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自分らしく
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彼方から 第二部 第六話

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「大抵は酔っ払いの戯言だったり、子供の作り話だったりするのだけれど、そんな中で一ヶ所だけ、通りすがりの旅人から聞いた、うろ覚え程度の場所が、本当に『魔の森』だったことがあったわ」
 彼女の言葉に、ざわつき始める面々。
 必然的に、エイジュの周りに皆、集まってゆく。
「それで? 自力で脱出できたのかい? それとも、他の誰かに助けてもらったのかい?」
「いいえ、あたしはいつも単独行動だから、自力でね。その森に巣食っていた魔物を倒して、脱出したのよ」
 ガーヤの問いに、平然と当たり前のように返すエイジュ。
 バラゴが思わず、口笛を鳴らす。
「どんな魔物だ? どうやって倒した」
 端的に、要点だけを訊ねるイザーク。
「古い手鏡を媒体とした魔物だったわ、森に結界を張って人を惑わせ、力尽きて亡くなった人たちの魂や負の念を喰らっていたのじゃないかしら、あたしもかなり惑わされたけれど、何とかその手鏡を見つけて壊すことができたの」
「壊しただけなのか?」
 アゴルがそう訊ねてくる。
「そう、それだけよ。鏡が壊れたことで中に閉じ込められていた魂たちも解放されて、魔物も力を失い、結界も消失したわ」
「……ここも、同じか」
 集落を見回し、イザークは眉を顰めてそう呟いた。
「多分ね――馬が狂った辺りから、纏わり付くような閉塞感を感じているわ……恐らく、それがこの森を棲み処としている魔物の張った結界だと思うのだけれど……イザーク、あなたも感じているのでしょう?」
 エイジュの言葉に、イザークは黙って頷く。
「流石だね……あたしゃ、さっぱり感じないけどね――と言うことは、あんたも能力者なのかい?」
「えぇ、まぁ……大したことは出来ないけれどね」
 ガーヤの問いに、少しはにかみながら答えるエイジュ。
「謙遜することはないよ。それなりの強さがなければ、魔物退治の依頼自体、されることなどないんだろうしさ」
 ガーヤの言葉に、エイジュはにっこりと微笑み返し、『ありがとう』と呟くように返す。
「それにしても、イザークとあんた――能力者が二人も……頼もしい限りだね」
「確かにな」
「まぁ、人数もこれだけいる、何とかなるだろう」
 バラゴとアゴルが、エイジュとイザークを見ながら、楽観的な言葉を並べてくる。
 特に、バラゴの割と人懐っこい笑顔が、皆の不安と緊張を解してゆく。
 皆の間に、少しホッとした空気が流れ、引き攣りつつも笑顔が見え始めた。

「何が能力者だ」

 一人を除いて……
 彼の言葉に皆、ハッとして視線を向ける。
「化物じみた力の持ち主も、肝心の時役立たずじゃ、なんにもならんな」
 見据え、睨みつけるようにして、バーナダムは二人を見ている。
 皆の間に張り詰めたような空気が漂い始める。
「バーナダムッ! あんた、なんて口の利き方をっ!!」
 ガーヤが思わず、強い口調で彼を窘めた。
 その後ろで、ノリコが同意を示すように、激しく頷いている。

 ――そ……そうよ、なんだってイザークにそんなこと言うのよ
 ――エイジュさんにだって……
 ――バーナダムってば、さっきからずっと、イライラしてばっかで……

 ふと、ノリコの心に何かが引っかかった。

 ――あの時、果物を持って行ったあたしに、ちゃんと声を掛けてくれた人なのに……
 ――あたしに間違ってナイフを突きつけたこと、ずっと気にしてた……
 ――そんな人なのに……

 ガーヤの家に、左大公たちを連れてきたあの夜のことが思い返される。
 バーナダムはちゃんと『ありがとう』と、そして、ナイフを突きつけてしまったことを真摯に、きちんと謝ってくれていた。
 あの時の彼とは、まるで別人のようだ……

「だってそうだろっ! 能力者だろうが何だろうが、今、この現状をなんとか出来なきゃ、知識や経験があったって無駄じゃないかっ!! それに、そもそも! こうなったのはガーヤのせいだろっ!」
 窘めてくるガーヤに怒鳴り散らし、バーナダムは彼女を見据えながらジーナを指差す。
「ガーヤが、あんな子供の言ういい加減なことを真に受けて、こんな森を選ぶから悪いんだっ!!」
 彼の強い口調に、ジーナは体をビクつかせ、怯えてしまっている。
 アゴルは、体を小さく震わせている娘を庇う様にその頭を抱き、
「おい! 子供の前でなんてこと言うんだ」
 抑えてはいるものの、怒りを含ませた声音でバーナダムに言い返している。
 
 また……何かが引っ掛かる。
 ノリコはその引っ掛かりを確かめるように、一人、イラつきを撒き散らしているバーナダムを見詰めた。

「そうじゃないかっ! 白霧の森なんか占って! おれの言う通り、関所を選んでいれば、なんとかなったんだっ!!」
 誰彼構わず当たり散らすバーナダムのイラ立ちが、次第に周りの面々にも伝わってゆく……険悪な雰囲気が漂い始める。
「今さら言ってもしょうがねぇこと、くだくだ、くだくだ……この野郎――さっきから、どうも気に入らねぇ」
 バラゴがとうとう抑えきれなくなったのか、厳つい顔を顰め、指を鳴らしながらバーナダムを見据えている。
「バーナダム、おまえが悪いよ、謝りなさい」
「そ……そうだよ」
 バラゴの怒りを収める為か、左大公や、その息子たちが、彼を窘めてくる。
 誰も、彼の意見に賛同する者はいない――味方になってくれる者は一人も……
「な……なんだよ、みんなして――」
 責められているのが分かる、誰一人として、共感してくれる者はいない。
「おれは本当のことを言っただけじゃないかっ……!!」
 孤独、疎外感――それから逃れるように、バーナダムは叫んでいた。
 ただ一人責められるのを怖がり、自身を正当化する為に……自分は悪くないと、そう言い聞かせる為に。
 だが、『そうだ』と、言ってくれる者はいない、『お前が悪い』という視線だけが、突き刺さってくる……居た堪れなくなってくる。
 どうして自分だけがという思いが、一人歩きしそうになる……

「違うっ!!」

 ノリコが叫んでいた。

「みんな、これは違うっ!!」

 密かに漂い、皆に纏わり付き始めた険悪な雰囲気を、彼女の叫びが壊してゆく。

「馬が……馬がさっき! これは同じっ!!」

 繋がらない、片言の言葉で必死に、彼女は訴え掛ける。
 バーナダムと皆の間に入り、懸命に双方を抑えようとする。
 自分だけが気付いた事変――このまま放っておけば、あの馬のように……
 馬は異常に興奮し、暴れ、人に対して攻撃的になっていた。
 もしも今、あの馬のような状態に皆が陥ってしまったら……それは、とても恐ろしいことだった。
 皆に気づいて欲しかった、このままではいけないことを。
 最悪の事態になってしまうかもしれないことを!
 だが……

「何をわけの分からないことを……! 邪魔だっ!! のけ――」
 バーナダムの腕が振り上げられる。
 もはや、人の話に耳を傾けることすら出来ないほどに、イラつきや興奮が彼の中に満ちてしまっているのか……
 振り上げられたその腕が、ノリコに向かってゆく……

 ――ガッ

 だが、彼の腕は、イザークの手によって止められていた。