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オペラ座の廃人

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第二獄。手の空いたルネは、気分転換にファラオの家に遊びに来ていた。
「ラダマンティス様に何があったのですか?」
スコーンをかじりつつルネが問う。
「『黒き疾風の谷』の橋のたもとで、飛び下り自殺しかねない顔つきで谷底を眺めていましたが」
「a Player」誌を読んでいたファラオはやや顔を上げると、
「パンドラ様にオペラの同伴を命じられたのさ」
「ああ、それはきついですね」
同情するかのようにルネは呟く。
ルネからすれば、むりやりロック系のライブハウスに連れて行かれるようなものだろう。
ファラオは雑誌を閉じると、テーブルの上に頬杖を付いて庭から続く花畑に視線を投げた。
今日から三日程、花畑の住民は地上に帰る。
うるさい奴がいなくなったとホッとする気分もあるが、いつもいる顔がいないと何となく寂しかったりもする。
「パンドラ様も人選をもう少しお考えになった方がよろしいのでは、と思うのですが。ミーノス様ならともかく、ラダマンティス様とアイアコス様をオペラ座に連れて行くのは、少々酷なのではないでしょうか?」
「あのお方の考えている事はわからん。ただ、護衛が必要だっただけだろう」
コーヒーを自分のカップに注ぐファラオ。鼻をくすぐる独特の芳香が室内に漂う。
「我々冥闘士の頂点に立つ三巨頭の方々を差し置いて、平の冥闘士がパンドラ様の護衛を勤めるなど、組織的に少々問題があるからな。パンドラ様が御三方をご指名なさったのも仕方あるまい」
「それはわかりますが、適材適所という言葉があるでしょう。……お替わり」
空になったカップを差し出すルネ。ファラオは慣れた手つきでコーヒーを注いでやった。
ここは他の冥闘士のたまり場になっているらしく、常に誰かがこの第二獄に遊びに来るため、ファラオは給仕ばかり上手くなってしまった。
「ともかく。これも仕事なのですから、ラダマンティス様には覚悟を決めていただかないと」
「お前も結構冷たい事を言うな」
唇をかすかに歪め苦笑いするファラオに、ルネは実にイヤそうな顔で、
「裁きの館の裏で自殺騒ぎなど起こされてはコトですしね。冥界で自殺というのも妙な話ですが」
と、カップを置いたルネはローブの裾を払うと椅子から立ち上がった。
そろそろカロンの船が接岸する時刻なので、裁きの館に戻らなくてはならないのだ。
「コーヒーとスコーンごちそうさまでした。それと、私からこういう話をするのもなんですが」
「何だ」
「オペラまでとは行きませんが、少しは音楽慣れさせておいた方がいいのではないでしょうか?」
「・・・まぁな」
ルネが誰の事を話しているか、ファラオもちゃんとわかっている。空になったコーヒーカップをソーサーの上に置くと、
「その辺はバレンタインと話し合いつつ、考えるさ」
「何故バレンタイン?」
「奴が一番あの方の性格を知っているからな」
「なるほど」
心を許した人間だけに見せる、柔らかい笑みを浮かべるルネ。こんな表情、マルキーノですら見た事ないであろう。
「まぁ、とにかく頑張って下さいね、ファラオ。この程度の苦労、ミーノス様に虐げられている私からすれば大した事ありませんし……フフフフ」
ルネの目が怪しく光ったのは、ファラオの目の錯角だったのだろうか?
いや、感情を過度に押さえた無気味な笑いをここで響かせている以上、恐らく……。

年中虐待を受けている不幸な裁判官を送り出した後、ファラオはケルベロスの犬小屋に赴いた。
ちょうど昼寝中だったケルベロスだが、主人の来訪に気付くと耳をピンと立て軽く鳴いた。
「起こしてしまったか?ケルベロス」
大丈夫、大丈夫だよと言わんばかりに首をすり寄せるケルベロス。
ファラオは愛犬の首を何度も何度も撫でると、少々困ったかのように、
「ルネにはああ言ったものも、正直ラダマンティス様に音楽を聴く耳を養わせる自信がない」
あの上司をうならせるような音楽を奏でられる人間は、この世に存在するのだろうか?
自作の自信作を聴かせたのにラダマンティスに気に入ってもらえなかったら落ち込むから、既製のCDからオペラではないがオペラの匂いのする音楽を探して聴かせるつもりだが、あのオルフェでさえラダマンティスに音楽を聴かせる事ができなかったのである。
・・・・本当に何とかなるであろうか?
先の事を考えると、暗澹たる気分になってくる。
ケルベロスは主人を元気づけようとしてか、ペロンとファラオの顔をなめた。何度も何度も。
くすぐったそうにケルベロスの愛情を受け取るファラオ。
『大丈夫、ファラオだけじゃないよ。僕もいるし、みんな応援してるよ。大丈夫』
愛犬の三つの首は、声にならない言葉でそう語っていた。
ファラオは表情を緩めると、ケルベロスを抱き締めた。愛犬の気持ちが、嬉しくて仕方なかった。
作品名:オペラ座の廃人 作家名:あまみ