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BLUE MOMENT5

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「かまいません! わからなくてけっこう! それで、どちらにお連れすればいいのですっ!」
「どこ……って……?」
「エミヤのところですか?」
 言葉に詰まる士郎に訊けば、
「ちがっ!」
 即座に否定した。
「違うのですか? では、どこに?」
「あ……、と、……っ、ダ……、ダ・ヴィンチの……とこ……」
 戸惑いながら答えた士郎に、ガウェインは頷く。
「承知しました!」
 覚束ない足取りの士郎に肩を貸し、その腰を支えて半ば引きずるようにガウェインは歩く。
 調子の悪そうな士郎にガウェインの気は急くのだが、なにぶん立っているのもやっとの士郎を支えていては遅々として進まない。
「失礼!」
「え? わっ!」
 横抱きにされた士郎が面食らうのを気にも留めず、ガウェインは足早にダ・ヴィンチの工房へ向かった。



◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇

 この人……。
 魔神柱に抵抗のある人もいるから出歩くなって言ってた……。
 なのに、どういう状況なんだろう……?
 下ろしてもらわないと。こんなところアーチャーに見られたら、何を言われるか。
「あ、あの、下ろ、し……」
 俺を抱き上げたガウェインとかいう騎士は、全く聞く耳を持たない。
 暴れる力も気力もないから、結局、下ろしてもらうことは諦めるしかない。
(っ…………)
 背中に当たる腕が、膝裏にあるこの騎士の手の熱さが、何よりも苦痛だ。
 内蔵の痒みがおさまらなくて、身体中が熱を帯びて、触られるだけでも辛い。
(俺、勃ってないよな?)
 一応、霞む目で確認した。大丈夫そうだ。
 下腹がむずむずする。
 今、アーチャーの顔を見たら、きっと飛び付いてしまう。
 俺を見つけたのがこの騎士でよかった。アーチャーだったらと思うと、目も当てられないことになりそうで、背筋が寒くなる。
(あ……、そうか……、アーチャーとはもう……)
 関係なくなるんだった。部屋を追い出されたんだし、もう顔を合わさないようにしないといけない。
 アーチャーには、会えない……。
 そのことが何よりも苦しい。
(もう……いやだ……)
 ここに、居たくない。
 騎士の逞しい肩に頭を預けて、落ちそうな瞼を必死に上げる。
「どうしました、シロウ?」
 アーチャーとは違う声が俺を呼ぶ。アーチャーは、もう、俺の名前……、呼んではくれない……。
 俺のことは……、ただ、同じ派生ってだけの……、ただの衛宮士郎だって…………。
(アーチャー……)
 未練がましいって思う。
 自分がこんなに往生際が悪いとは、知らなかったな……。
「シロウ? 身体が辛いのですか?」
 気遣わしげに訊く声に答えることができない。
 今だけ、この熱を借りたい。
 少しだけ、アイツの熱を思い出すことを許してほしい。
 ガウェインのマントのファーがちょっと心地好くて、ささくれた気持ちがちょっとだけマシになった……。



*** *** ***

「所長代理! 開けてくださいっ! 所長代理!」
 深夜というわけでもないけれど、もうカルデアのみんなはそれぞれに休んでいる時間帯だ。
 こんな時間に緊急みたいに私を呼ぶなんて、いったい何があったんだ?
 扉に手をかければ、さらに急かす声。
「はいはい、そんなに大声出さなくとも――」
「所長代理! 彼を!」
 扉が開ききる前に入り込んできた者に、正直、驚いた。
 どういう組合せだ?
 サー・ガウェインが、士郎くんをお姫様抱っこって……。
 しかも士郎くんは、サー・ガウェインに身体を預けきっている。
 おいおい、それはエミヤの役どころじゃないのかい?
 疑問が山ほど浮かんだけれど、ぼんやりしているわけにはいかない。
「は、入りたまえ、士郎くんは、そこの寝台に」
「はい」
 部屋の隅の寝台に、そっと士郎くんを寝かせ、サー・ガウェインは私を振り向く。
「食堂に一人で居られて。様子がおかしく、体調が悪いのかと伺いましたが、その……、このような状態で……」
 サー・ガウェインは白い頬を少し朱に染めて私に訴える。
 士郎くんを確認すると納得がいった。
「これは、また……」
 意識はあるが朦朧としている。琥珀色の瞳は潤み、こぼれる吐息は熱く、上気した頬は仄かに色づき……。
「あ、あの……」
 戸惑いを顔いっぱいに表して、サー・ガウェインは私を窺う。
 これでは、さすがの騎士殿もうろたえるだろう……。
「か、彼は、その、な、何かの、病なので、しょうか?」
 声を詰まらせつつ訊く彼は、騎士の矜持というか、騎士道精神とかいうもので自身を抑え、ここまで士郎くんを連れてきたのだろう。その精神力には感服するね。士郎くんを見つけたのがサー・ガウェインでよかった、本当に。
「……いいや。大丈夫だよ。彼に持病はないからね。そこは主治医を兼ねている私を信用してくれてかまわない。それよりもサー・ガウェイン」
「はい」
 生真面目に答える彼に笑みを湛え、人差し指を口に当てる。
「このことは、内密に。特にエミヤには絶対に。それから、立香くんにもね」
「マ、マスターも、ですかっ?」
「頼むよ。今夜のことはサー・ガウェインの胸にだけ留めておいてくれたまえ」
「マスターは、彼のことをいたく気になさっています。その約束は、場合によりけりかと……」
「む」
 まったく。これだから、お堅い騎士様は面倒だ。
「ふーん、そうかい。じゃあ、いいんだね?」
「な、何が、ですか……?」
 たじろぐサー・ガウェインに、さらに、にっこりと笑む。
「君はぁ、彼にぃ、何を思ったのかなぁ?」
「なっ! ななな、な、なに、なに、とは、な、なに、も、」
 マトモな言葉も出ないサー・ガウェインはアワアワしちゃって、おまけに目まで泳ぎはじめている。
 真面目だねえ……。
「ふふふ。立香くんには、事細かぁーく説明しておくからね!」
 ウインクを飛ばして言えば、
「ぐうっ……、そ、それは! それだけは……、しょ、所長代理、それだけは、後生です!」
 ガッツスキルでも発動したかのように、サー・ガウェインは片膝をつく。
(大袈裟だなあ……)
 思わず楽しんでしまっていたけれど、生真面目な彼をからかうのはこれくらいにしておこう。今は士郎くんの方が先決だ。
「黙っていてくれれば、私は何も言わないよ。今の士郎くんにただならぬ情が湧くのは仕方のないことだからね」
「そ、そう……なのですか?」
 きょとん、として、この清廉潔白な騎士は瞬く。
「うん。仕方がないことさ。エミヤだって耐えられない」
「え? 彼が、ですか?」
 まあ、エミヤは状態というよりも、士郎くんだから、って方が強いんだろうけどね。
「さ、君はそろそろ戻りたまえ。くれぐれも口を滑らせないようにね」
「承知しました」
 素直に頷き、サー・ガウェインは私の工房を後にした。
「さて……」
 士郎くんを振り向けば、さほど小さくはない身体を丸めて震えている。
 彼は身長がある。今出ていったサー・ガウェインよりもやや高いくらいだ。
 けれど、怪我のせいで身幅が大きくサイズダウンしてしまっている。エミヤをはじめ、数多のサーヴァントたちと比べるからかもしれないが、明らかに“小さい”方だろう。
「寒いかい?」
 震えているから、そう訊いたけれど、
作品名:BLUE MOMENT5 作家名:さやけ