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自分らしく
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彼方から 第二部 第五話

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「さて、皆の者は既にご存じであろうが、この第一試合は、実はちょっとした余興である!! 中央にいるのは、身の程知らずな渡り戦士! このわたしに対し、自信たっぷりの様子なので、我が近衛全員の相手を一度にしてもらうことにした! さて、その態度に見合う、どんな戦い方をしてくれるのか、とくと楽しもうではないかっ!!」
 蔑みと嘲りを籠めた瞳で、ナーダは高みから試合会場を見下ろしている。
 自らが取り立てた、屈強で残忍な近衛たち。
 イザークよりも体格で遥かに勝っている17人。
 武器は棍棒だが、容赦のない攻撃が当たれば、一溜りもない……
 身分にも、地位にも金にも――一切の興味を示さず、敬意も払わない男。
 17人の近衛たちの手によって、彼が命乞いをする様を、地に這い蹲る無残な姿を、ナーダは思い描いていた。
 
 ナーダの言葉に、観客の歓声と興奮が高められてゆく。
「ナーダ様に御大層な口を利いてたそうだな、小僧」
「まともな試合をさせてもらえると思っていたのか? ん?」
 イザークを取り囲む近衛たちは、厭らしい笑みを浮かべ、下卑た笑いを零している。
 負ける訳がないと思っているのだ。
 数でも、体格でも勝っているのはこちらなのだからと。
 細身で、どう見ても優男風のイザークを当然のように舐めている。
「ふっふっふっ……どうだ奴め、驚いたか。狼狽えるあまり、身動き一つ出来んと見える」
 微動だにしないイザークを見て、ナーダは勝手にそう思い込んでいる。
 観客も、近衛も、貴族も兵士も皆、イザークの奮闘など期待してはいない。
 ただ彼が、成す術もなく、ナーダの近衛に叩き伏せられる様を想像し、血塗れの姿を見ることを愉しみとしているのだ。
「…………」
 そんな面々の中で一人、バラゴだけが、黙ってイザークを見据えていた。
 近衛の中で彼だけが、その顔に笑みを浮かべてなどいなかった。

 興奮冷めやらぬ観客の声。
 近衛たちに取り囲まれながら、イザークは辺りを静かに見回した。
 控室の出入り口に立つ、アゴルの姿が眼に入る。
 アゴルもまた、岩のような近衛たちに囲まれながらも、顔色一つ変えることなく平然と中央に立つ、イザークの姿を見ていた。

 ――あれがイザーク……
 ――あのノリコを連れて歩いていた、渡り戦士……

 見目麗しいと言う言葉が良く似合う風貌。
 その風貌からは想像がつかない落ち着きぶり。
 ガーヤやノリコからは、かなり腕が立つと聞いている。
 確かに、弱そうには見えないが、しかし……この数では……
 助けるつもりで城に潜入してきた。
 手を貸すのも吝かではない――ではないが……

 ――どうしよう
 ――手を貸すにも17人の岩相手じゃ、とてもおれ一人では……
 
 腕に覚えがあっても流石に躊躇してしまう。
 
 ――いや……まてよ、
 ――あいつは、あのケイモスを倒した男なんだぞ?
 
 そう、あのケイモスを……
 ケイモスの強さは、アゴルも良く知っている。
 一人で何人ものザーゴの兵士を、殺していた……
 とてつもない能力の持ち主だ。
 その、能力者であるケイモスを、彼は――イザークは倒したのだ。
 彼と同じ、能力で……

 ―― もしかしたら、手助けなど必要ないのではないか……? ――

 ふと、そんな考えが過る。

「こんなものは試合でもなんでもないっ! やめなさいっ!!」
 貴族たちが見物する席とは別に設けられた席から、声が上がった。
 観客や兵士、近衛たちの注意もそちらに向くが、その眼は冷ややかだ。
「皆も何故、止めないっ!! こんな悪趣味なお遊び……っ!!」
 そう言いながら立ち上がったのは、手に枷を掛けられたジェイダ左大公だった。
 捕らわれの身でありながら、一人、この試合に否を唱えている。
 唱えられるだけの意志と強さを持っている。
 イザークもアゴルも、自然と、ジェイダを見詰めていた。

 彼の言葉に、観客がざわつき始める。
 
 『ジェイダ左大公だ』『ナーダ様を悪趣味呼ばわりするとは……』

 誰も、ジェイダの言葉に迎合しない。

 『あら、何故、止めなければなりませんの』『素敵な見世物じゃないの、ねぇ』

 貴婦人たちですら、血を見ることに抵抗を示さない。

 『そうだ、たかが一介の渡り戦士ではないか』『何を、声を荒げることがある』

 身分がなければ、その命は軽んじられても文句の一つも言うことが出来ない。
 身分の高いものに迎合している者は皆、その意向に順じ、何が起ころうと意に介さない。
 
 『せめておれ達は、出ていくのを止そう。逆らうことは許されないんだから』
 『おれ、だめだよ……気の毒で見ていられない』
 『あたし達も……』

 たとえ、ジェイダの言葉に同意を示す者がいたとしても、表に出ることはない。
 力あるもの逆らうこと、それは――今の生活を失くすこと、最悪、命を失くすことに繋がりかねないのだから……
 試合を見ないこと、参加しないことで、細やかではあるが、反対の意思を示す他はないのだ。

「罪人は大人しく座ってろっ!」
「あぐっ!!」
 警備兵が槍の石突でジェイダの腹を突いてくる。
「何をするっ!」
「お父さんっ!!」
 二人の息子が同時に、父を庇おうと席を立とうとするが、その二人も、兵士に槍で抑え込まれ、動きを止められている。
「そうだ! 黙ってろっ! 早く試合を始めてくれっ!!」
 痺れを切らした観客が一様に声を張り上げる。
 もう、誰も耳など傾けない。
 欲しているのは、更なる興奮へと導いてくれる、残酷なショーなのだ。
「ようしっ! 第一試合開始っ!!」
 観客の声に後押しされたかのように、ナーダの声が上がった。

「みんなまだ動くなっ! おれが一番だあっ!!」
 ナーダの声に合わせ、声を上げたのはバラゴだった。
 唸り声と共に一直線に、軽く身構えているイザークへと突っ込んでゆく。
 横薙ぎに振り回された棍棒を受けるイザーク。
 棍棒同士がぶつかり合う、ごつく、大きな音が、会場に響いてゆく。
「またバラゴか」
「まあいい、やらせとけ」
 腹癒せ、憂さ晴らし――その為の先走りだと皆が思っている。
 昨夜の出来事があった為だろうか、誰も、バラゴを止めようとはしない。
 また、軽く往なされてお終いだとも、思っているからかもしれない。
 同じ人間に二度も負けたバラゴなど、近衛の連中の誰一人として、気に留める者などいないのだ。
 バラゴ一人にやらせておいて、イザークが少しでも疲れれば後が楽になる……とも思っているのかもしれない。

「このバカ野郎っ! おれの言ったことが信じられなかったのかっ!」
 棍棒を打ち合わせ、くっつかんばかりに顔を寄せ、バラゴが小声で詰め寄る。
 言葉は荒いが、どうやら本当に心配してくれているようだ。
 迫力のある顔を間近にして、イザークはフッ……と笑みを零した。
「信じなかった訳じゃない、ちょっと考えることがあったんだ」
「なっ……何を寝ぼけたことを言ってやがる、今の状況がどういうことなのか、分かってんのかっ!」
 戦っているフリをする為に、打ち合わせた棍棒に力を籠めながら、やはり小声でボソボソと言い返すバラゴ。