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任務は道連れ・世は情け

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「お前に任せる。俺が食べられそうなものを選んでくれ」
と素直に頼んだ。
下手に意地を張らない。アイオリアのそのようなところは、とても好ましいとムウは思う。
「わかりました。貴方はお肉の方がお好きでしたよね?」
アイオリアもよく白羊宮に食事に来るので、ムウも彼の好みは知っている。
メニューの中からアイオリアが好みそうなものをいくつか選ぶと、ウェイターを呼んで英語で注文をすませた。
その間アイオリアは、黙って窓の外を眺めている。
空港を利用することがほとんどないので、航空機が離着陸する様子がとても面白かったのだ。
「……どうしました、アイオリア」
大人しく窓の向こうを見つめているアイオリアが気になったのか、ムウが声をかける。
アイオリアは離陸する飛行機から視線を外さぬまま、
「外の様子を眺めていた。飛行機が飛び立つ様は面白いな」
「ああ、貴方はほとんど飛行機に乗りませんからねぇ。私もですけど」
ムウは言わずと知れたテレポーテーションの達人なので、飛行機や列車や船を利用することはほとんどない。
なのに今回飛行機を使用して北欧にやって来たのは、アイオリアと同行しているからである。
アイオリアにはムウほどのテレポート力はない。
ならばムウがアイオリアをテレポートさせればいいだけの話なのだが、アイオリアはそれを頑に拒んだ。
「どうしてですか、アイオリア」
するとアイオリアは目元をやや紅色に染めると、
「お前にこれ以上借りを作りたくない」
と、消え入りそうな声で言った。
今回の任務はアイオリアがメインで行うことになっているが、仕事の内容上、かなりムウの手助けが入ることであろう。
アイオリアはさほど口は達者でないから。
そう予測した彼は、ムウに必要以上に頼りたくないと考えたのである。
「……厄介な人ですねぇ」
出張のための荷造りをしていたムウは、すぐにそれをシオンに伝えると、航空機の手配をしてもらった。
テレポートがムリとなると、一般的な交通手段を利用するしかない。
……それらを回想したムウは、向かい側の席でトナカイのステーキをかじるアイオリアに、一つの疑問をぶつけてみる。
「アイオリア、一つおうかがいしたいのですが」
「何だ」
「もしお一人で任務をこなす場合、ここまで何で来られるつもりだったのですか?」
アイオリアとて、決してテレポートが使えないわけではない。
ただ、ムウが一瞬で地球の裏側に到達できるのに対して、アイオリアはギリシャから……ノルマンディーくらいまで飛ぶのがせいぜいだというだけの話だ。
それ故、何度もテレポートを繰り返せば、一応は目的を達成することができるのだ。
ムウの質問に対し、アイオリアは真顔でこう答えた。
「飛行機だ」
予想外の回答に、ムウの綺麗な色合いの瞳が丸く見開かれる。
驚いた様子の同僚を、アイオリアはどこか不思議そうな視線で見つめ返した。
一体自分は何かおかしい事を言っただろうか?
アイオリアの視線は、無言でこう語っている。
しばらくムウは言葉が出なかったが、ようやく戸惑うような声で、
「飛行機、ですか」
と、ぽつりと言った。
ムウのその反応に、アイオリアは目をしばたたかせると、
「何か変か?」
「いえ、てっきりテレポートを使うものかと思っていたもので」
「テレポートか」
アイオリアの食事の速度が、やや落ちる。
「できん事はないのだが、お前やシャカのように得意ではないのでな。長距離を飛ぶくらいなら、飛行機の方が無駄に小宇宙を使わずにすむ」
率直な物言いである。
ムウはそれもそうですねと感情を込めずに淡々と答えた後、デザートのケーキを口に運んだ。
「……やはり、こういうレストランのデザートに期待するものではありませんね」
少々スポンジがパサパサしている。やはり専門店のケーキが一番ですと結論付けると、ムウは静かにフォークを置いた。
アイオリアは黙々と肉を切っている。[newpage]
空港からバスで、アスガルド近隣の村へ。二時間ほどバスに揺られた後、今度は徒歩でアスガルドに向かう。
アスガルド直通のバスがないので、そこは仕方ない。
「それを考えると、聖域は本当に交通の便がいいですねぇ」
アテネ市内にある聖域は、空港からもさほど遠くない。
出張の多いアフロディーテは、交通の利便性がいいのは助かると語っていた。
アスガルドには宿泊できる施設がないため、二人はその村の宿に宿泊する。
この村からアスガルドは、アイオリアのテレポート能力でも一瞬で飛べる距離である。
ツインの部屋に案内された二人は、着慣れないスーツやコートを脱いで、それぞれの私服に着替える。
ムウはいつものジャミール服であるが、アイオリアのそれには触れないで頂けるとありがたい。
「……貴方も、まともな私服を買ったら如何ですか?」
ムウがノートパソコンを開きつつ言うが、アイオリアは意に介した様子はない。
「俺はこの服が一番落ち着くのでな」
「聖域内ならその格好でも構いませんが、せめて世間に出る時は、恥ずかしくない服装をして頂けますか?」
ムウが丸い眉を顰めている。
アイオリアは純聖域育ちなので、多少世間とズレているところがあった。
同じギリシャ人聖闘士で同い年、ギリシャ語しかできないミロは、修行地が観光地のミロス島だったためだろうか。
ムウから見ても、オシャレだった。
ジーンズやジャケットを若者らしく着こなす術に於いてミロは、他の黄金聖闘士の追随を許さない。
アフロディーテやサガもオシャレといえばオシャレなのだが、アフロディーテはカジュアルというよりもフォーマルな印象であるし、サガもイギリスかぶれ丸出しのトラディショナルな服を好んだ。
アイオリア?だから訊かないで頂けるとありがたい。
「どうせ誰も見ておらんのだ。別にいいだろう」
「……誰か部屋に入ってきたら、どうするのですか?」
「部屋着と言い張ればいいだろう」
「店の外に飲み物などを買いに行く際は、どうなさるのですか?」
「コートを羽織ればいい」
あっけらかんとそう答えるものだから、流石のムウも頭が痛くなってきた。
アイオリアは決して『馬鹿』ではない。
仁智勇揃った、聖闘士の鑑のような男である。
しかし、だがしかし。
現代社会と少々ズレているところがなきにしもあらずなのだ。
ムウも、自分が世間慣れしているとは思ってはいない。
何せ13年間もジャミールで隠遁生活を送ってきたのだから。
世捨て人の生活というものを、ムウは身をもって体験してきた。
……そのムウにさえ、『ズレている』と思わせるアイオリアは、やはりタダモノではない。
人にはわからない程度にため息をついたムウは、自分のトランクの中から黒とグレーのツートンカラーのジャージを取り出すと、アイオリアに渡した。
「これは?」
訝しそうに表情を顰めるアイオリア。ムウはトランクの蓋を閉めながら、
「ジャージですよ。貴方も一着くらいは持っているでしょう?」
「それはわかるが、何故俺に?」
本気で『解らない』といった顔つきである。ムウは語調をやや強めると、
「これを貸しますから、着替えて下さいと申し上げているのです」
「あ、ああ。そうか」
気圧されたのか、ムウの手からジャージを受け取るアイオリア。
作品名:任務は道連れ・世は情け 作家名:あまみ