二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
自分らしく
自分らしく
novelistID. 65932
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

彼方から 第二部 第四話

INDEX|3ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 

 今の己の力に、満足気な笑みを浮かべるケイモス。
「体の底から力が湧きあがってきやがる、すげえ……」
 両の手で握り拳を作り、湧き上がる力を確かめている。
「だが、まだまだだ――まだ、使いこなしきれてねぇ」
 その力に溺れることなく、ケイモスは己の技量の未熟さを理解している。
「そうら、もっと寄ってこい……てめえらの力を、全ておれに差し出せ」
 ケイモスのその言葉に反応し、影が――ノリコが見た、虚ろな眼を持つあの影が、彼の周りに吸い寄せられるように集まってくる。
「おれは強くなる、誰よりも……」
 ケイモスの脳裏にカルコの町で出会ったイザークの姿が、高みから己を見下ろす、あの面立ちが蘇ってくる。

 ――そして、あいつ……
 ――イザークとか言ったか
 ――おれに初めての敗北感を味あわせてくれた男……

 ケイモスは剣を抜くと、岩山に向かって走り出した。
 そのまま勢いをつけて跳躍し、剣を頭上高く構える。

 ――てめえは許さねぇ!!
 ――待っていろ……
 ――いつかこの足でその顔踏みにじって

 ――嬲り殺してやるからよっ!!

 振り下ろした剣からは、とてつもない大きさの剣気が、弧を描いて岩山を襲う。
 何十ヘンベルはあろうかという岩山は、ケイモスの剣気によって真っ二つにされていた。

   *************

 ――ッ!!

 激しい痛みに、エイジュは思わず足を止め、その場に蹲っていた。
 何かを、『あちら側』が伝えてきたことは確かだが、何を伝えたかったのか、今一つ、ハッキリしなかった。

 ――夜。
 山奥の深い森の中。
 エイジュは傍にあった樹に手を掛け、そぼ降る雨の中、息を弾ませて立ち上がった。
 夕刻前から降り出した雨の中、濡れるのも厭わず走り続けてきたエイジュは、服も髪も濡れそぼり、毛先や服の裾からは雨水が滴り落ちている。

 ――『向こう側』で、何か動きがあったのかしら……?

 それは勘……イザークたちや、集まりつつある光たちに何かあれば、それはそれで、『あちら側』はハッキリと伝えてくるはずである。
 尋常では無い痛みに、エイジュはそう思ったのだった。
 大きく息を吐くと、胸を押さえる。
 未だ、その尋常では無い痛みが尾を引いている。
 彼女は致し方なく樹に寄り掛かり、腰を下ろした。
 
 二人の気配を探る。
 まだ、二人の気配は離れたままだった。
 ただ……彼らの傍には幾つかの光たちの気配もしている。
 一人で居るのではないことが分かる。

 走り続けたせいで、髪が乱れ、眼の前に落ちてくる。
 それを掻き上げようとして、濡れた服に動きを取られた。
 エイジュはそこでやっと、自分の有り様を振り返った。
 
 ――濡れ鼠とは正にこのことね……

 自分の姿に苦笑する。
 雨に濡れたところで、そのまま放っておいたところで、風邪など引くことはない。
 だが、一旦止まってしまった以上、濡れたままの状態では動き出し辛い。
 二人の気配がする方を見やる。
 あと半日も走れば、辿り着ける。
 雨も、朝までには止むだろう……
 陽が差せば、服も乾く。
 胸の痛みも、まだ引かない。
 エイジュは背を幹に預け、瞼を閉じた。
 暫しの休息をとる為に……
 
   *************

「ん……」
 何かの気配を感じたのだろうか……意識を失い、倒れたイザークの眉が顰められてゆく。
 覚醒し始めた意識に、人の話し声が届く。
「あの二人はどうなったのだろう」

 ――人の声が……

「ガーヤも一人なら、灰鳥一族の中でも優れた戦士でしたから、少々のことなら切り抜けられます」

 ――…………ガーヤ?
 未だ醒めきらぬ意識の中、何故、見知った者の名前が聴こえるのか、不審に思うイザーク。
 しかも、聞き覚えのない声音から。
「ただ、ノリコは普通の女の子だから……あんな騒ぎの中でどうなったのか心配で……」

 ――な……に?

 ノリコの名前を耳にした途端、半覚醒だった意識が、急激に戻ってくる。
「あんた達、今の話……!」
 一気に体を起こそうとして、動きを取られる。
 儘ならない動きに、イザークは自分の体を見やった。
「なんだ、これは……」
 両手、両足に架せられた鎖にイザークは困惑し、
「ここは……」
 掴めぬ状況に、そう呟いていた。


 通路を挟んで、左右向い合せになっている牢屋。
 その一室にはイザークが、そして丁度向かいの牢には左大公の一行が捕えられていた。
「では、あんたがノリコをガーヤに預けた人物だったのか」
 ガーヤとノリコの話をしていたバーナダムが、あまりの偶然に、驚きを隠せずにいる。
「すまん、我々が訪れたばかりに、彼女を巻き込んでしまった」
 左大公が、そう言って謝ってくる。
「だが、ガーヤは捕えられていない」
「確かめようはないが、きっとノリコを無事保護している」
 左大公の二人の息子たちも、牢の鉄柵に手を掛けながら、イザークのことを想い、そう言ってくれているのだろうが……

 ――しかし
 ――おれが『遠耳』でノリコの声を聞いたのは
 ――襲撃された時間よりずっと後だった
 
 彼らの話を聞きながら、冷静に彼女の声が聴こえた時間帯を思い返す。

 ――その後、さらに何かが起こったのではないのか……

 そのことが、イザークを不安にさせてゆく。

「こら! 何をくっちゃべっとる! 静かにせんと、水ぶっかけるぞ!!」
 話し声を聞きつけたのか、牢番の男二人が槍を手に、左大公たちの入っている牢屋の鉄柵を強く叩いてくる。
「あ……こいつ、気がつきやがった」
 もう一人が、イザークを見てそう呟く。

 ――ジャキッ!
 イザークは両の手の自由を奪っている鎖を掴み、力任せに左右に引いていた。

 だが……
「おいおい、何してる。そんな太い鎖、切れるわけないだろ」
 牢番が呆れた笑みを浮かべている。

 ――だめだ……
 鎖を軋ませ、今出せる、最大限の力で引き千切ろうとしているイザーク。

 ――薬のせいか、力が出ない
 ――これでは鎖どころか、この牢からも逃げられん

 たったそれだけの行為で、イザークの息は上がってきてしまっている。
 だいぶ時間は経っているが、昼間不覚にも吸ってしまった毒の影響は、未だ体内に留まっているようだった。
「はは、バカな奴。おいお前、ナーダ様に知らせてこい。もうお休みだろうから、侍従様にな」
 無駄な足掻きと、牢番はそう見たのだろう。
 それが、薬の成せる業だとも知らずに。
 本来の彼なら、この程度の鎖など問題にもならない。
 だが今は、並の人間と同じ――あるいはそれ以下か。
 故に、今の状況に、イザークは甘んじているしかなかった。

 ――ノリコは今
 ――無事でいるのだろうか……

 徐に立ち上がると、イザークは鉄格子の嵌められた窓へと歩み寄ってゆく。
 外は未だ雨の中、そこからでは当然、ノリコのいる町の方を望むことも出来ない。
 彼は、ゆっくりと窓のそばに腰を下ろしてゆく。
 どうにもならない状況下では、ただ、想いを馳せることしか出来ない。
 イザークの想いは一つ――

 ――どんな思いでその襲撃を見たのだろう
 ――あの時……