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BLUE MOMENT6

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 夕食のトレイを持ってどこで食べようかと室内を見渡せば、小さめのテーブルと一脚の椅子が置いてある。これもレトロな感じだ。
 趣味は良いんだと思う。だけど、俺が落ち着かないっていうか、こういう感じの部屋に慣れていないから、なんだか、他人の家にいるみたいでソワソワしてしまうだけだ。
「まあ、俺の家は、純和風だったし……」
 レトロ調といえば、あの家も古い家具が多かったから、そんなに忌避することもないのか……。洋風か和風かの違いだけだ。木目調は変わらないし。そう考えると、少し落ち着いてきた。
(この世界では、まだ、あの家、あるんだよな……?)
 衛宮士郎は死んでいても、家屋は残っているだろう。きっと雷画のじいさんがうまいこと売りに出してるはずだ。
 懐かしさに少し胸が詰まって、夕食になかなか箸をつけられない。だけど、せっかくの夕飯だ、冷めないうちにと思ってブリの照り焼きに箸をつければ、
「これ……」
 焼き加減、臭みの取り方、照り、盛り付け、どれも完璧なのにちょっと醤油が濃い感じ。
(アーチャーの……)
 この夕食もアーチャーの作ったものだとわかって、ますます胸が痞える。
「も……なんだよぅ……」
 情けないくらい泣きたくなるのに嬉しい。こんな小さなことでアーチャーのことを思い出す。そうして、やっぱり苦しくなる。
「もう一回くらい……、一緒にご飯、したかったなぁ……」
 アーチャーとちゃんとした食事をとったのは、狐と蛇の対決を見に行こうって誘ってくれた、あれっきり。厨房で手伝いをはじめてからは、手の空いた時間にアーチャーのまかないを食べて、いそいそと働くアーチャーと厨房の面々を見ていた。
 食事から栄養を取る必要がないサーヴァントは、きっちり三食をとるわけじゃない。セイバーだったアルトリアは別として、カルデアのサーヴァントが食堂でご飯を食べるのは趣味に近くて、嗜好行動みたいなものだ。だから、アーチャーもテーブルについて食事をするってことはなかった。
 それでも、空き時間に俺がまかないを食べていたら、たまに休憩だって言って、紅茶だかコーヒーだかを飲みながら、同じテーブルにつくこともあった。
 あれは、気を遣ってくれたんだろうか?
 一人でご飯を食べさせるのは、ちょっと気の毒だとでも思ったんだろうか?
 衛宮の家では誰かしらがご飯をたかりに来ていたなぁ、なんて思い出して、ちょっと感傷に耽っていたとか、そういう感じなんだろうか?
「味気ない……」
 一人でとる食事の寂しさなんか思い出してどうするんだ、俺……。
 こんなのいつものことだった。ただ、最近は厨房のガヤガヤした感じの中とか、大忙しの厨房を眺めながらとかだったから、急に独りで静かにご飯を食べることになったから……。
 アーチャーの作ったおいしいはずのご飯が、味わえない。
 どうしても箸が止まってしまう。
 アーチャーに部屋を出て行けって暗に言われてから、ずっとこうだ。食べ物が喉を通りにくい。
 だけど、残したりはしない。無理やりに押し込むようにして食べきる。
 味わえないことが嫌だった。無理に流し込むことが、作った人に申し訳なかった。それでも、これが今、俺の精一杯だ。
(なんとかしないと……)
 時間が解決してくれるんだろうか。
 アーチャーと距離を取れば、それなりに元のように過ごすことができるようになるんだろうか……。
 確証はないけど、そう思っていないとやっていけそうにない。
(アーチャーとも、そのうち……)
 普通に話くらいできるようになるんだろうか……。
 無理だと思う。何もかも押し殺すことなんて、できないと思う。
「は……」
 この先をどうするかなんて、やっぱり俺には見えてこない。いろいろと考えなければいけないことがある。それに克服しないといけないこともある。
 前途は多難だな、なんて他人事みたいに思いながら夕食を済ませた。
 少し時間のかかった夕食が終わればやることもないので、シャワーを浴びて寝ようと思い、浴室の扉を開ける。またしても俺は驚きに唖然とした。
「浴槽が置いてある……」
 猫足付きで据え置くタイプの、人工だと思うけど大理石でできたっぽい、なんだかオシャレな感じのやつで、しかもけっこう大きい。試しに空の浴槽に入ってみる。俺が入っても狭いと思わないくらいだから、やっぱり大きい。
「これは、入るべきだな、うん」
 なぜか自分で宣言して、湯を溜めてゆっくり浸かることにした。



「ったく……。何をどうやったら、こんなに散らかるんですかね、天才さん……」
 昨日片付けたはずなのに、ダ・ヴィンチの工房は、もう散らかっている。一晩で元通りに近い状態だ。呆れながら段ボール箱を片手に、床に散らばったいろいろを拾い集めていく。
「いやぁ、耳が痛いなぁー」
「あんたの美意識はどこに行ったんだ?」
「いやいや、これはこれで、なかなかこのランダムさがいいなー、と」
「はいはい。お片付けは苦手なんだな、天才さんは」
「むうー、ちょっとー、もう少し言い方があるんじゃないかなー」
「言い方変えれば、片付くのか?」
「づかないね」
「ほい。俺にはゴミだと思える物を集めたから、捨てたらダメなやつを取り除いてくれ」
「おお。私と会話する間に、もうこんな仕分けを……」
「はいはい、こんなの普通だからな」
 ダ・ヴィンチに適当に答えながら、また新たな段ボール箱を片手に、散らばった紙類を集めていく。明らかにゴミだと思うものでも、大事なメモだ、ノートだ、と言いかねないから、クシャクシャに握り潰された紙片も広げて、全部段ボール箱に入れていく。
 昨日からダ・ヴィンチの工房と扉一枚で続いた部屋に厄介になっている。その部屋からダ・ヴィンチの工房以外に出ることはないけど、息が詰まりそうだとも思わない。
 あれから一日半が経つ。
 あのまま俺は、ダ・ヴィンチの工房の寝台で寝てしまっていて、次の日の昼に近い時間になって目が覚めた。
 ダ・ヴィンチが取り寄せてくれていた軽食をいただき、散らかり放題の工房を片付け、夜に俺が使えるようにしてもらった部屋に入って休み、今朝、ダ・ヴィンチの工房に来たら、また散らかっている。
「はあ……」
 いったい、どこをどうすればこうなる?
 大仰なため息は仕方がないと思うんだ……。
「士郎くん、やっぱり君には合わないねえ……」
 ダ・ヴィンチが俺の袖を引きながらこぼす。
「なんだよ急に、選ぶ余裕はないって言ったのあんただぞ。サイズが合わないのは仕方ないだろ」
 着替えのなかった俺にはカルデア職員のユニホームしかないから、それを借りている。少し袖丈が短いし、長さを合わせたズボンは、ウエストが緩いからベルトでずいぶん締めている。
「君は細いから……」
 そんなことを残念そうに言われても、俺にはどうすることもできない。
「うるさいな。邪魔するな」
 身幅が足りないことくらい知ってる。アイツみたいになれないことも、もうわかってる。だから憧れるんだ。仕方がないだろ……。
「士郎くん、怒っているのかい?」
「怒ってない。とにかく、散らかすな」
「ふふ。子供みたいだ」
作品名:BLUE MOMENT6 作家名:さやけ