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BLUE MOMENT4

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 そんな状態であったから、今朝も起きた時から士郎はこちらを見ず、私の腕の中から出ていった。シャワーを浴びると言って……。
 背を向けられ、思わず引き寄せて、そのままベッドに押し倒したかった。そうすれば、また以前のように、と馬鹿な考えがよぎった。
(そんな都合のいいことなど、あるはずがないというのに……)
 起き抜けのやり取りを思い出して気落ちする自身を叱咤し、胸の内の纏まらないものをひた隠し、理性を全身に張り付けて、士郎にもっともらしい顔を見せる。
「士郎、それでは何も変わらない。本当にいいのか? お前には何も言うことがないのか?」
 琥珀色の瞳は私を映している。だが、士郎が今、何を考えているかなど、まったくわからない。真一文字に引き結ばれた唇は何も語ることはなく、
「……ないよ」
 ぽつり、と声がこぼれていった。
「なくはないだろう? お前はいつも何も言わない。そのことが魔神柱の一件になったとわかっているだろう。今度のことも同じだ。なぜすぐに言わなかった? 私はそんなに信用ならないか? 私は、」
「エミヤ」
 宥めるように呼ばれ、言葉を切る。私を見ていた士郎は、再び下を向いている。
「ぁ……と……」
 しまった。
 また私は、士郎を責めるようなことを言い募っていたようだ。
「まあ、とにかくやってみようじゃないか」
「所長代理、そんな安易な、」
「やってみないことにはわからない。とにかく何度か試してみる必要があると思うよ、私は」
「そ、そうかも、しれないが……」
「では、エミヤの部屋に行こうか」
「え?」
 ベッドが必要だから、と所長代理は我々を先導した。
 我々の部屋へとんぼ返りし、所長代理と私は扉の側に立ち、士郎は部屋の中ほどへ歩いていく。その背中が、とてもじゃないが不安を掻き立てる。
「じゃあ士郎くん、六体目を出して」
「え? 出すって……?」
 ふり返り、首を傾げる士郎に、
「もうやり方はわかっているんじゃないのかい?」
 所長代理は有無を言わせない。
 やり方がわかっている?
 本当だろうか。衛宮士郎は基本的に魔術に疎い。対魔力もずっとなくて、私もいまだに強烈な魔術には手も足も出ないが……。
 いくつも疑問を浮かべながら様子を窺う。
 士郎は、じっと所長代理の顔を物言いたげに見ていたが、諦めたようにベッドに腰を下ろした。
「…………やってみる」
 ぼそり、とこぼし、士郎は目を伏せる。
 しばらくなんの変化もなく、やはり無理だったのではないかと思った矢先、不意に、ぐらり、と士郎の身体が揺れ、六体目が現れた。途端に士郎はベッドにその身を沈めている。
「なっ!」
 本当にやってのけた。
 所長代理の言う通り、士郎は六体目を分離させた。
 ということは、分離する意味を理解している、ということになりはしないか?
 新たな衝撃に言葉もない私を、ベッドの側に立っている六体目は見ている。その眉間には深いシワが刻まれ、忌々しそうなことこの上ない。
「エミヤ、君は彼についていって、士郎くんを説得するんだ」
「説得?」
「おそらく士郎くんは君との関係性において、なんらかの矛盾を感じる時に六体目を追い出してしまうんじゃないかと思うんだよ」
「なんらかの……、矛盾……?」
 やはり、士郎は分離する原因がわかっているのか……。
 ならば、どうして改善できないのだ?
「まあ、私の想像だからね、確か、とは言えないけれど……。エミヤに迷惑をかけてはいけないだとか、ここに居ていいのだろうかとか、そういう気持ちが根底にあってね、その上で、彼はエミヤを求めているのかもしれない。だからね、自分を抑えようとしながら、それでもエミヤと一緒にいたいと思ってしまったり、もしかすると、誰かに嫉妬していたり、きっと士郎くんの中では、そういうのはいけないことだ、とでも戒めているんじゃないかなと思うんだよ」
 所長代理の言うことはよくわからない。
 嫉妬などいったい誰が誰に?
 私ならやりかねないが、士郎は……。
 ああ、いや……、士郎は好きでもない者とセックスはしないと……。
 だが、それらしい言葉は一つも士郎からもらったことはない。
 勘違いではないのか?
 士郎はそんなふうに、私には拘っていないはずだ。何せ、関係ないと言い切ったのだ。私とは一切関わりがないと……。
「そんなことで……」
「普通はね、もっと自分に甘いものだよ。どうしようもないんだからしようがないと開き直れるものだよ。けれど、彼はそういうふうに許す気持ちを自分には向けられないのだろうね」
 それは、エミヤシロウであれば仕方がないことかもしれない。何しろ自身への配慮など皆無なのだから。
「だからといって……」
「そう。だからね、エミヤ。君は士郎くんを説得し、なおかつ納得させてこなければいけない」
「説得し、納得させる……」
 難しい案件だ。しかし、
「そうしなければ、士郎は……」
「ああ、そうだ。そうしなければ、彼はいつまでも六体目を分離させてしまう。それが意味することは……、言わなくてもわかるね?」
「もちろんだ」
 頷いて六体目に歩み寄る。
「そういうことだ。お前にも協力してもらうぞ」
 むっとしたまま、私に剣呑な視線を送るだけの六体目は、まだ納得がいかない様子だ。
「お前も私と同じ霊基だというのなら、士郎の死など、望みはしないだろう?」
 じっと私を見据える六体目は、やがて諦めたように私に背を向け、ベッドに片脚をのせ、残る片脚は下ろしたまま、という半端な姿勢で乗り上げ、腰を下ろす。
 早くしろ、とばかりに視線を向けられ、六体目の背に右手を当てた。意識のない士郎の頬に触れる六体目を腹立たしく思うものの、仕方のないことだと自分を納得させる。やがて、
「…………ん、ろく……たい、め……?」
 薄く瞼を開けた士郎が六体目を呼び、その手で六体目の頬に触れる。
 やりきれない。
 なぜ、同じモノである六体目に嫉妬などしなければならないのか。苦い想いをこんな形で味わわされるなど……、ふざけるなと、憤りを吐きたい。
(ああ、いや、今は、士郎を……)
 思い直して瞼を下ろす。
 “六体目についていく”ということがどういうことなのか、所長代理にレクチャーなどされていないが、なんとなく六体目(こいつ)に集中すればいいのかもしれない、と当たりを付ける。
 案外、簡単に意識を六体目に移すことができた。

 かつん、かつん、と響くのは私の足音だろうか?
 いや、私は歩いているわけではない。ならば足音ではないのかもしれないが、硬い物同士が当たっているような音だ。
 確かめるために瞼を上げると暗い。だが、真っ暗闇でもない。
(仄かに明るい……)
 いったいなんだ?
 見渡すと、不思議としか言いようのないところに私はいた。右側と左側、ちょうど廊下のような場所の両側に窓のような四角いものがあり、ぼんやりと光っている。まるで、何かを映し出すためのスクリーンのようだ。
 この場所の光源はそれだけで、他に明かりは見当たらない。
(なんだ、ここは……)
 四角いスクリーンと言えばいいのか窓と言えばいいのか、よくわからないが、近づけば、そこには見覚えのあるものや、全く見たこともない景色が映っている。
作品名:BLUE MOMENT4 作家名:さやけ