On s'en va ~さぁ、行こう!~ 後編
シュラはミロの提示した条件のおかしさに気付いている様子だったが、指摘したところでどうしようもないと踏んでいるのか、表立っては何も言わなかった。
『この勝負、ミロが負ければ……私も助かる事が多い』
ミロのためにシュラが使った経費をキャッシュで即座に支払った上、豪奢な金髪を丸刈りにするのはどうでもいいが、『夜間は天蠍宮より上の宮への外出を禁止』というのは、安眠したいカミュにとっては非常に嬉しい話だった。
『だから、シュラに勝ってもらった方がありがたいと言えば、ありがたい』
シュラに勝って欲しい。聖域での静かな夜が欲しい。
カミュは文字盤を眺めながらそう思った。
「星が綺麗だ!」と夜更けに宝瓶宮に突入されることも無くなる。
夜中、指導報告をまとめている時に乱入され、ポセンドン配下になったアイザックを貶される事も無くなる。
いきなり寝室に潜り込まれて、金の無心をされる事も無くなる。
「カミュ、遊ぼう!」と読書の邪魔をされる事も無くなる。
…………いい事ずくめのはずなのに。
なのに、なのに、どうして。
樹脂球がルーレットの黒の文字盤に入りそうになると。
『さすがオレの大親友!』
『やっぱりモナコ来て良かったよ。カミュとこうして二人で食事できるから』
『違うなら、これから狭めていけばいいさ。オレはカミュを一番の親友と思っている。
だから……カミュもオレを親友と思って欲しい』
どうしてこんなにも……ミロの笑顔が浮かぶのだ。
やがてスローダウンするルーレット。
樹脂球はゆっくりと黒のポケットへ……。
余裕の笑みで煙草を灰皿に押し付けるシュラ。
祈るように目を閉じるミロ。
そしてカミュは・・・・。
黒のポケットに入った球を、テレキネシスで赤のポケットへ動かした。
作品名:On s'en va ~さぁ、行こう!~ 後編 作家名:あまみ