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On s'en va ~さぁ、行こう!~ 後編

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10.『Allons-y!』(さぁ、やろう!)


さて、ここはカジノのバックヤード。
粗末なパイプ椅子に座ったミロを、シュラとカミュがコーヒー豆を噛みまくったような顔で睨んでいる。
不審者を保護した中年の警備員は、不審者の知人と思われるカジノの客に尋ねた。
なお、会話は全てフランス語である。
「この男はあんた達の知り合いかね?」
できれば他人を装いたい両名であるが、もし他人だと突っぱねた場合色々と面倒が起こるかも知れないので、2人は小宇宙で打ち合わせし、嘘の話をでっち上げる事にした。
「ええ、知人です。昔の友人なのですが、やや夢遊病の気があってニースのサナトリウムで療養中でした。原因はわからないのですが、いきなり知らない土地でさまよっていたりしている事もあったようです」
フランス人だけあって、カミュは文句の付けようのないくらいに綺麗なフランス語を話す。警備員は胡散臭そうにミロを眺めた後、
「つまりは、彼は病気だと」
「Oui」
「病気の人間を責めても仕方ないと」
「Oui」
顔色を一切変えずに淡々と答えるカミュ。彼だってクールに徹しようと思えば、いくらでもクールになれるのである。
シュラは煙草を吸いつつその様子を見ていたが、椅子に座って脳天気に足をぶらぶらさせるミロの態度が……どうしても気に入らなかった。
生活費を稼ぐ大義名分の元、趣味のギャンブルをするための楽しいモナコ旅行だったのに、ネイティブフランス人の通訳も同行して何の問題もなく楽しめる旅のはずだったのに、何故にこんなトラブルに巻き込まれて、面白くも何ともないバックヤードに連れ込まれて警備員のオヤジの嫌味を聞かなくてはならないのだ。
そもそもだ。
自分の生活費がヤバくなったのも、椅子に腰掛けている場違いな格好したこの男が連れのフランス人にいらぬちょっかいを出したためではないのか?
……まったく、どうして自分はミロの為にこんなに迷惑を被らなくてはいけないのか!
考えれば考える程腹が立ってきたシュラである。煙草の鎮静作用も役に立たない。
「とにかく今回は大目に見るから、次からはこのような事がないようにね」
「メルシィボーク」
カミュは礼を言うと、部屋からミロを連れ出した。裏口から表に出られるのである。

グラン・カジノの前の広場はF1モナコグランプリの際のレーシングコース沿いの為、比較的多くの人間がテレビや雑誌で目にした事があるのではないだろうか?
華麗なホテルやカジノが建て並ぶその場所で、ミロはカミュの腕を取ると子供のようにはしゃいでいた。
「うわぁ~、カミュ、建物すごいなー。聖域とはまた違った感じですごいぜ!」
「………………」
「見ろよ、あの夜景!本当に綺麗だな!」
「………………」
カミュは無言である。何も喋りたくないのである。
だがカミュは口の中が苦くなると同時に、こうなる事を心のどこかで望んでいた事に気付き、何とも表現し難い二律背反的な感情を覚えた。
ミロの面倒は見たくない、いい加減に大人になれと言いたい。
それなのに、いざ自分を慕ってくれるミロが目の前に現れると、悪い気はしないのだ。
『私も度し難い人間だな』
ミロの声が、言語ではなく音としてしか聞こえない。
一方シュラは、苦虫を百匹ほど噛み潰したような顔でカミュにじゃれつくミロを睨み付けていた。
それも仕方あるまい。折角の楽しい休暇を台無しにされたのである。
ここまでされてもミロの事を大目に見られる程、シュラは人間ができていなかった。
「ミロ」
「何だ、シュ……」
ミロがシュラの呼び掛けに振り向いた途端、シュラの右ストレートがミロの頬にヒットしていた。
そのまま軽く吹っ飛ぶミロ。石畳の上に叩き付けられる。
「シュラ、聖闘士の間では私闘は禁止だぞ!?」
カミュが咎めるようにシュラの拳を押さえるが、シュラはギロリとカミュを睨むと、
「俺にも我慢の限界がある…もう我慢できん…もう5、6発殴らせろ!」
と、カミュの手を振り解いてミロに殴り掛かろうとする。だがミロとて黄金聖闘士。シュラに易々とやられはしなかった。
「リストリクション!」
ところがシュラの目の前で、ミロの放った小宇宙が弾ける。
「各下の相手にしか効かん技が、俺に通用すると思うか!?」
シュラの下段蹴りがミロの足下を狙う。バックステップしてかわしたミロであるが、体術はシュラに一日の長がある。
肉弾戦でシュラに勝てる自信がない。
『ここはスカーレットニードルしかないか……』
と、悶々と考え始めたその時。
シュラを止めるのに失敗したカミュが、再び二人を制止し始めた。
「いい加減にしないか、二人とも!私闘は禁止だ!」
「カミュよ。俺とてアテナの聖闘士。私闘が禁止されているのは、百も承知だ」
シュラはポケットから煙草を取り出すと唇に運びつつ、非常にうんざりしたような口調で言う。
「だからといって、『おいた』が過ぎるガキをこのまま野放しにしておく訳にもいかないだろう?」
この『おいた』が過ぎるガキのせいで今回の旅行、いやそれだけではない。
シュラの平和な聖域駐留生活と今月の生活費が駄目になっているのである。
カミュもシュラの感情は痛い程よくわかる。むしろシュラの肩を持ちたい。
しかし、かといって私闘を見逃しておく訳にはいかない。
「折角モナコに来ているのだ。モナコらしい勝負の付け方があるだろう」
「例えば?」
「モナコの故レーニエ大公はモータースポーツを愛した人間と聞く。カーレースで勝負するなんてどうだ?」
「無理だな」
即座に切り捨てるシュラ。
「お前も知っているだろう?ミロは車の運転ができん。教習所を三日で追い出された人間だ」
「………………」
一般生活でも不自由しないように、そしてアテナの護衛を勤める時苦労しないように、聖域では車の免許を取得する事を推奨しているが、12人の黄金聖闘士の中でムウ、シャカ、アイオロス、アイオリア、そしてミロが免許をもっていない。
ムウとシャカは言うに及ばずだが、アイオリアは筆記試験を三回連続で不合格、ミロに至っては……すぐに頭に血が上るので、路上教習に出る事すら適わなかった。
「昔アフロディーテの愛車の真っ赤なモデナ(フェラーリ360のクーペタイプ。日本円にして1,800万円)をミロが運転の練習の為に借りようとした事があったのだが、冷静なアフロディーテが珍しくブチ切れていたな。『君に貸すとイタリアの工芸品が鉄屑になる!』なんてな」
カミュはミロが教習所通いをしている頃ちょうどシベリアに戻っていたので、シュラのその話は初耳だった。
カーレースでの勝負が駄目か。それでは……
「モナコといえば、カジノだろう?ルーレットで勝負するのは駄目か?」
「ルーレットのあるグラン・カジノをどこかの誰かのせいで追い出されたばかりなのだか?」
ジッポの蓋の甲高い金属音が聞こえた後、嗅ぎ慣れた煙草の臭いが夜風に乗ってカミュに届く。
と、一服付けて頭が冷えたシュラは、4つのカジノの内の一つ『カフェ・ド・パリ』にアメリカン・ルーレットがある事を思い出した。
「おい、ミロ!」
カミュがシュラにかかりっきりになっていたのにふて腐れて石畳の上で膝を抱えて座っていたミロは、シュラからぞんざいに呼び掛けられると、眉間に皺を寄せて、