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BLUE MOMENT5

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 こんな日に限って、食堂は早く片付き、やることがない。
「は……」
 ため息をつきながら扉が開かないことに首を捻り、ロックを解除して部屋に入る。士郎は最後にロックをかけていったようだ。
 思わず、まだここにいるのかもしれない、と期待してしまった自分を嗤いたくなる。
 今夜を、いや、これからの夜をどう過ごせばいいのかと、思案しながら顔を上げ……て…………。
「……っ…………?」
 なん……だとッ?
「おかえり」
「…………」
 返す言葉もなく凝視してしまう。なぜなら、士郎は、その……、素っ裸で……。
(シャ、シャワーをあ、浴びたの、だとしても、な、なぜ、そのまま……? い、いや、なぜ、ここに?)
 士郎の声が右から左だ。ぐらぐらしながら、その言葉の意味を考える。
 は?
 なんだと?
 溜まっている……、だと?
 ああ、そうさ!
 溜まりに溜まっている!
 だが、お前は、拒んだじゃないか!
 だというのに、なんだ、これは!
 もう、わけがわからない!
 誘うような姿で、煽るようなことを言って!
 自分自身、何を言っているのかもわからないまま、目についた士郎の服を投げつけ、こいつのおかしなヤる気をどうにかおさめさせようとした。
 からかっているのか?
 あんなことをした私への腹いせだというのか?
 馬鹿にするな!
 いくら溜まっていても、士郎の気持ちがない行為などできるはずがない。
 好きな奴となら嫌なことでもできると士郎は言った。裏を返せば、士郎はセックスが嫌だったということだ。
 混乱の最中、部屋を移るから、と言って出て行った士郎を追わずにいたことを後悔するなど、この時の私は微塵も思いつかなかった。
 この時、私が動揺していなければ……、もっと冷静に対処していれば……。
 だが、こんな状況で冷静でいられる男がいるなら、見てみたい。
 私くらいなのか?
 この状況で右も左もわからなくなるくらい動揺するのは。
 ああ、あの騎士を自負する奴らなら、もしかすると冷静に対処するのかもしれないが……。
「……くそっ!」
 みっともない真似をするな、などと、腹立たしくて怒鳴ってしまった。
 私の気も知らないで、と……。
 冷静でいられなかった私のその言葉が、士郎の心を抉っているなど、私はやはり、全く気づかないままだった。

 ふと気づけば、午前三時を回っている。
 私は一人で部屋にいる。
 この時間、ベッドにいつも横になっていた士郎の姿はない。
 もう、ここにはいない。この部屋に士郎は戻ってこない。
「……………………」
 吐き慣れたため息すら、出てこなかった。
 士郎は新しい部屋に入ったのだ、すべてを諦めるしかない。もう、他のサーヴァントと懇意にしていても、私には何も言う権利はない。拒まれた私は、士郎が手を差し伸べなければ動いてはならない。
「っ……」
 胸が焼ける。
 ムカムカする。
 べつに、食あたりなどではない。
 誰かと過ごす士郎の姿がよぎって、何度も頭を振る。
(嫌だ……)
 頑是ない子供のようにそればかりを思う。
「士郎……」
 こんなにせつなく誰かを呼んだためしなどない。
(どうすればよかったのだ……)
 私は六体目を分離させてしまう士郎に、何を言えばよかったのだろう……。
 考えても、考えても、わからない。
 そのうちに朝になり、厨房へ向かう。
 これから士郎とどんな顔で接すればいいか、そればかりを考えていた。



*** *** ***

「む? あれは……」
 円卓の騎士の一人ガウェインが、たまたま通りかかった食堂の出入り口から見えたのは、テーブルに突っ伏す姿。
 以前、魔神柱にとり憑かれて大変なことになりかけ、自身を切り刻むことでカルデアを救ったとも言える者。
 今は厨房でエミヤの助手を務めるかたわら、施設の保全や雑用に勤しみ、マスター・藤丸立香の信任厚い、元魔術師だと聞く衛宮士郎がいる。
 太陽の騎士と謳われるガウェインは、カルデアのために、その二つ名が表わす如く太陽の灼熱で彼を焼き尽くそうとした。
 魔神柱となった者に慈悲など無用、とばかりに自身の正道を掲げたが、今思い返すと、少々幼稚ではなかったかと思わなくもない。
 無事に事なきを得た今、そこに突っ伏す士郎は、カルデアのサーヴァントの間でも評判は上々だ。厨房や食堂で働く姿は、ガウェイン自身も好感が持てると思っている。
(そういえば……)
 このところ、その姿を見なかったことを思い出す。
(身体の具合でも悪かったのだろうか?)
 先日、ガウェインも浮かべていたこの疑問を払拭するため、赤い弓兵に士郎のことを訊ねようとした者が、彼の鋭い眼光に諦めていくのを見た。
 彼らにいったい何が? という疑問は、このところのカルデア内では誰しもが引っ掛かっているところだった。
(しかし、私が声をかけることも……)
 以前、表に出るなというようなことを忠告のつもりとはいえ、面と向かって言い放ってしまった。それはやはり、彼には何かしらの傷を残しただろうと思っている。
(私の顔など、見たくもないと思っているはずで……)
 気にはなるものの、その場を過ぎようとする。が、どうにも引っ掛かる。違和感だらけだ。
 食堂には誰も居らず、明かりも点いておらず、ともすれば見過ごしてしまいそうな状態である。
 ガウェインは首を捻った。
(いったい何をしているのか……?)
 士郎がいるのならエミヤもいるだろうと薄暗い食堂の中に目を凝らしたが、気配もなく、エミヤが近くにいるようではない。
(どうしたものか……)
 酔っ払ってでもいるのか、士郎が顔を上げる様子はない。しばらく見ていたものの、立ち上がる気配もなく、呼吸の度に背中が僅かに上下しているだけだ。
 眠ってしまっているのかと、ガウェインは当たりをつける。だが、いつまで経っても、相方とも言えるようなエミヤは現れないし、士郎にも動きはない。
(こんなところで寝ていては体調を崩す可能性がある。身体の具合が悪いのであればなおさらだが……)
 また少し待ってみたものの、現状に変化はない。仕方なく、ガウェインは声をかけることにした。
「どうしました? こんなところで寝ては身体を壊します。ええと、その、ああ、もしや、すでに身体の具合が悪いのでしょうか?」
 そっと肩に触れれば、大きく跳ねて、士郎は身体を起こした。
「え……、な、に……?」
 顔を上げた士郎に、思わずガウェインは息を呑む。
(なんという色を……、っ、醸し、出すのか……)
 どこをどう見ても男である士郎に、思わず生唾を飲んでしまったガウェインは、
「こ、このままでは、い、いけませんっ!」
 士郎を立たせ、肩を貸す。
「と、とにかく、どこかへ!」
 どこへ向かえばいいのかもわからないが、ガウェインはこの場所から退避しなければならないという使命感に囚われる。
「あ……の、ガウェインさ、ん?」
「ここにいては危険です!」
「きけ……ん?」
「ええ、はい! 今の貴方は危うい色にまみれている。当てられるサーヴァントが、もし理性を容易に捨ててしまうような輩であれば、彼に申し訳が立ちません」
「……よく……わからな……」
作品名:BLUE MOMENT5 作家名:さやけ