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自分らしく
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彼方から 第二部 第一話

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 仕方なく、記憶を頼りに、今の場面に合った――あるいは似たような場面を思い返し、ノリコは何とか、その時に聞いた言葉を思い返そうとしていた。

「ご、ご、ごく……」
 持ってきた香の石の入った袋を、小屋の隅に置いているイザーク。
 他の面々も、とりあえず六ツ目の襲撃の心配がなくなったことで落ち着き、何かしようと動き出していた。
 そんな中、自分に掛けられたノリコの片言の言葉に、
「なんだ?」
 と、イザークは振り向き、問い掛けた。

「『ごくろーさまでした、あなた』」
「―――ッ!?」
 思わず、体を引いていた。
「…………あなた?」
 意識したくなくても、その言葉に顔が赤くなってゆく。

 ――あれ?
 イザークの反応に、ノリコの表情が固まった。

 ノリコの言葉を聞いた途端、イザークに助けられた地元民の面々がワッと寄って来て、話し掛けてくる。
「え―――、あんたら、夫婦だったんかいな、えれー、若い夫婦だなー」
「いや、実はおれも、あんたらはどういう二人連れかと思っとったんだが、そーか、夫婦か――」
「違う、これは……」
「やだねー、照れるこたねーだろうが」
「照れているわけではない!」

 ――このみんなのリアクションは…………
 ――もしかして
 ――あたし、何か間違っちゃったこと言っちゃったのでは……
 イザークを中心に笑顔でワイワイと何か言っている男の人たち。
 一見、楽し気に見えるが……その中心人物であるイザークの表情に、ノリコの顔は蒼白になっていった。



「ああ、そういや……」
 六ツ目が大人しくなり、風が木々の枝を揺らす音や夜に動き出す動物たちの鳴き声が良く聴こえる。
 落ち着きを取り戻し、彼らの一人が口を開いた。
「おれ達も山に登る前に聞いたな、クーデターの首謀者が逃げ込んだとかで、ふもとの町じゃケミル派の軍が大騒ぎしているらしい」
 小屋の暖炉には、火が焚かれている。
 ベッドの上には、イザークが抱えていたケガ人が、テーブルの上にはランプが灯され、温かいお茶が、テーブルに着いている面々の前に置かれている。
「ああ、あんたはそれを避けて、山道をとったわけだな」
 イザークの要望で小屋の扉を開ける役をしていた男が、そう、彼に話し掛ける。
「連中の中には、何かと因縁をつけて金を巻き上げたりとか、性質の良くねぇのが多いと聞いた」
「そんなのがいるのか?」
「いるともさ、まっ、この兄ちゃんじゃ返り討ちにしちまうだろうが、だったらだったで、後々、面倒になりかねないもんな」
 街とは離れた山の中の村や町にも、そんな、政治の波が押し寄せている。
「なんたって夫婦となりゃ、一人の体じゃねぇ、大事にしなきゃ」
 男たちの一人がそう言って、勝手に一人納得し頷いている。
「だから……そうではないとさっきから…………」
 一人納得し頷いている男に、イザークは少し赤くなりながら眉を潜め、否定しようと試みてはいるが……無駄な努力かもしれない。
 イザークの口調とその表情を、隣に座るノリコが窺っている。
 自分が発したさっきの言葉――あの言葉で、彼が困っている……それは、分かっていたから。
「あれは単に、充分に言葉を把握していない、彼女の間違いで…………」
「まあまあ、カカリでも食いねぇ、焼けたから」
 イザークの反論は、二人が夫婦だと思い込んでいる男たちの耳には入らず、悉く、逸らされてしまっている。
 一人、テーブルに着いていなかった男が、大きな笊に湯気の立つカカリを入れて戻ってきた。
「ほれ、あんたも。甘くてうまいよ」
 そう言って、ノリコの手の上に焼けたカカリを乗せてくれた。
「?」
 ――何、これ
 堅い殻の丸いカカリ。
 焼きたての温かいそれを、ノリコは怪訝そうに見詰めるだけ。
 そう、ノリコにとっては初めてのモノ。

「ああ、かしてみろ、これを割るには少し、コツがいる」
 初めての代物を渡され、どうしたら良いのか分からずにいるノリコに、イザークはそう声を掛け、手を差し出している。
「かしてみろだと、いやー、いいもんだな、若夫婦は」
「おれも若いころは、あんなんだったかなー」
「言うな言うな、また兄ちゃんが照れるぞ」
 すっかり夫婦扱いされてしまっている。
 確かに、事情を知らない者から見れば、『夫婦』と言われても違和感はないかもしれない。
「…………」
 だが、イザークは彼らの思い込みに額に手を当て、どうしたものかと困っている。
 反論した所で、『照れ隠し』と思われるのが関の山だ……言えば言うほど、そう思われてしまうのが眼に見えている。
 結局、黙っているのが一番――という結論に至ってしまう。
「…………」
 ノリコはノリコで、さっきから飛び交っている『ロジー(夫婦)』という、聞き慣れない言葉の意味をイザークに訊ねたいが、何となく怖くてできず、彼に割ってもらったカカリを食べながら、困り果てている様子を見ているしかなかった。

「ん? どした、香の石はしっかり燃えているか?」
「ああ」
 ベッドに寝かされていたケガ人が体を起こし、窓から外の様子を見ている。
「六ツ目が遠巻きにこっちを窺っている」
 夜の闇の中、森の木々がさらに黒く浮かび上がって見える。
 小屋の周りは開けた土地で、大きな岩が点在している。
 六ツ目は、その岩の間や、岩に寄り添うようにして生えている低木の周りに集まって、小屋の方を見ていた。
「本来は、山向こうの沼地にしか、住んでいない奴らなのになァ」
 窓の外をじっと見詰めながら、『どうして』という言葉を含ませ、彼は呟いていた。
「だよなァ、そう思ってたから、おれ達も野宿するつもりで安心して、日が暮れるまで山菜採りに没頭してて……」
「うん、香の石なんて全然いらないだろうと思ってたぐらいでさ」
「あのさ、今日みたく、『こんな所にこんなのがいるはずないのに……』ってやつな、各地で起こってるらしいぜ」
「あの有名な樹海の花虫、あんな化け物、おれのおやじがガキの時にゃ、いなかったって話だ」

 ――樹海の(ゴルダゼル) 花虫?(ニーナ ポア)

 彼らの話を、額に手を当てたまま聞いているイザーク。
 何かを思っているのか、どこかを見ているようで見ていない眼をしている。
 彼らの会話を聞きながら、意識はどこか違う所へと、行ってしまっているようだ。
 ノリコは、樹海・花虫という彼らの言葉に、何か、気付き始めていた。

 ――樹の(ゴルダ)海(ゼル)……いっぱいの樹木
 ――花の虫(ニーナ ポア)……花のような虫
 ――あの時のあいつ
 ――あの触手が、花と言えば花のようだし……

 ノリコの脳裏に、初めてこの世界に来た時に見たあの怪物……棘のたくさん生えた芋虫のようなあの怪物の姿が、浮かんでいる。

「あちこちで、戦やいざこざは日常茶飯事だし……」
「なんかおかしいよ、最近の世の中」
「そりゃあ、おかしいよ、なんたっておまえさ【目覚め(アジール)】が現れたって言うじゃねぇか、あの樹海によ」

 ――『アジール』?

「つまり、例の【天上鬼(デラキエル)】が目覚めるってことだぜ?」
 
 ――『デラキエル』?

「いったい、これからこの世はどうなっていくんだろ」

「イザーク」