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雫 3

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「君と同じだよ、戦闘の後で気持ちが昂ぶっている」
「それだけじゃ無いだろう⁉︎」
「……」
身体の上に跨り、手首を掴んで動きを封じ込めるフロンタルをアムロが下から見上げる。
「俺のせいか?俺が…」
言葉を言い掛けたアムロの唇を、フロンタルの唇が塞ぐ。
「ん、んんん」
暫く口腔内を貪られた後、息の整わないアムロの顔をフロンタルが見下ろす。
「戦闘中、君が私の中にシャア・アズナブルを見ている事には気付いていた。何度も、シャアの名を呼ぶ君の心の声が聞こえた」
シミュレータと言えど、サイコミュ搭載の機体は、互いの思惟をダイレクトに伝えてしまう。
「ごめ…」
「いや…私自身も、私の中にシャアを感じていた」
「え…?」
フロンタルがそっとアムロの頬に手を添える。
「君と戦っているのは私である筈なのに…気付けば、シャア・アズナブルが君と戦っているような錯覚に陥る瞬間が何度も有った…」
「どう言う事だ?」
アムロの問いに、フロンタルが少し哀しげに微笑む。
「さぁな…」
自身の中の、シャアの存在を受け入れてはいるが、やはりパイロットである以上、アムロとは自分自身として戦いたかった。
そんな苛立ちと葛藤を、アムロにぶつける。
「フロ…」
フロンタルはアムロの腕を頭上でシーツに押さえつけ、自由を奪うと、細い身体をギュッと抱き締めた。
「抱かせてくれ…」
耳元で囁かれた、縋るようなフロンタルの願いを、アムロは突き放す事が出来なかった。


情事の後、ふと目を覚まし、珍しく隣で眠るフロンタルの顔を見つめる。
「雰囲気は似てるけど…顔は全然違う…。身体つきだってシャアよりも大きい…」
優しく頬を撫で、シャアよりもかなり長い金髪を指で梳く。
肌を重ねる度、フロンタルの想いがアムロへと流れ込んでくる。
そしてその中に、微かにシャアの想いも感じていた。
「こういう時…ニュータイプって言うのは…厄介だな」



◇◇◇



ラプラスの箱の在り処を見つけたミネバとバナージを追い、フル・フロンタルはアムロを伴ってサイアム・ビストのいるメガラニカへと向かった。
サイアム・ビストとバナージ達の会話を、氷室の入り口に潜んで聞くフロンタルを、アムロが心配気に見つめる。
地球連邦政府と、スペースノイドとの確執は、このラプラスの箱が隠匿された事で大きくなったのかもしれない。
その第7章に在る、宇宙に順応した新人類がニュータイプの事だとすれば、ジオン・ズム・ダイクンがニュータイプ論を提唱した事により、更に連邦政府がニュータイプを危険視する結果になったのだろう。
だからこそ連邦が、あの戦争でニュータイプとしての有り様を見せすぎてしまった自分を幽閉したのも頷ける。

これを手に入れれば、ネオ・ジオンは確かに連邦を裏で操る事が出来るようになるかもしれない。
しかし、連邦に然程不利な要求をしなかったサイアム・ビストとは違い、ネオ・ジオンがそんな事をして無事で済むだろうか?
いや、フロンタルならば上手く連邦と取り引きするかもしれない。
しかし、連邦がフロンタルの暗殺を企て、ラプラスの箱を奪い返しにくる可能性は充分ある。

それに、ミネバの言う通り、これは全人類に開示すべきものだと思う。
アムロは思わず、フロンタルの腕を掴んで、強奪など諦めるように訴える。
しかし、フロンタルはアムロの瞳を真っ直ぐに見据え、首を横に振った。
「フロンタル…」
そして、アムロをその場に残し、一人氷室へと入って行った。

サイアム・ビストとの交渉が決裂したフロンタルは、実力行使に出る為、バナージとミネバに銃を向ける。
サイアムからの反撃を避けながら、フロンタルがサイアムのいた氷室から出て来た。
そこには、ずっと、サイアム・ビストとミネバやバナージ、そしてフロンタルとの会話を聞いていたアムロがいた。
「アムロ、私はラプラスの箱を手に入れる」
「…フロンタル…」
ラプラスの箱の秘密を知り、思いつめた表情を浮かべるアムロをフロンタルが抱き締める。
「我々にとって、ラプラスの箱は勝利を勝ち取る為の光となる」
「フロンタル…そんなのは…」
「間違っていると言いたいか?」
「…ああ」
「しかし、強大な連邦を相手にする為には必要だ」
アムロとて、それは充分に分かっていた。
「アムロ、ラプラスの箱がネオ・ジオンにとっての光ならば、君こそが私の希望の光だ」
「フロンタル…」

その時、互いに感じていたのだろう。
これが、最後の抱擁である事を。
「フロンタル…、貴方は貴方だ…」
「ああ…ありがとう…アムロ」
アムロは思わずフロンタルの背中に腕を回して抱き締める。
「貴方の事…嫌いじゃなかったよ…」
「…そうか…」
フロンタルはアムロの髪に頬を埋め、その柔らかな感触と香りを心に刻み込む。
「君に…『彼』を返そう」
「え?」
「……………………」
そしてアムロの耳元で囁くと、そっと身体を離してその場を後にした。
その後ろ姿を見つめるアムロの瞳からは、一雫の涙が零れ落ちた。

「…フロンタル…」



フロンタルとバナージが出て行った氷室に、アムロがゆっくりと足を踏み入れる。
それに気付いたミネバが、驚きに目を見開きアムロを見つめる。
「…貴方は!」
実際に会ったことは無かったが、嫌という程知っている。
一年戦争でジオンを敗戦へと追い込んだ連邦のパイロットであり、自身の父をその手に掛けた男。
シャアの叛乱後、生死不明となり、誰もが死んだと思っていた男の姿に、ミネバは思わず後ずさる。

「ミネバ・ラオ・ザビ…、そんなに警戒しなくてもいい。貴女に危害を加えようなどとは思っていない」
「…アムロ…・レイ…生きて…」
「ああ、どういう訳か生きているよ」
髪で隠してはいるが、隙間から見える皮膚移植の痕に、やはりあの時に大怪我を負っていたのだろう事を知る。
そして、少し哀しげに微笑むアムロから、敵意を感じない事に気付き、ミネバがホッと肩の力を抜く。
「驚かせてしまってすまない」
アムロはゆっくりとミネバとサイアムの元まで行くと、サイアムに視線を向けて小さく頭を下げる。
「無断で足を踏み入れた事をお詫びします」
「いや、君こそが、一番に箱の意味を知る権利があるのかもしれんな」
「…どうでしょう?」
穏やかなアムロの仕草に、サイアムは目を伏せる。
「ニュータイプの先駆けである君が、おそらく一番の被害者だろう…」
拷問まがいの人体実験と、七年にも及ぶ幽閉。
宇宙世紀憲章の第7章「将来、宇宙に適応した新人類の発生が認められた場合、その者たちを優先的に政府運営に参画させる事とする」この一章が隠蔽されなければ、連邦に疎まれ、恐れられる事なく、アムロの人生はもっとマシなものだっただろう。
「……」
アムロは何も答えなかったが、もう良いのだと首を横に振る。
そして、ミネバに向き直る。
「ニュータイプが、宇宙に適応した新人類だと言うならば、全てのスペースノイドがいずれはニュータイプとなるだろう。君たちの様に…」
アムロは優しくミネバを見つめる。
「アムロ・レイ?」
作品名:雫 3 作家名:koyuho