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自分らしく
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彼方から 第二部 第二話

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 招き入れられた三人の人物を見て、ガーヤは思わず、声を漏らす。
 三人とも身なりは貧しかったが、その内の二人は若く、バーナダムとあまり年の差を感じさせなかった。
 残る一人は茶色い髪をした中年の男性で、身なりでは隠すことの出来ない威厳が、感じられた。
「すまん、世話を掛けることになるが……」
「とんでもない、あたしゃかつて、あなたに救われた灰鳥一族の一人。いい恩返しになりますよ、ジェイダ左大公」
 威厳を感じさせながらも、それで人を威圧することのない、柔らかな物言いと物腰。
 ガーヤは、自分に頭を下げて来たその中年の男性を『ジェイダ左大公』と呼び、心を込めて彼の両手を握りしめていた。

「ケミル右大公とそのバックボーンである軍のお偉方達は、やっと収まりかけた戦を、また再燃しようとしている」
 簡単な食事を終え、彼らはガーヤと共に、何やら話し合っている。
「隣国タザシーナの干渉を受けているという訴えが、アンバラ地方からあったというが、これはおかしい。何故なら、それは既にわが父ジェイダ左大公の外交努力で、ほぼ解決の道に進んでいたんだ」
 一緒にいた若い二人は、ジェイダ左大公の息子たちのようだ。
 ガーヤに、今現在のザーゴの状況や、自らの考えを熱く語っている。
「己の権力拡大を夢想する野心家たちの為に、民の命や金を犠牲にできるか!?」
 テーブルに拳を叩きつけ、左大公の息子は、戦が始まれば一番の犠牲を被る民のことを心配している。
 そんな彼らの元に、ノリコは果物の入った笊を持ってくる。
 彼女にとっては聞き慣れない単語が多く、話の内容の半分も理解できなかったが、それでも、ゆっくりと話し始めた左大公の言葉の中に、気になる単語を見つけていた。
「今、この世は妙な気配に包まれている……好戦的で権勢欲の強い人物と、それに迎合する者達だけが、各国の政治の第一線に現れ出している」
 ノリコは皆の話の邪魔にならぬよう、そっと、静かに、果物をテーブルに置いた。
 彼女に礼を言ってくるバーナダム。
 彼女も、笑顔を返した。
 バーナダムに刃物を突き付けられた時は怖かったが、でもそれには、訳があったのだから。

「平和に努めようとする穏健派はなぜか、次々と蹴落とされて消えていくのだ……そしてそれに合わせるかのように、大気はこの時期に【目覚め】が樹海に出現したと、我々に示してきた」
 目覚め――この単語に、ノリコは思わず反応した。
「それによって目覚める【天上鬼】は、恐ろしい力を発揮できると言われている。これらの符合は、何を意味しているのだろうか、このわたしの嫌な予感は、逃れようのない運命なのだろうか」
 皆が話している部屋を出て、その部屋から漏れる灯が照らす廊下で、ノリコは左大公の話に振り向いていた。
「幸いにも行方が分からず、どの国も手に入れてないようだが、このままではすまんだろう……皆が、血まなこになって捜している、そのうちきっと、何かが起こる」
 ジェイダは、その苦悩に額に手を当て俯き、テーブルに肘を着いてゆく。
「それが分かっていても、もう、今のわたしにはどうすることもできん……」
 国を憂い、民を憂い、世界の行く末を憂いている。
 ガーヤの言った通り、この人物がクーデターなどという、短絡的な騒動を起こすような人間には見えない。
 もっと穏便に、恐らく、話し合いを以って、物事の解決を図ろうとするだろう。
「お父さん、とにかく今は逃げることを考えましょう、捕まれば無実の罪で処刑されます」
「母と妹は心配いりませんよ、警備隊長がついていますし、彼らの目的は我々なんですから」
 二人の息子が、父の憂いが少しでも晴れるよう、言葉を掛けている。
 ノリコは、彼らの言葉をどこか違う世界での出来事のような、そんな思いで聞いていた。

 ――【目覚め】が樹海に現れた
 ――確か、山のおじさん達も、そう言ってた
 ――あたしが、この世界に飛ばされた場所は【樹海】……

『そのことは誰にも言うな』

 不意に、イザークの言葉が耳に響く。
 胸が、まるで何かの注意を促すかのように、脈を打つ。

 ――まさか

 ――まさか……よね
 ――だ……だってあたし、【天上鬼】なんて知らないし
 ――全然知らないし
 ――何の力もない、ただの平凡な女の子だし
 ――ち……違うよね
 ――うん

 ――違う……

 ノリコはただ、自分にそう言い聞かせていた。

「今日は大変だったね」
 同じ布団の中、少し嬉しそうに、ガーヤはノリコにそう話し掛けていた。
「あんたも部屋取られちゃったし、ま、とりあえず、今晩はあたしと一緒に寝よう」
「はい、おやすみなさい」
「しかし、明日はなんとか彼らを、国外に逃がす算段をしなきゃならないね。イザークがもう一日うちにいてくれてたら、頼りになったかもしれないのに」
 布団の中、横になりながら腕を組み、そう呟くガーヤの表情は、雑貨屋の女主人のものではなかった。

 やがて……
 夜も明けようという時。
 それは起こった。

   *************

「重罪人を捕えろっ!! 手柄のチャンスだぞ!!」
 いきなり激しくドアが開かれ、大勢の足音と大声が家の中に雪崩れ込んだ。
 ザーゴ軍の制服を身に着けた男たちが、何十人とその手に剣を携え、我先にとガーヤの家に匿われた左大公を捕えに来たのだ。
「ケミルの一派だ!!」
 その声と音に飛び起きる左大公たち。
 すぐに剣を取り、バーナダムは窓から外の様子を見た。
「くそっ! すでに囲まれている! なんて人数だっ!!」
 
 ガーヤもすぐに飛び起き、部屋の戸口に調度品を積み上げバリケードを築くと、床に設えられた扉を開く。
「地下の物置だよ! ノリコ、お入りっ!!」
 そう言って彼女の手を引き、有無を言わさず、荷物も一緒に中へと押し込んだ。
「きゃ」
「あんたの服と荷物だ、あたしがいいと言うまで、ここを出るんじゃないよ」
 部屋の明かりを背に浴びながら、ガーヤはそう言い聞かせる。
「ぶち破れっ!!」
 その間にも、家の中を大勢の人間が走り回る音や、戸に体当たりをする音が響いてくる。
 ガーヤが積み上げたバリケードが揺れている……体当たりの勢いに負けそうになっている。
「もしあたしがここへ戻って来なかったら、何とか一人でイザークを追っておくれ」
 激しい体当たりの音を背に聞きながら、ガーヤは済まなそうに、物置の中のノリコを見る。
「そして、謝っといておくれね……ちゃんと、あんたの面倒みれなくて済まなかったって」
 彼女は、物置の扉を閉じた……
「おばさん――」
 扉が閉じられてすぐ、体当たりの音は激しさを一層増し、やがて、物が崩れる音と共に、男たちの声が部屋中に響く。
「開いたぞ!!」
「なんだ、ババァが一人かっ」
「捕えろっ! 重罪人を匿った罪だっ!!」

「ざけんじゃないよっ!!」
 ガーヤの一喝が響く。
 その右手には、剣が一振り、刃を煌めかせて握られていた。
「もと灰鳥一族、戦士の一人、ガーヤ・イル・ビスカ! 舐めてかかったら、痛い目見るよっ!!」
 数人のザーゴの兵士相手に切り掛かるガーヤ。
「うわーっ!! 何だ、このババアはっ!!」