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雫 3

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「俺は…戦場という切羽詰まった状況で覚醒して、この能力を生き残る為に、戦闘に使ってしまった。けれど本来は、人と人が判り合う為の能力だ」
「人と人が判り合う…」
「ああ、昔ある人に言われたことがある。ニュータイプは殺し合いの道具じゃ無いって」
自分と同じ様に、その能力を戦闘に使われてしまった少女。
けれど、彼女はちゃんと解っていた。
この能力は人と人が判り合う為のものだと。
あの時、確かに自分と彼女は判り合えた。
「人類が宇宙に出て、もう直ぐ百年。既に充分適応していると思わないか?」
「でも、皆がみな、貴方のような能力を持っているわけではありません」
「そんな事はないさ、みんな自分の中に可能性を秘めている。それを信じて生きていけばいい。要は考え方一つなんだよ」
「自分の中にある…可能性…」
「ああ、未来は君たち、若者が切り拓いていくんだ。だから、ラプラスの箱の事も、君達が決めればいい」
その、全てを受け入れ、包み込む様な優しい瞳に、ミネバはアムロがどれだけの苦難や葛藤を乗り越えて来たのだろうと思う。
『この人は、きっとシャアやフロンタルさえも受け入れる懐を持っているのだろう』
ネオ・ジオン『袖付き』のノーマルスーツを身に纏ったアムロに、ミネバは思わず尋ねる。
「貴方はフロンタルの元にいたのですか?」
「え?ああ、このノーマルスーツを着てればそうか…」
アムロは自身の姿を改めて見て、少し困った顔をする。
「あの時…フロンタルに拾われてね。そこで治療を受けて命を繋げてしまった。正直、暫くはあんまり意識がはっきりしてなかったんで、詳しい事分からないんだけどね」
「何故フロンタルが貴方を?」
「シャアになりきる為に必要だったらしいよ」
「そういえばシャアは?彼も生きて?」
ミネバの問いに、アムロは少し目を伏せる。
「まさか彼は…」
「…いや、俺も…はっきりとは分からない…。でも…生きていたとしても、もうあんな馬鹿な真似はさせないから…」
アムロはミネバの肩を優しく叩き、安心させる様に微笑む。
「ここには、フロンタルに連れてこられたんだ。あの人は俺に箱の真実を聞かせたかったんだろうな。そして、俺があの人の考えに同調できない事も理解していた」
「同調出来ないのならば、何故、貴方はフロンタルを止めてくれなかったのですか?」
ミネバの問いに、アムロが哀しい表情を浮かべる。
「…すまない…俺にはもう、あの人を止める力は無いんだ…」
アムロがギュッと拳を握りしめる。
その仕草に、ミネバはアムロの怪我の後遺症を悟る。
「あ…すみません…」
「いや、気にしないでくれ。それにさっき、サイアム氏も言ったように、フロンタルの考え方もまた間違いではない。それ程までに、連邦内の腐敗は進んでいるんだ。シャアだって始めは中からの改革を考えた。けれど、そのあまりの腐敗を目の当たりにして、彼は見切りをつけてあんな暴挙に出てしまった」
「そうですね…」
「フロンタルは…『自分は人々の総意の器』だと言ってそれを受け入れている様で、実際は己の自我をしっかりと持っている。その上であの決断をした」
そんな彼を、力尽くで止める事は出来なかった。
おそらく彼は自身の運命を決めてしまった。
だからこそ、あんな事をアムロに教えたのだろう。

アムロが目を伏せたその時、脳裏にフロンタルの声が響き渡る。

『アムロ…』

「フロンタル⁉︎」
アムロは宇宙を見上げ、フロンタルに向かって叫ぶ。
その瞬間、心が宇宙へと舞い上がり、気付いた時には、ネオ・ジオングのコックピットで安らかな表情を浮かべて、永遠の眠りに就いたフロンタルの側にいた。
「フロンタル…!」
あれは、フロンタルの最期の声だった。
恐る恐る、目を閉じるフロンタルの頬に触れる。ヘルメットを被っているが、アムロの手はそれをすり抜け、その肌に触れた。
「まだ暖かい…」
ふと、側にララァの気配を感じる。
「ララァ?」
振り向くと、そこには懐かしいワンピースを着たララァが微笑んでいた。
そして、フロンタルの頬に触れるアムロの手に細く綺麗な手を重ねる。
「アムロ…彼は貴方を愛す事で幸せを手に入れていたわ…」
「…そうだろうか…俺は…この人にちゃんと応えてやる事が出来なかった」
「良いのよ。それでも、彼は貴方を愛していたから…」
アムロの頬を、いく筋もの涙が零れ落ちる。
「涙なんて…あの時…シャアと一緒に死ぬんだと思った時…枯れ果てたと思ったのに…」
「アムロ…」
ララァがそっとアムロを抱き締める。
「ねぇ、アムロ。一緒に大佐を呼んで頂戴…」
アムロはララァの言葉に頷くと、フロンタルの中にいるシャアへと呼び掛ける。
「もういいだろ…?シャア…出てこい…」
アムロの涙の雫が、フロンタルの頬に零れ落ちた瞬間、フロンタルの身体の中から、紅い光の玉が浮き上がり、アムロとララァの手の中に舞い降りた。
「本当に…貴方は…」
その光を抱き締め、アムロが唇を噛みしめる。
「さぁ、アムロ還りましょう」
ララァの言葉に頷くと、シャアの光を抱き締めて高く宇宙へと舞い上がる。
その時、アムロはふとフロンタルを振り返る。
その穏やかな表情から、彼の人生の終焉が安らかなものであった事に少しだけ安堵する。

『本当に…貴方の事…嫌いじゃなかったよ…』



アムロの心がメガラニカにいる身体に戻った時、ミネバは全てを悟っていた様だった。
彼女にはアムロとフロンタル、そしてララァの姿が視えていたのだろう。
何も言わずにその場を後にするアムロを黙って見送ってくれた。


◇◇◇


アムロは長い回廊を歩き、ある部屋の前まで辿り着く。
そして、誰も居なくなった部屋の中央に置かれた医療用カプセルへと足を進める。
医療関係者は居ないが、動力は稼働しており、中の人物が生存しているだろう事に安堵する。

ゆっくりとカプセルの横で膝をつき、中を覗き込んだアムロが息を飲む。
そこには、探し求めた金髪の男が穏やかな表情で眠っていた。
「…やっと見つけた…」
アムロはカプセルを抱き締める様に手を伸ばし、ガラス面へと頬を摺り寄せる。
「最期に…彼が教えてくれたんだ。貴方が此処に居るって…」
伸びた髪がガラス面へと広がる。
「…シャア…」
暫くそうして存在を確認した後、アムロは身体を起こし、腕の中の光をその身体へと流し込む様に手を離した。
すると、紅い光の玉は、スゥっと吸い込まれるようにシャアの胸の中へと消えていった。
それを確認すると、アムロは医療カプセルの端末を操作し、ガラスの蓋の開閉ボタンを押す。
すると、シューっと音を立て、ガラスの蓋が開いた。
アムロはカプセルの中に手を入れ、そっとシャアの頬に触れる。
「シャア…起きろ」
アムロの声に応えるように、金の睫毛がフルリと揺れ、ゆっくりと目蓋が開かれる。
その下から現れたスカイブルー瞳に、アムロが安堵の息を漏らす。
その瞳は少し視線を彷徨わせた後、自身を見下ろす存在を見つけると、一瞬、驚きに目を見開いた後、優しく微笑んだ。

「…アムロ…」


◇◇◇


その後、二人はカイ・シデンの力を借りて、月へと移動し、とある知人の家に身を寄せていた。
作品名:雫 3 作家名:koyuho