ファラジ
昼を少し過ぎたころ。フラウはアムロの昼ご飯を研究室へ持ってきた。自宅へ赴いたのだが不在だったからだ。
廊下を進むと、珍しくアムロの笑い声と初めて耳にする青年たちの声が明るく流れてきた。
「あら、お客様なの? アムロ」
フラウも、通称『腐海』を崩すことなく室内を進み、三人の前に姿を現した。
勝気な瞳を持つ青い髪の青年と、こげ茶の髪に緑の瞳の穏やかそうに見えてやんちゃそうな青年が、すっかりくだけた様子でアムロと対面しており、机も床も資料の紙面に占領されつつある。
「足の踏み場が無いから、少し片づけてくれるかしら? 踏みにじっての良いならそのまま進軍するけど?」
その一言に慌てたのは初対面の青年達。
アムロはのほほ〜んとしている。
「すっすみません! いま! 今、片付けます!!」
ワタワタと床に散らばる紙面を集めて背後の仲間に渡し、渡された人がバックナンバーや頁の順番を確認してまとめるという連係プレイにより、床や机の上はあっという間にすっきりとした空間へと復帰した。
「いつもこれくらいに片付いてくれると、私も楽なんだけど・・・」
「しょうがないだろう? 知りたい知識の方が多すぎて資料の量が増える一方なんだから」
「でも、これだけの資料の中から必要な項目を迷わず引き出せるっていうのは、凄いと思いますよぉ」
「なぁ〜」
アムロがムッとした表情と共に告げた言葉に、青年達もウンウンと頷いている。
研究者って同類なのねぇ〜、とフラウは思いを新たにしたのだった。
フラウが持参した昼ご飯を分け合って食べると、三人は議論を再開した。
その楽しそうな様子を背中に感じながら、フラウは研究室を後にした。
そして、その議論は夕方までおよび、カミーユとジュドーの帰路は再び夜行バスとなってしまった。
バスの乗車場所まではアムロが自家用車で送ってくれた。
古いタイプの欧州車の車体だが、エンジンは最新の電気駆動になっており、乗り心地の良さにエコが加わっていて、目的地に着くまでその改造話に話が咲いた。
乗車場所に着くと、まだまだ話し足りない二人は後ろ髪を目いっぱい引かれながら夜行バスに乗り込んだ。
窓にべったり張り付いて名残を惜しむ二人に、アムロが携帯端末を振って見せてウインクをした。
いつでも連絡しろよという意思表示に二人は破顔したが、同時に目が熱くなった。
己を理解してくれる人の存在がこれ程嬉しく、また励みになるとは、これまで体験したことが無かったからだ。
バスが走り出すと二人はアムロが見えなくなるまで手をふり続けた。そして、座席に腰を下ろしてため息を吐くと、どちらともなくこう告げた。
「「おれ、アムロさんの所で働きてぇ」」
この思いが上司に認められる筈も無く、シャアは今まで以上にアムロへの協力要請を強化する必要に迫られる事になるのだった。