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BLUE MOMENT4

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 とにかく、アーチャーの部屋に居られないなら、公の場所にいる方がいい。だけど、もう誰もいないけど、食堂にいたら人目につくおそれがあるし、だったら比較的人気のない一階へ行った方がマシだ。
「おい! どこに行く!」
 追いかけてくるアーチャーは無視だ。
「くそっ!」
 最悪だ!
 最低だ!
 何が最低最悪って、アイツだアイツ!
 自分だった奴だからって、何してもいいのかよ!
 なんだって、キャスターのランサーまで使って!
 なんで、そこまでして俺は怨みを晴らされなきゃならないんだ!
「くそ……っ」
 キャスターのランサーには、なんでも話すんだな!
 俺には、なんにも……。
 ああ、なんか、話を聞けって言ってたけど、どうせ小言だろう。実のある話とは思えない。
 当たり前か、俺に話すことなんか、なんにもない。あるとすれば怨み言くらい。
 あっためてもくれない、キスもくれない。
 触れる時はヤる時で、終わってへとへとになった俺がシャワーで身体を流した後は、もう部屋にいなくて……。
 今はもう、触れることもなくて……。
 こんなこと……、いつまで…………。
 俺はいつまでここに居なきゃならないんだ……?
 踏み出した脚は、俺自身を支えられず、そのまま廊下に倒れ込んだ。
 ああ、また、……追い出してしまった……………………。



◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆

「……だとよ」
 ランサーのクー・フーリンの紅い瞳が私を見据えているのはわかっていた。が、その顔を見ることはできなかった。
 嬉しさ反面、いろいろと複雑すぎて、どんな顔をすればいいのかわからない。したがって、彼から見た私は無表情であることだろう。
 好きではない者とセックスはできない、と士郎は吐露した。キャスターのクー・フーリンに問い質され、半ば怒りながら、士郎は自身の気持ちを……。
 その言葉に私は喜ぶのだが、続いた言葉に衝撃を受けている。反吐が出そうなくらい嫌なことでも我慢できる、と……。
 士郎は私のことを好いてはいるが、セックスという行為は好きではない。
 私が望むから、と士郎は義務的にその行為に応じていた……。
「…………」
 頭の中が真っ白になった。
 先日、クー・フーリン’Sに夜中に呼び出され、士郎とのことを訊かれ、手詰まり状態であることを渋々こぼした。彼らの、手を貸してやる、という提案を受けた私は、今、士郎の本心を聞き出すと豪語したキャスターの策に乗り、食堂の出入り口の影に隠れ、ランサーとともに気配を消して窺っている。
 はじめは警戒して、士郎は私の気配を探っていたが、そこはキャスターがうまく誤魔化したようだ。
 相変わらず、衛宮士郎は魔術に疎い。キャスターの施した術で他人の気配を遮断されれば、士郎にはもう我々の気配を追うことなどできない。
 ほっとしながらも、少々癪だ。こんな簡単に騙されるなと士郎の頭にゲンコツを落としたい。
「ま、あとはお前がちゃんとわからせるしかないんじゃねーの?」
「私は、…………そんなに、……わかりにくい…………だろうか……?」
「おれらにしちゃ、駄々漏れだと思うがよ。あいつ、鈍いだろ? お前と同じで」
「む……」
「きっちり話つけろよ? もう世話してやれねえぞ。何回もこんなことしたら、いくら鈍いシロウでも気づく」
「ああ……」
 それに、こんな騙し討ちのようなことは、いくら手詰まりだからといってもしたくない。今回きりだ。それはクー・フーリンたちも同意見だった。
「それから、忠告だ。グズグズしてると、どこのどいつだかに掻っ攫われるぞ」
「……わかっている」
 確かに厨房で働くサーヴァントたちは士郎に興味を示している。それどころか、気にかけてもいる。それに、カルデアのスタッフの中にも士郎に声をかける者がいることも知っている。
 のんびりはしていられない。魔神柱の件もほとぼりが冷め、士郎が厨房や食堂にいることに慣れてきた者たちが、士郎に目を付けるのは時間の問題だろう。
(士郎がカルデアに馴染む、ということに文句はない。だが、特定の誰かと懇意になるというのは……)
 考えるだけで胸がざわつく。
 落ち着かなさを覚えて、食堂の中へ再び目を向けると、士郎とキャスターの問答は続いている。
 なぜか、私が士郎を憎んでいると思い込んでいるようだ。それは、あの地下洞穴で斬り合う前までのことだ。今は憎んでなどいない。どうして士郎はそんなふうに思っているのか……。
 キャスターがいろいろと言葉を尽くして諭しているが、埒があかない。もう彼に丸投げしているのは無理だろう。
「もういい、クー・フーリン」
 二人の座るテーブルに近づいた。
「おう。おれにもこれ以上は無理だわ」
 キャスターは立ち上がり、私と入れ違いに食堂を出て行く。
「なんで……」
 私を見上げ、士郎は呆然としている。
「士郎、少し話をし――」
「なんなんだよ、お前! そんな……、殺すのは簡単だから、散々恥ずかしい目に合わせてやろうってことかよ! そんなに憎んでるんなら、さっさと殺せよ! 今度は抵抗なんかしねえよ!」
 椅子を蹴って立ち上がった士郎は、怒り心頭だ。どうにか宥めて話をしなければならない。
 だが、士郎は聞く耳を持たず、食堂を出てしまう。何をどう言えばいいかと考えながら追いかけて、そして、
「し、士郎! どうし――」
 言葉が詰まる。
 崩れ落ちるように倒れた士郎の側に立つのは……。
(私と……同じ姿……)
 カルデアにエミヤという名の英霊は、アサシンがいるのみ。あの黒いアーチャーである、私と同じ派生の存在は、ここにはいない。では、あれは……。
 見間違うはずもないその姿は……。
 褪せた髪、染まった肌、暗く沈んだ瞳。それは、まさしく、私という存在(モノ)。
「六体目……なのか?」
 足下に倒れた士郎を、そいつは抱き上げた。
「な……」
 士郎の意識はないのか、ぐったりとして、そいつにすべてを預けている。
 どうなっている?
 これは、どういうことだ?
 六体目は士郎と融合したはずだろう?
 それが、なぜ士郎と離れて……?
「おい! どこに行く気だ! 士郎を、」
 返せと踏み出せば、強くはないが風圧を感じた。
「なん……」
 六体目が私を睨んでいる。これは私と同じ霊基。言うなれば、まったくの同位体だ。
 だというのに六体目は私を憎む者であるかのように睨みつけ、まるで士郎を私に渡すまいとしている。
(なぜ、自らの意思で動ける?)
 本来、自我などない、ただの霊基のはずだ。
 それが士郎に融合したことで、意思を持った、ということなのだろうか?
 踏み出しかけた足は止まり、近づくことができなかった。
 ただ圧を感じただけで切り刻まれたわけではない。いや、切り刻まれようとも怯みはしない。だが、その風圧は、士郎からのものだと思える。
(拒まれている……)
 士郎は、一度も私を拒んだことはない。
 口では、嫌だ、やめろ、と言いながら、私を受け入れていた。セックスだけの話ではない。何においても、私の言うがままに、私が指図するままに……。
 それが……、今、こんな形で拒まれている……とは……。
「士ろ……」
 六体目が意識のない士郎を連れていってしまう。
「やめろ……」
作品名:BLUE MOMENT4 作家名:さやけ