さみしさの後ろのほう 11~15
14
猫のぬいぐるみを持って行ってから早一ヶ月経った。あれからも俺は週一、二回のペースで帝の部屋に忍び込んでいる。
帝は基本的に無反応だ。しかし持って行った翌日はよくちらちら俺の事を見てくる。一応気づいてはいるらしい。
そういう事なら言ってくれれば良いのに!そう言ってきたのは菊。今は快く協力してくれている。
献身的な教育の甲斐もあり、菊程までは流石にいかないが、俺もそこそこぬいぐるみ獲得のコツを掴んできたと思う。
その日の三時間目は化学だった。今日は実験をするとかで、白衣を持って化学室へ行けとの事。
面倒臭いとクラスメイトが愚痴る中、俺は嬉しかった。何せ化学室は三年生の教室と同じ階にあるのだから。それだけで喜べるんだから俺も重症だ。
なんちゃら液をどうこう。混ぜて熱すれば何が出来るだとか。気の抜けた教師の説明もそこそこに実験が始まる。始まったら始まったで楽しそうなクラスメイト。まあ、そんなもんか。
「アーサーさん楽しそうですね。化学好きなんですか?」
理由なんて気付いてる癖に菊が聞いてくる。なんだかちょっと悔しくて、まあなとだけ返しておいた。
「なあ、今日も頼めるか?今度は何が良いだろ。この前は犬だったからなあ……」
「えっと、アーサーさん。その事なんですけど、その……」
「あ、都合悪いか?」
「そうでは無く、ですね。あの、私、帝さんとお話したんですけど、帝さんが、」
菊の声はそれ以上続かなかった。少し遠くから、けれど大きな女子生徒の悲鳴に驚いて、喉で止まってしまったからだ。
教室が一瞬静まり返る。しかし次の瞬間には何が起きたとざわざわと騒がしくなった。流石にこの時は教師も動揺した顔をしている。
誰かが何が起きたか言った訳では勿論無い。そんなの誰にも分からない。けれど、何だか、凄く嫌な予感がした。根拠なんて無い、理由なんて無い、ただ本能が叫んでいた。今すぐ行け、と。
「アーサーさん!?」
菊の驚いた声を聞きながら、返事もせずに走りだした。教師の怒る声も聞こえたが、そんなんで止まってたまるか。足の動くままに俺は走り出した。
猫のぬいぐるみを持って行ってから早一ヶ月経った。あれからも俺は週一、二回のペースで帝の部屋に忍び込んでいる。
帝は基本的に無反応だ。しかし持って行った翌日はよくちらちら俺の事を見てくる。一応気づいてはいるらしい。
そういう事なら言ってくれれば良いのに!そう言ってきたのは菊。今は快く協力してくれている。
献身的な教育の甲斐もあり、菊程までは流石にいかないが、俺もそこそこぬいぐるみ獲得のコツを掴んできたと思う。
その日の三時間目は化学だった。今日は実験をするとかで、白衣を持って化学室へ行けとの事。
面倒臭いとクラスメイトが愚痴る中、俺は嬉しかった。何せ化学室は三年生の教室と同じ階にあるのだから。それだけで喜べるんだから俺も重症だ。
なんちゃら液をどうこう。混ぜて熱すれば何が出来るだとか。気の抜けた教師の説明もそこそこに実験が始まる。始まったら始まったで楽しそうなクラスメイト。まあ、そんなもんか。
「アーサーさん楽しそうですね。化学好きなんですか?」
理由なんて気付いてる癖に菊が聞いてくる。なんだかちょっと悔しくて、まあなとだけ返しておいた。
「なあ、今日も頼めるか?今度は何が良いだろ。この前は犬だったからなあ……」
「えっと、アーサーさん。その事なんですけど、その……」
「あ、都合悪いか?」
「そうでは無く、ですね。あの、私、帝さんとお話したんですけど、帝さんが、」
菊の声はそれ以上続かなかった。少し遠くから、けれど大きな女子生徒の悲鳴に驚いて、喉で止まってしまったからだ。
教室が一瞬静まり返る。しかし次の瞬間には何が起きたとざわざわと騒がしくなった。流石にこの時は教師も動揺した顔をしている。
誰かが何が起きたか言った訳では勿論無い。そんなの誰にも分からない。けれど、何だか、凄く嫌な予感がした。根拠なんて無い、理由なんて無い、ただ本能が叫んでいた。今すぐ行け、と。
「アーサーさん!?」
菊の驚いた声を聞きながら、返事もせずに走りだした。教師の怒る声も聞こえたが、そんなんで止まってたまるか。足の動くままに俺は走り出した。
作品名:さみしさの後ろのほう 11~15 作家名:志乃