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BLUE MOMENT4

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「エミヤ、それは――」
「部屋を頼む」
 所長代理の言葉を遮り、背を向けた。部屋に戻るわけにはいかない。まだ士郎は起きているだろうし、私と顔を合わせるのは気まずいだろう。
 知らず足が向かったのは、士郎がいつもいた、一階の窓だ。
「ここから……」
 士郎はここで何を見ていたのだろうか?
 震えながら、苦しげにして、ここで……。
 夜の闇に雪が舞っている。
「士郎……」
 もう触れることもできない。
 士郎に拒まれた私は、もうここまでなのだろうか?
 六体目の分離のことは、他の誰かに……。
 たとえば、クー・フーリンならば、士郎は受け入れるだろうか?
「そんな……」
 どうして私ではなく奴なのだ……。
 いや、だが、それは当然のことなのかもしれない。
 私は士郎を強姦し、傷つけてばかりいた。私が拒まれるのは道理だ。誰も文句が付けられないくらい、クー・フーリンに軍配が上がるだろう。
「それでもいい……、士郎が無事なら……」
 何事もなくここで過ごすことができるのならば、私が傍にいる存在ではなくても、他の……、アルトリアや、虎のようなあの人や、あの女神たちでもかまわない。
「……っくそ…………」
 なぜ、私ではだめなのだ。
 士郎と長くはないが、それなりに密な関係であったと自負できる。だというのに、私では、士郎を安心させることも、その身の安泰も保障することができない。
「私は……お前が…………っ」
 苦しくて、声が詰まった。
 この感情を、この先もずっと永遠に…………、こうやって燻らせていくのだと思うと気が滅入るばかりだった。

 部屋に戻れば、士郎はベッドに座っていた。まだ起きていたのかと訊けば、こちらを見ることもなく答える。
 私の顔など見たくもないのだろう。
 士郎とは反対側で、背中合わせに腰を下ろした。
「所長代理に頼んできた」
「……なに、を?」
 少し掠れた声に、空き部屋を頼んだことを告げる。
 そうして厨房の手伝いもしなくていいと、空き部屋の方は急かしているからと言えば、わかった、と静かな返答があった。
 私が横になってしばらくすると、士郎はシャワールームへ入っていった。
「何も、言うことはない……か……」
 さぞ、せいせいしていることだろう。この部屋にいることが、どれほど苦痛だったかなど私にはわからない。
 わかりたくもないが、私は少し期待していた。士郎が私のことを好いているというようなことを言っていたから、自分は私のものだと六体目に言っていたから、そう易々と出て行きはしないだろう、と。
 だが、士郎は、厨房のことは気にしたようだが、部屋を出ることには、さして何も言うわけではなかった。
 こんなことなら、もっと早くに別の部屋を用意してほしいと頼んでやった方がよかったのだろうか。
 私と過ごす時間は、士郎にはただただ苦痛でしかなかったのだろうか。
 考えれば考えるほど、落ち込むばかりだった。



*** *** ***

「ねえ、ダ・ヴィンチちゃん」
「所長代理、だよ。立香くん」
「あ、ごめ、所長代理」
「またもやマシュと一緒に私の工房へ来て……。今度は、どうしたんだい?」
「……うん、えっと……、士郎さん、エミヤとなんかあった?」
「…………立香くん、どうしてそんなことを訊くんだい?」
「なんか、よそよそしいっていうか……、二人とも機嫌悪いっていうか……」
「うーん……」
「ねえ、何かあったの?」
「あったんですか?」
 マシュと口を揃えて立香は訊く。
「そうだねぇ……」
「やっぱり何か知ってるんだね、所長代理」
 立香が、ずい、と前のめりになって問い質す。
「試したんだよ」
「試す?」
「エミヤの六体目が士郎くんから離れないようにと」
「そ、それで?」
「見事、失敗」
「え……、それじゃあ……」
「士郎さんは、まだ?」
「うん。そう。その上、さらに拗れちゃってね……」
「……さらにって」
「うーん……、士郎くんは完全にエミヤをシャットアウトだよ」
「「ええっ?」」
「時期尚早だったとは思ったんだけど、カンフル剤になるかもしれないとの可能性に賭けてね、あえなく……」
「どどどど、どうすんのっ? これから!」
「さあ?」
「しょ、所長代理! なんとかしてくださいぃっ!」
 マシュが懇願する。
「なんとかといってもねえ……。士郎くんが受け入れなければ、エミヤもエミヤの六体目も士郎くんに弾かれてしまうから……」
 立香とマシュは呆然と椅子に座ったまま言葉を失っている。
「ねえ、ダ・ヴィンチちゃん……」
 ようやく口を開いた立香は、大きなため息とともにダ・ヴィンチを呼んだ。
「何があったんだろう……」
「何が、とは?」
「なんだか、士郎さんが歩けるようになったくらいから、急に、あの二人がおかしくなっていったじゃないか。だから、何か原因があるんじゃないかって……」
 ダ・ヴィンチは目を丸くして沈黙した。
「ダ・ヴィンチちゃん?」
 訝しげに首を傾げた立香が呼べば、
「はぁ……。仕方がない、白状するよ」
 ダ・ヴィンチは観念したように椅子に座り直して姿勢を正した。
「は、白状? ダ・ヴィンチちゃん? ……な、何したの?」
 恐る恐る訊く立香に、ダ・ヴィンチはにっこりと笑みを浮かべる。
「煽っちゃったんだよねー」
 明るい声で言ったダ・ヴィンチに、立香が唖然とする。
「は? あお…………?」
「あ、煽るとは……、所長代理、いったい?」
 言葉を忘れる立香の代わりにマシュが訊ねた。
「ほら、あの二人、じれったいだろう? だから、つい」
「つい、って……、い、いったい……、何を……?」
 ようやく口を開いた立香が、青くなりながら訊く。
「エミヤはモテるんだぞって、士郎くんのお尻を叩いたつもりだったんだけどねー」
「…………」
「しょ、所長代理……」
 沈黙の立香。開いた口の塞がらないマシュ。
「ね…………」
「ん? 立香くん? “ね”が、どうしたんだい?」
 まるで思い当たる節がない、とばかりに訊くダ・ヴィンチに、ふるふると拳を震わせ立香は、椅子を蹴って立ち上がる。
「ねー、じゃないよ! なんでそんなことしたのーっ!」
「ごめーん」
「てへペロ、っじゃ、ないでしょっ!」
「いやぁ、ここまでなるとは思わなかったんだよー」
「どーすんのっ? あの二人、ものすごい、拗れちゃってるじゃん! それに、それに、六体目のことだって、まだ解決してないのにーっ!」
「えへへへー、どーしよう?」
「ダ・ヴィンチちゃん! どうにかしてよ! 天才でしょーっ?」
「天才でも万能でも、人の心の機微までは掴めないんだなー」
「そんな他人事みたいに……っ!」
「立香くん。こういうことはね、他人が口を出さない方がよかったりするものなんだよ。だから、少し、そっとしておこう」
「最初からいろいろ手とか口とか出してたの、ダ・ヴィンチちゃんじゃないかぁ!」
「いやだなあ、立香くん、人聞きの悪いことを言わないでくれたまえ」
「開き直ったね」
「ええ。直りましたね。もう、トリプルアクセルくらいに回りに回って開き直りましたね」
 目を据わらせる立香とマシュにも動じず、ダ・ヴィンチは笑みを崩さない。
「なぁんのことかなー?」
作品名:BLUE MOMENT4 作家名:さやけ