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自分らしく
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彼方から 第二部 第五話

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「皆で逃げるなら、その姉の元へ頼って行こうと思ってるんだ。だけどさ、通り道にはみんな関所があるし、あとは、とても人なんか通れないような酷い地形の山々だ……どうしたら、グゼナまで行けるかなァと思ってね」
 彼女は既に、先のことを考えていたようだ。
 イザークや左大公たちを、アゴルの力を借りて助け出せたとして、その先を、逃げ道を、模索していた。
 その肝心な逃げるルートを、ジーナに占てもらおうということだろう。
「んっとね……」
 彼女のお願いに、守り石を両手で包み、ジーナは瞼を閉じてゆく。
 ガーヤは試すかのように、その様子を見詰めている。

「森」
 暫くしてジーナの口から発せられた言葉に、ガーヤは眼を見張る。
「大きな森が見えるよ、あ……すごく綺麗な木がある。葉っぱが薄紫で、幹が白いの……」
「すごいね……あんた、本物だ」
 瞼を閉じたまま、言葉を続けるジーナに、ガーヤは感嘆を籠めて呟いていた。
「それは、朝湯気の木だよ。白霧の森にしか生えていないって話だけど、最近じゃ、誰もあそこに入らないから、見た奴はいないんだ……あそこには、化け物が出るからね」
 ジーナの占いの結果に、ガーヤが『本物』と言ったのはそういう訳だった。
 化け物が出ると言う森、故に、最近では誰も入り込んだ者がいない。
 その森にしか生えないと言われている木を、ジーナは占たのだ。
「森を通り抜けて向こう、山越えせずにグゼナに通じる道があるのにね……そして、その白霧の森は、ここからほんの近くにあると言うのにさ」
 ガーヤはその森の姿を思い起こしながら、言葉を続けていた。
「あたしは、訳の分からない化け物を相手にするよりは、遠くても人間相手の関所を破る方がいいかなと考えていたんだけどね……」
 顔を少し伏せ、自分の考えと、ジーナの占者としての言葉とを、どうやら天秤に掛けているようだ。
 化け物がいるとはいえ、その森を通るのが一番の近道だと知っている。
 だが、どのような化け物がいるのか――それが不安材料だったのだろう。
 腕に覚えがあるとはいえ、人を守りながらでは思案するのも当然である。
「あんたには、白霧の森が見えるんだね……」
 ガーヤはそう言いながら、守り石を持つジーナを感慨深げに見詰めていた。

 ――ああ、そうか占者って
 ――予知能力とか、透視能力とか、ある人のことなんだ

 二人の会話に、自分のいた世界の占い師とは、似て異なる能力なのだとノリコは思った。
 ノリコのいた世界の占い師も、未来を見てくれる。
 その人の運勢や相性、いつごろ結婚するのか、どんな相手が良いのか、どこで出会えるのか……そんな事まで占ってくれる。
 だが、そのほとんどが曖昧な占いで、ジーナのようにハッキリと、具体的に占ってくれる者などいなかった。
 当たるも八卦、当たらぬも八卦という言葉があるくらい、曖昧でいい加減なのだ、彼女がいた世界の占い師は……
 勿論、本当にそういう能力を持った人もいただろう、だが、少なくとも、ノリコは出会ったことが無かった。

「しかし、驚かされるよまったく……あんたといい、ノリコといい、思いがけない子が力を持っていてさ」
 ――え? あたし?
 思いがけない言葉を言ったのはガーヤだとノリコは思った。
 何故なら――
「あた……あたしは違う、普通」
 そう思っていたから。
 だから、ノリコは思い切り首を横に振って、否定する。
「だってあんた、昨日、イザークと話せたんだろ?」
 そんなノリコに、ガーヤは少し微笑みながらそう訊ね返す。
「あれは、イザークの力、あたし、聞くだけ」
「でも、あたし達には聞こえもしなかったんだよ?」
 ガーヤの言葉に、ノリコはそれでも戸惑いを隠せない。
 アゴルに助けてもらった日の、あの日のイザークへ助けを求める心の声が、彼に届いていたことなど彼女は知る由もないのだから……
 自分は何の力もない、普通の女の子だとしか思っていないノリコにとって、昨日の出来事は、彼の――イザークの力だとしか思えなかった。
 自分は聞くだけ……待つだけなのだと……
「で、あれからまだ、何も言ってこない?」
「うん……」
「そうか……」
 だから、ガーヤの問いかけにも『うん』としか返せない。
 
 ――イザーク……

 昨日の、光の中で見た彼の姿が思い浮かぶ。

 ――手足に鎖が掛けられていた
 ――なのに……

     『ノリコ 無事か?』

 ――心配してくれた……
 ――あたしのことなんかを……
 イザークの、真っ直ぐな瞳が胸に刺さるようだった。
 自分だって、大変な状況なのに――掛けてくれたその一言に、涙が滲んでくる。

 ――今、彼はどうしているんだろう……
 ――大丈夫なんだろうか……
 ――また、呼び掛けてくれるのを
 ――ずっと待ってるんだけど……

 手足に掛けられた鎖から、彼が今、捕らわれの身なのだということは十分に理解出来ている。
 だからこそ、あの状況で心配してくれたことが嬉しく、心苦しい。
 イザークは強い。
 なのに、捕らわれてしまったのにはきっと、何か理由があるのに違いなかった。
 けれど、その理由が分かったところで自分には何も出来ない……それが心苦しかった。

「……ねぇ、何となく思ってたんだけど、あんた達って……その……」
 イザークに想いを馳せているノリコに、ガーヤが少し言い辛そうに声を掛ける。
「できてるの?」
 と…………
 普通なら、そう問われれば照れるなりなんなりの反応がある所だが……
「…………」
 キョトンとした顔のまま、ノリコはジッとガーヤを見詰め、
「『できてる』?」
 言葉の意味が分からず、素直に訊き返していた。
 まだまだ、俗語の類までは手が回らないらしい。
 その無垢な返しに、ガーヤは顎に手を当て、
「……のわけないか、あたしに預けて行くぐらいだから……」
 と、一人納得している。
「ま、とにかく、アゴルさんが城に潜入してくれるってんだ、みんなを助け出すことだけ考えて……」
「あの……」
 にこやかに、肩を叩いてくるガーヤ。
 ノリコは『できてる』の意味が分からず、訊き返すように反芻したものの、その返しももらえず、少し戸惑っていた。

「ふぅ」
 どてっと、ジーナが小さく息を吐いて、ベッドに倒れ込む。
「ジーナ!?」
 その音に驚いたノリコが、思わず彼女の名を呼んでいた。
「ちょっと疲れたの」
 仰向けに、大の字になってベッドに横たわっているジーナ。
「ああ……占いって、慣れてないと疲れるものなんだね、うちの姉も、子供の頃そうだった」
 ジーナの様子に、ガーヤはそう言ってノリコの心配を解してくれる。
「ゆっくり休ませてやっておくれ、あたし、食料調達してくるからさ」
 そう言って部屋のドアを潜って行くガーヤをノリコは見送り、
「ジーナ、『ごくろーさまでした、あなた』」
 大の字になっているジーナに、労いの言葉を掛けた。

 ――あなた?
 ジーナの頭の中に、はてなマークが浮かんでしまっている。
 イザークに訂正されなかったのか……イザーク自身も、『あなた』の意味を教えあぐねいたのかもしれないが……