶は……」
 静止しようと、無線だというのに声を張って呼びかけるあたし。アイツは聞く耳持たず。とんだ困ったちゃんだね。
「私は、飛べるんだ……!」
 こうなったアイツは止まらない。止まらないし、止めちゃいけない。
 何故? 狼が牙を向くのさ。ガオォッとね。
「ぬぅぁっ!?」
 類まれなる平衡感覚、直感力の鋭さ、それがアイツの売り。それが生かされる瞬間がこういう時なのさ。
 まっすぐ飛んでいた機体は起き上がる。眼前はただただ太陽が眩しい。気持ちいいくらいに青い空。
 それと重なるバイザー投射の情報。高度は変わらず、速度ベクトルを表すマークは本来機首を起こした際より機体底面方向近くを指している。
 機体は上を向いたまま、地面とは平行の方向のままに移動していたんだ。
「『コブラ』だって!?」
 あたしは思わず叫ぶ。驚きの声と同時に再び水平に戻り、元通りの状態になる。
 『プガチョフ・コブラ』。高度をほとんど変えずに、減速させながら機首を上に向け、また水平に戻るマニューバ。
 エンジン排気の方向を変える『推力偏向』の機能を無理やりくっつけたた、このブルーファントムならできないことはない動き。
 だが、減速と機体を起こすタイミングがシビアなんだ、この機動は。おまけに、この機体は相当ピーキーで、そういったバランスが大事な機動には相当に神経をすり減らす。
 そんな、あたしらでも難しいってのを、またもアイツはやりおおせたのさ。
「……! ……!」
 息づかいが荒く、アイツが「ハイ」になっている様子が無線越しに伝わる。今、アイツのテンションは最高潮だ。
「お、おい、一旦止まれ!」
 絶対何かやらかす。そう思って、飛行機は止まれないというのに、焦ってあたしはそんなことまで口に出る。
 しかし、アイツの息遣いは更に荒くなっていく。
「……っ!」
「のおぅっ!?」
 機体は60度左にバンク(傾く)。
「それから、持ち上げる……!」
 アイツはスロットルを前に押して加速させ、そしてピッチアップの動作を行う。機体は旋回半径を広げながら、下から上に広がる螺旋を飛行機雲が描いていった。さしずめ、新体操のリボンって感じかな。
「上がれ、もっと上に……!」
 ……今も、この「ハイ」な状態でのアイツの動きには驚かされるし、頼りになる部分もある。
 けど、当時のアイツには決定的に抜けていた部分があったのさ。空の厳しさを知らない、『未熟な狼』だったんだよ。
「……?」
「……な、なんだい?」
 アイツの戸惑う様子が、直感でわかった。
 機体の動きはそのまま、バイザーのHUDが徐々に傾いていく。機体の角度はすでに90度を超えていた。
「……? ……?」
 瞬間、機体が訳のわからぬ動きを始めだす。
「うわわぁっ!」
 ぐるぐるぐるぐると、あちこちに操縦桿を切っているアイツ。まずいことになった。
 ――これは『バーディゴ(空間識失調)』だ。
「……何? ……え?」
 この時のアイツは天地がどちらかを見失ってしまったのさ。
 ド素人のくせに無茶なマニューバをやりおおせたはいいが、不慣れな『G』に体の調子がおかしくなったんだろう。
「レイフ、手を離せ!」
「…………?」
 指示を出すものの、あたしの呼びかけに気がついていない。相当落ち着きを無くしてしまっているようだった。
 子犬らしさあるもんだ、なんて言っている場合ではない。
「レイフ、レイフ、応答しろ! あたしの声を聞け!」
「……えっ?」
 情けない、上ずった声で返事をするアイツ。しかしなんとか気づいてくれた。
 しかし、自体はさらに悪化する。
《Warning Stall》
「「……あ」」
 機体が逆さまになり、空力を見失うあたしたち。
 ストール、つまり失速。操縦桿やスロットルをいじるうちに、飛行に必要な速度を失い、制御不能に陥ってしまったのだ。
「え、えっと……」
 バツが悪そうな様子のアイツ。戸惑う前席にあたしはやれやれとため息を吐いた。手間のかかる後輩だこと。
「とにかく、もう何も触るな。試験は終わり、わかった?」
「……うん」
 アイツの弱々しい返事を聞き、今度はあたしが機体のコントロールを握る。こっからがあたしの見せ場だ。
「エンジン再点火、高度は……ちと余裕はないね」
 速度を得て揚力を生もうとするも、アイツがパニックになって無茶したことや、スプリットSによる高度低下もあって余裕は雀の涙程度。
 最初は15000フィートあった高度も、今では4500……4000……高度を示す数値はどんどんと小さくなってくる。
「レイフ、よく聞け。精一杯リカバリーしてみるが、どうなるかわからない」
「う、うん」
「だから、あたしが「イジェクト、イジェクト!」と二回言ったら座席の黄色いレバーを引きな。脱出装置が作動する」
「うん……わかった」
「返事は!」
「い、イエスマム……!」
 そして、アイツの返事と同時にエンジンの音が蘇る。
 3600……3200……高度は下がる。しかも機体の向きはほぼ背面。さあ、歯を食いしばれ。
「ぶっ飛ばすよ、あたし!」
 操縦桿を右に倒し、あたしはアフターバーナーを点火。エンジンは最大出力だ。
「くうぅっ……」
「すうぅぅ……ふうぅぅ……!」
 機体を纏う風が蘇り、ブルーファントムの羽は揚力を取り戻す。ストールの警告が止んで右ロールが始まるが、地面は刻一刻と迫ってくる。
「ひっくり返った!」
 天上に太陽を確認。HUDも正常な角度に戻った。
《Pull UP》
 同時に警告の知らせがまた鳴る。HUDにも操縦桿を引けと赤い文字で映されている。これはこのままいると地面と激突してしまう、という合図。急かされている気分が冷や汗を生む。
「浮いてくれっ……」
 あたしは思いっきり操縦桿を引いた。ブルーファントムの推力偏向ノズル、フラップ、エレベーターをすべて動かして機首を上に向けさせた。
 そこからは祈るしかない。
「間に合うか……」
 祈って、あたしはHUD表示に意識を集中させる。頼む、頼む……
 ……そして、進んでいる方向を示すベクトル表示が0度を越えて上に向く。