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BLUE MOMENT6

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 ということは、今までのことすべてが蓄積されているということだろうか?
「おい、弓兵、しっかりしろ! 何かあったのか、なかったのか、どっちだ?」
「何も……」
「本当だろうな?」
「言い争っても、殴り合ってもいない」
 では、士郎がいないのはどうしてだ?
 先日のことを思い返してみる。
 私が厨房から戻ると、士郎はシャワーを浴びたところらしく、素っ裸でいた。私を見て、しないのか、と訊き、頭に血がのぼった私は……、士郎を怒鳴った。
 それがいけなかったのか?
 だが、士郎はずっと私を見ることがなかったのだぞ?
 怒鳴られたくらいで家出を考える子供みたいなことはしないはずだ。
 それに、士郎は私と過ごすことが苦痛だったのだし、関係がないと言い切るくらいなのだ、怒鳴られたくらいで何を気にすることもないはずだ。
 あの時、深層から私を追い出したのだ。
 好きだとか、私のものだとか、それは以前のことで、今は、心底私に嫌気がさしているはずだ。だから私は、士郎に部屋を紹介してくれと所長代理に頼み……。
「何がどうなっているのか……」
 額を片手で押さえ、首を振る。
 もうお手上げだ。私にはもう、どうすることもできない。
「あ、おい!」
 しゃがみ込んで頭を抱える。クー・フーリンがいるのはわかっている。こいつにみっともない姿を見せるのは癪だが、もう立ってもいられない。
「士郎…………」
 呼んだところで返事はない。
 私は、どうすればよかったのだろうか。
 士郎に触れてはいけないと自戒したところで、士郎となんらわかり合うこともできず、拒まれたままで……。
 話し合おうという気はあったが、どうしても構えてしまい、何も言えなかった。
「とにかく、今日はこのへんにしとけ。お前はちょっと休んだ方がいいだろ」
「休む……?」
「ああ」
 少し顔を上げ、その言葉を反芻する。確かに冷静ではいられない。だが、そんなことをしている間に、士郎は……。
 冷たい汗が鳩尾を濡らす。焦りばかりが手に汗を握らせる。
「…………休んでいる……、暇など、ない!」
 言い切って立ち上がれば、クー・フーリンは面倒臭そうに目を据わらせている。
「む……。なんだ」
「いや……、まあ、なんだ……、お前よ……、なんだって、こうなるまで放っておいたんだよ?」
「放っておいたわけでは……」
「おれは、忠告したはずだぞ? シロウは、いろいろ抱えてるってよ」
「ああ、言ったな」
「それをわかってて、お前は、ソレなんだよな?」
「ソレ……?」
「朴念仁」
「朴ね……ん……?」
「なぁんで、素直に言っちまわねえかね? お前、シロウに何も言わずに、ヤったんだよな?」
「……う…………ぅ、まぁ……」
 ぐうの音も出ない。クー・フーリンに協力を仰いだ時点ですべてがバレると覚悟はしていたが、そこを指摘されると何も言い返せない。
「はぁ…………」
 大きくため息をついたクー・フーリンは、額を片手で押さえている。
「お前なぁ……。順番が逆だって、ガキでもわかんぞ?」
 クー・フーリンに指摘されて、ようやく私は自身の身勝手さを思い知っている。手遅れすぎる自分の行動に、今さらため息が出た。
「そう……だな…………、ああ、確かに……」
 反論できない。
「まあ、シロウも困った奴だが、お前もたいがいだな……」
「やかましい……」
 悪態にも覇気が出ない。
「さすが、同じ存在……ってやつだな……」
「褒められている気がしない」
「いや……、褒めてねえよ……」
「む……」
 何やら、少し気分が落ち着いてきた。
 頭が冷えたというか、クー・フーリンとくだらない言い合いをしているうちに冷静さを取り戻してきたというか……。
「クー・フーリン、お前の言う通りだ。私は少し休んで頭を冷やす」
 こいつの言う通りにするのは、本っ当に癪なのだが、クー・フーリンの言うことは正しいとわかる。
「まあ、自分の胸に手ぇ当てて、反省しろ」
 返す言葉もなく頷くしかなかった。



◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇

 目を開ければ、見覚えのある部屋だった。
「…………」
「やあ、お目覚めかい?」
「ダ・ヴィンチ……」
 ぼんやりとその名を呼んで、はっとする。
「あ! お、俺!」
 飛び起きれば、ダ・ヴィンチは、ニコニコと美しい笑みを浮かべている。
「あの…………」
 何を言えばいいのか……。
 洗い浚いしゃべってしまった。苦しくて、どうしようもなくて……。
「お腹が空いただろう? 食堂から仕入れているよ。洗面所はそっちにある、トイレもその向こうだ。どちらも私には不要なものだけれどね、使えるようにはなっているよ」
 机の上に載ったトレイを示し、部屋の説明をすると、すぐにダ・ヴィンチは自分の仕事だか趣味だかに勤しみはじめた。
「あ、ありがとう」
 どういたしまして、と顔を向けることなく答えるダ・ヴィンチにほっとする。昨日のことをいろいろ言われるかと、内心気が気じゃなかったから。
(何か言ってくると思ってたけど……)
 案外、天才も気遣いができるんだ、なんて失礼なことを思いつつ洗面を済ませ、机に置かれたトレイを手に、さっきまで寝ていた寝台に腰を下ろす。
「いただきます……」
 手を合わせてからラップを剥がし、厚焼き玉子のサンドウィッチを手に取る。腹は減ってないと思っていたけど、食べ物の匂いを嗅ぐと、案外、空腹感が湧き上がってくるものだ。
 人間って、ちゃんと生きていくようにできているんだなぁなんて、しみじみ思う。うまそうなサンドウィッチを頬張って、
「ぁ……」
 一口で気づいた。
(これ、アーチャーの作ったやつ……)
 厚焼き玉子だと思ってたのはだし巻きだった。少し甘めの、俺も作って食卓に並べていた……。
「っ……」
 なんでだろう、目の奥が熱い。それに、鼻の奥がツンとする。
「……っ…………」
 まずい、泣きそうだ。
 昨夜、ガキみたいに泣いてしまって、そのまま寝入ってしまって、これ以上、恥ずかしいところを曝すわけにいかない。どうにか堪えて、アーチャーお手製のサンドウィッチを食べ終えた。
 ちら、とダ・ヴィンチを窺えば、何かの作業に没頭していて、俺がここにいることすら忘れているみたいで安心した。
 何もすることがないのは同じだけど、アーチャーの部屋にいた時に比べたら、いくらか気は楽だ。
(だけど……)
 気持ち的に余裕が出てきて、なんとなく室内を見渡せば、物が乱雑に置かれていることに気づく。床の上にも物やら、書類やら紙くずやらが散乱している。
 落ち着かない。
 うずうずしてくる。
「ダ・ヴィンチ、あの、片付けても、いいか?」
 一応伺いを立てた。いくら我慢がならないからって、他人の部屋を勝手にどうこうするわけにはいかない。
「んー、どーぞー」
 こちらを見ることもないし、どこだとか、何をだとかも確認せずに承諾するダ・ヴィンチに少し不安を覚えたものの、落ち着かなさに負けて、勝手にすることにした。
 身に沁みついた習慣は変えられない。家事全般を趣味みたいにして生きてきた俺には、この散らかった部屋はどうにもじっとしていられなくする。
 せっせと室内を片付けていれば、
「あーっ!」
 急に大きな声をこちらに向けて叫ばれた。
作品名:BLUE MOMENT6 作家名:さやけ