ファラジ
「君が開発しようとしている知覚のフィードバック。これを我々の研究所で共同開発をすれば、もっとスピードアップ出来ると確信しているのだよ。障害者の助けになる事なのに、何故君はそう迄して合併を受け入れようとしないのか。私には理解できない」
再び足を組み替えて説を垂れ流す男の顔面めがけて、汚れでぬるつき腐臭を漂わせる雑巾をみまってやりたい! とアムロは強く思っているのだが、一人前の大人としてそこは堪える努力を積み重ねていた。
もう少しで倒壊しそうな重ね具合だが・・・。
「貴社の要望に見合うだけの技術開発は出来ませんよ? 俺にはね。細々と、ユーザーさんにご満足いただける義肢を開発して制作できれば、俺は満足です。
お互いの表情が判り、言いたい事を思う存分言ってもらえるこの距離感が、俺は大好きなんです。だから、何度足を運んでもらっても合意は出来ませんよ。
さぁ、お茶も底をついたようですからお帰り頂けますかねぇ」
アムロは空になったカップを男の手から取り上げた。
そして、事務所の扉を開くと、待機していたボディガードに合図を送る。直立不動で待機していたボディーガードが動き出すと、運転手がエンジンをかけた。
アムロの塩対応に男は大きくため息を吐くと、渋々と言った風情で立ち上がり出口へと歩き出す。
扉を抑えて立つアムロがドアマンの様に頭を下げて男に出る様に急かした。
男は扉の前まで行くと、アムロの頬に掌を軽く当てて撫でおろしつつ爽やかに囁いた。
「また、来る」
アムロは一瞬で凍結した。
男が乗った車が走り去ってから解凍したアムロは、簡易キッチンまで走ると塩壺を鷲掴み道路めがけてバッサ〜と塩を振りまいた。
「二度とくんなっ! 気障野郎!!」
はぁはぁと肩で息をするアムロの後ろ姿を専用の事務机から見やったフラウが、額を抑えて頭を振っている事を当のアムロは知らなかった。