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On s'en va ~さぁ、行こう!~ 後編

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12.『Ca passe ou ca casse!』(一か八かだ!)


さて、いよいよミロ対シュラの黄金聖闘士対決である。
カジノにも人気不人気があり、取っ付き易いスロットやカジノ気分が味わえるルーレットには人集りができていた。
これではとてもではないがタイマンで勝負など出来やしない。
「…ルーレットで勝負は難しくないか?」
カミュが細い眉毛を顰めつつシュラに問うが、シュラは自信たっぷりな様子でニヤリと笑ってみせた。
「この程度で諦めるな。いくらでも方法はある」
「何、お前のその悪人面で他の客を脅すのか?」
ミロがからかうかのように言うが、シュラはやや眉間に皺を寄せただけで返事をしない。
代わりにクルッと巻いたユーロ紙幣を懐から取り出すと、ルーレットに詰めていたクルーピエにさり気ない手付きで渡す。
「s'il vous plait.Je veux faire une partie seulement avec lui」
(失礼、彼と二人だけで勝負をしたいのだが)
フランス語はあまり得意でないシュラであるが、この台詞だけはやけに発音が綺麗だった。
それをカミュに指摘されたシュラは、刃物のように笑うと煙草を口に運ぶ。
「この台詞だけは使う機会が多かったのでな」
「なるほど」
「今度ミロにフランス語を使わせたらどうだ?恐らく『ジュデ~ム』だけ発音いいだろうよ!女口説くのに使えるからな!」
それを側で聴いていたミロは眉間に皺を寄せる。
「そんな事ないぞ!カミュに何か月も特訓してもらったからな!」
「ほぉ、面白い。何か話してみろよ」
灰皿に灰を落としつつ、からかうようにシュラが言う。ミロは唇を尖らせつつ、
「カミュの口癖だ。『セ タン ダンジェ ピュブリク!』」
思わず目を点にしてカミュの顔を覗き込むシュラ。
「お前、意味解っているのか?」
するとミロは悪びれない様子で、
「カミュの口癖だから、『常にクールであれ』じゃないのか?」
「……カミュよ、お前相当頭にキていたのだな……」
「???」
顔中に疑問符を書きまくるミロ。シュラはミロの額を指で小突くと、スペイン訛りの発音で先程のミロの言葉を繰り返した。
「C'est un danger public!」
「そうそう、それだ!」
ミロの表情がパッと輝く。しかしシュラは淡々と、いや、情けないと言わんばかりの顔で、
「『それは皆の迷惑だ』という意味だ」
「…………」
黙り込むミロ。そんなミロにはお構い無しに、クルーピエがシュラに声をかけた。
「ムッシュ、準備できましたよ」
「メルシィ」
シュラの笑みが、獲物を捕らえる猛禽類のそれになった。
ミロは完全に見くびられている事に気付くと、不服そうに顔を歪める。
「随分と余裕だな、シュラ!」
「お前のような『おいた』の過ぎるガキに負けるほど、俺は落ちぶれておらんのでな」
「面白い!」
ミロの小宇宙が、まるで炭火のように燃え出す。
穏やかに確実にジリジリと、静かに燃える。
その気配を察してか、シュラは煙草を灰皿に押し付けた。
するとだ。聖闘士の顔が…危険な香りを漂わせるギャンブラーの顔にがらりと変わった。
途端、賭場を強烈なプレッシャーが支配する。
猛烈な圧迫感に襲われ、百戦錬磨であるはずのモナコのディーラーも顔面蒼白の有り様である。
『何だ……この小宇宙は……』
思わずミロは唾を飲んだ。
その鋭い小宇宙、まるでエッジの上を歩くかのようなギリギリの雰囲気に、黄金聖闘士であるミロもやや気押される。
おいおい、十二宮で紫龍と戦った時もこんなに本気になっていなかっただろう、シュラ。
「シュラめ、本気でミロを倒す気だな……」
側でアンパイヤ役を勤めるカミュが、誰に言うでもなく呟いた。
ミロは顔面蒼白の体でカミュに向く。
「そうなのか?」
「さっきグランカジノでルーレットをやっていた際、こんなにピリピリしていなかったからな」
「…………」
「お前に対してかなり腹を立てていると見える」
ミロはシュラのギャンブルの腕を甘く見ていたようだ。
来る迄は余裕綽々だったのだが、段々と顔色が土色になっていく。
そんなミロにはお構い無しに、シュラがゲームのルールを説明した。
いつの間に取り出したのか、新しいJPSが唇に挟まっている。
「手っ取り早く赤黒で勝負をつける。『Rouge』(赤)『Noir』(黒)の一本勝負だ。いいな?」
「か、構わない……」
ミロの声がかすかに震えている。
シュラの放つ小宇宙が剣呑過ぎて、そのペースにすっかり巻き込まれてしまったのか。
カミュは給仕から受け取ったロゼワインを飲みつつミロの様子を眺めていたが、戦闘時のミロの悪い点は、相手のペースに巻き込まれてしまうところなのではないかと、昔から思っていた。
十二宮での氷河との一戦では、氷河のダイヤモンドダストの無駄撃ちを見くびり足下を固める結果になり、先の聖戦時は頭に血がのぼり過ぎてサガの構えに気付かず、ムウの忠告がなければもろにギャラクシアン・エクスプロージョンを食らっていた。
もう少しクールになって欲しいと、カミュは思う。
『だが』
そんなミロも嫌いでなかったりもする。
さて『そんなミロ』であるが、シュラに気押されつつも懸命に立ち向かおうとしている様子であった。
「一応ハンデをくれてやる。『Rouge』ou『Noir』?好きな方を選ばせてやるよ」
自信たっぷりのシュラ。ここまで自信たっぷりであると、清清しいを通り越して憎々しくなってくる。
ミロは縋るように、ワイングラスを傾けるカミュに向いた。
紺碧の瞳に映るカミュの姿。
憧れて止まない、美しいガニメーデス。
『カミュ……』
そう、この勝負に勝てば、カミュと豪遊できる。勝てば自分の望みは叶う!
『これに、賭ける』
腹は、決まった。
「ルージュ、シルブプレ!」(発音があまりよくないので、カタカナ表記)
レストラン中に響き渡るような大声で、はっきりと、高らかに宣言する。
「ほぉ?で、本当にそれでいいのか?」
唇に刃物を連想させるような薄い笑みを浮かべて、シュラが問う。相手の心に揺さぶりをかけるための心理攻撃である。
しかしミロは…妙に吹っ切れた口調で、
「赤は、カミュの色だからな」
子供のように笑う。その表情に、もはや弱さや迷いはない。
「オレの親友のカミュの髪の色。だからオレは、ルージュで」
「面白い。では俺はNoir」
シュラはクルーピエに目配せした。
「Oui,Monsieur」
クルーピエは軽く頷くとルーレットをまわし、華麗な手付きで球を放る。
カラカラと乾いた音を立てて回るルーレット。その上でバウンドする樹脂球。
小さな球の行方を三人の黄金聖闘士がそれぞれの表情で見守る。
その間シュラは既に勝ったような表情で煙草をふかし、ミロは固唾を飲んで球を見つめ、そしてカミュは……思いつめたように赤と黒の文字盤を眺めていた。
『ミロが勝ったら……』
ミロとモナコ観光をしなければならない。平たい話がミロのお守りだ。
『そもそもミロと勝負するのは自分ではないのに、どうして自分が賭けの対象にならなくてはいけないのだ』
あまりの理不尽さに、カミュは胃の辺りがしくしくと痛むのを感じた。