ファラジ
吃驚して視線をあげると、座っているアムロの手が袋の上から煎餅めがけて落とされており、袋の中で煎餅は奇麗に割れている。
「あ、こうやっとくと食べやすいんだよね。煎餅って物にもよるけど総体的に硬いのが多いから」
やってみな? と勧められ、二人もそれに従ったが、カミーユは力が強すぎて袋まで破いてしまい、ジュドーに大笑いされてしまった。
「君、空手か何かやってた?」
アムロにそう質問されカミーユが刮目した。
今まで、こんな短時間でそんな判断をされた事が無かったからだ。
「よく判りましたね、アムロさん。コイツ、学生時代に空手を習ってて、黒帯まで習得してるんですよ」
「やっぱりなぁ」
アムロはクスクスと笑いながらカミーユの膝や床に散らばった煎餅の欠片を小さな箒で払って集めると、小さな板状の物に集めて窓から外へ捨てた。
「こうしておくと小鳥が食べにくる。コメから作られてるからね。無駄にならない」
その声を待っていたかのように窓下から小鳥の声が賑やかになった。
「で? さっきの話だと、君達の新しい発想を非現実的と受け入れない石頭共に腹が立つが、自分達だけでは試作品の製作に進めないって事であってるかな?」
緑茶で喉を潤して落ち着いたところを見計らってアムロが告げると、二人は大きく何度も頷いた。
「そうなんです。『空想を現実と混同してはだめだよ』とか言われて・・・」
「空想だとしてもそれが実現可能な領域に近づいているのに、発想の転換をしようとしてくれないんだ・・です」
「あと少し、あと少しだと思う・・・んです
「あのさ〜」
「「はい!」」
「敬語で話そうとしなくていいよ。言葉を選ぶと話し難いだろ?」
「えっ? でも、アムロさんの方が確実に年上ですし・・・」
「技術力や発想、理論も、確実に俺達より上だと判るおから、タメ口とかは、ちょっと・・・」
「CEOが一目置いてる人に対して・・・」
アワアワと身振り手振りが大きくなる二人の慌てぶりは面白いものだが、衝立を置いて話をされてる様ですっきりしないアムロは、更に一言追撃した。
「普通に話さないならこれでおしまいにするけど? それでも構わないなら俺は良いけどね」
背もたれに体を預けて腕を組み、足も組んで下目に見やるその姿勢は、かのCEOがする姿勢に少しだけ似させたものだったが、突き放した感じは演出出来たようだった。
途端に二人の顔色が青くなった。
「研究開発者の大変さや繊細さを理解していないであろうセレブ野郎との会話は、正直言って腹が立つんだよ。その点、君達は俺と同じ立場にいる同志だと思えたから入室も許可したし、こうしておもてなしもしている。
それに協力要請に来たんだろう? なら、協力者の要求を飲む事も交渉手段として必要なんじゃないかなぁ?」
暫し無言で二人を見た後、アムロは優しく諭すようにそう告げた。
それを聞いた二人は互いを見合って頷くと、アムロへと顔を向ける。
「そうですね。了解しまし・・・解った」
「はぁ〜〜。肩の力が抜ける〜〜」
「あっはは。やっぱり緊張してたんだ」
「そりゃしま・・するよ。俺達より先輩なんだから」
「意見貰いに来て、タメ口なんてしたら、普通は『ふざけんな!』って立腹されるのがオチだからさぁ」
「俺はあまりそういった事に重きを置かない質なんでね。普通にいつも通りに話してくれ」
それから先は、互いの意見の交感と理論展開が開始され、資料類が床やキャビネットの中から発掘されて議論が白熱していった。