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自分らしく
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彼方から 第二部 第一話

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「六ツ目除けの香の石を燃やそうとしたんだけど、この小屋には置いてなかった……」
 そう、体まで震わせている。
「なにーーーーっ!!」
「そういや、隣の納屋に移した覚えが……」
「と……隣ったって、おまえ……」
「どーすんだよ、20歩ぐれえは優にあるし、とにかく、いったんは外に出にゃ、行けねーじゃないかァッ!! 六ツ目でいっぱいの外にだぞォ!?」
 男たちがそう言い合うのを、イザークは戸を押さえながら、ノリコは少しキョトンとして聴いている。
 
 外は確かに六ツ目だらけだった。
 小屋の屋根にも、薪を置いてある所にも、壁にも、戸板を嵌めてある窓にも……
 そこかしこ、六ツ目だらけだ。
 よじ登った先、あるいは壁、小屋の角、ありとあらゆる所に齧りついている。
 その咀嚼音が、小屋の中に伝わり、
「ああ……長くはもたねえぞ、この小屋も……」
「いやだあぁ、こんなところで六ツ目なんかに食われたかねぇ……」
 男たちに恐怖と絶望を与えてゆく。

「おれが、そいつを取ってこよう」
 黙って男たちの会話を聞いていたイザークが、そう申し出た。
「えっ!?」
 彼の言葉に驚き、男たちの視線は一様に彼に向けられる。
「誰か手を貸してくれ、おれが外へ出たらすぐ戸を閉めてもらわねばならん」
 だが、イザークの声音は至って冷静で、
「おい、無茶な……!」
「囲まれているんだぞ!」
「出たとたんに、食われちまうっ!」
 男たちの忠告を余所に、イザークは戸から少し離れてゆく。

 ――でもイザークなら
 ――大丈夫だと思う

 ノリコは、そう思っていた。
 それは、彼に対する揺るぎない信頼。

「『遠当て』が出来る」
 戸から少し離れた位置で踵を返し、イザークはそう言っていた。
「衝撃には強い六ツ目だが、一時的に蹴散らかすことは可能だ。合図をしたら一気に開けてくれ、全開だぞ、肝心の戸を壊してしまってはなんにもならん」
「こ……こえーよ、おれ」
 戸に掛けられた閂に手を掛けている男は、完全に腰が引けてしまっている。
 イザークの要望に、きちんと応えられるか不安が残るほどだ。

 イザークの両手に、気が集中してゆく……
 
「開けろっ!!」
「うわーーっ!!」
 男は必死の形相で、イザークの要望通り、一気に戸を全開にしていた。
 小屋の周りに屯っていた六ツ目が、開いた戸から雪崩れ込んでくる。

 戸口に向けられたイザークの両手から、凄まじい勢いと威力の遠当てが放たれた。
 小屋の周り、足の踏み場もないほど、無数に集まった六ツ目を、言葉通り蹴散らしてゆく。
 すかさず、イザークは外へと飛び出した。
 戸を開けた男は彼に言われた通り、すぐさま戸を閉じ、閂を掛ける。
 だが、六ツ目は転がされただけ、跳ばされただけで、死んではいなかった。
 ジャージャーと耳障りな鳴き声を上げ、転がった体を揺らして起き上がろうとしている。
 彼の言葉通り、かなり、衝撃に強い化け物だった。

 ――イザークは強い

「あれが納屋か」
 転がる六ツ目の中、イザークは少し離れた所にある納屋を見つけた。

 ――とっても強い

 何とか起き上った六ツ目が、集団でイザークに襲いかかって来ようとしている。
「寄るなっ!!」
 イザークの体から同心円状に強い気が、放たれた。
 六ツ目は、その気に弾き飛ばされ、またしても地面に転がってゆく。

 ――あたしは最初のころ、この世界の人はみんな
 ――イザークみたいな特殊な力を持っているのかしらと思っていたけど
 ――どうやらそうではないらしい

「お……おい、すっ、すげかったな、今の遠当て」
「え? あ……おれ、目つぶっていたから見てなかった」
「お……おれも、六ツ目が怖くて」
「おれ、戸の陰で見えなかった。そんなにすげかったのか?」
「すげかったよ、おれ、遠当てなんて人ひとり、転ばすぐれーしか見たことなかったのに、あの若いのときたら……」
 イザークの遠当てを目の当たりにした男は、その凄さに目をパチクリとさせている。
 イザークよりも年上の、大の男たちが化け物を怖がるのは少々情けないが、一匹でさえ勝てぬ相手が数え切れぬほどとなれば、それも致し方ないのだろう。

 ――力のある人は、他にもいることはいるらしいのだけど
 ――まだ、彼程の人に出会ったことがない
 ――大抵は、あたしと同じ平凡な人達で
 ――傷を負えば治るのに何日もかかる
 ――イザークのように、瞬く間に回復したりしない

「ケガ、ケガ、治療」
 ノリコはイザークが肩に抱えて来た男の人を指差し、他の人の服を摘まみながらにそう言っている。
「あ……そういや」
 摘ままれた人もそうだが、他の面々も、ノリコにそう言われるまですっかりケガ人のことを忘れていた。
「おれも足を噛まれてんだった」
 二人の肩を借りて小屋に逃げ込んだ人も、今更のようにその痛みに気づいた。
「でも、緊張で身体が震えて……」
 イザークとノリコ、二人に出会わなければ、彼らはどうなっていただろうか……

 ――彼は明らかに、他の人達と違っていた

 納屋の中、イザークは六ツ目除けの香の石を見つけていた。
 開けたままの納屋の戸の向こうに、じりじりと寄って来る六ツ目らが見えている。
「なんて六ツ目の数だ、いくら蹴散らしてもきりがない」
 乾いた足音と耳障りな鳴き声を撒き散らしてくる六ツ目に溜め息を吐きながら、イザークは香の石を一つ、手に取った。
 右手に乗せたそれに、気を集中させる。
 香の石は彼の手の平の上でふわりと浮きあがり、燃え上がると、薄い煙を立ち上らせていた。
 途端に、六ツ目が後退ってゆく。

 ――でも、不思議と、そんなことは気にならなかった

 香の石が入った袋を片手に、イザークは手の平の上で石を燃やしたまま、納屋から出てくる。
 六ツ目除けと言われるだけのことはある。
 その匂いがよほど嫌なのか、六ツ目は遠巻きにイザークを囲んでいる。
 襲ってくる気配すらない。

 ――最初にあたしが、彼を信頼できると判断した条件に比べてそれは……
 ――いわゆる、どうでもいいことだった

「音が止んだ……六ツ目が遠ざかって行ったんだ」
「やったぜ、あの若いの!」
「助かったー!!」
 飛び交っている、聞き取れる単語や分かる単語から、もう心配いらないのだと分かり、ノリコの顔にも笑顔が戻っていた。


「四隅のランプに、石を置いて燃やしてきた」 
 外の様子を確かめながら、イザークが小屋の中に戻ってくる。
「よくまあ、無事で……信じられない」
「あ―――、これで六ツ目が眠る朝まで安心できる」
「いやー、すげーな、あんた」
「…………」

 ――えーと、ご苦労様とか、お疲れ様とか
 ――こっちの世界でなんていうんだろう
 ――おじさん達、めいめい違う言葉を使っているから
 ――どれがどれだか、わかんない
「えーと、えーと」
 イザークを労いたいのに、その為の言葉が浮かんでこない。
 戻ってきた彼を出迎えている彼らの言葉も、全員違う言葉で、どれが労いの言葉なのか、見当が付けられない。

 ――えーと、確か前の町で見かけたあの光景
 ――仕事を終えた人にかけていた言葉は…………