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任務は道連れ・世は情け

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ベッドの上に座ると雑兵服を脱ぎ捨て、ムウのアディダスのジャージに着替え始める。
その様子を確認しながら、ムウは部屋に備え付けてあったティーバッグでお茶を用意する。
こういう時は、お茶で一服して気分を落ち着かせたい。
慣れた手付きで紅茶を入れると、ムウはカップに静かに口を付ける。しかし。
不味い。
液体が口の中に流入した瞬間、真っ先に浮かんだのはこの言葉だった。
ムウは食べ物に関してはそれなりにいいものを選んでいる。
ムウの同居人はあのシオンだ。不味いものを出すと、テーブルをひっくり返される。
「……まぁ、シオン様の場合、きちんと食費を出して下さるからいいのですけど」
一応、白羊宮の生活費は全てシオンが出している。
ムウも給料をもらってはいるが、シオンの渡してくれる生活費で全てどうにかなってしまう。
ムウがやりくり上手なのも、ご多分にあるが。
「ムウ、しばらく借りるぞ」
ジャージに着替えたアイオリアが、ムウの向かいに座る。
ムウはちゃんと、アイオリアの分の紅茶も用意していた。
一口紅茶を飲んだアイオリアは、ひどく微妙な顔をしながらカップをソーサーに置く。
そして、どこか困惑したような口調で、
「これ、紅茶だよな」
「まぁ、紅茶でしょうねぇ」
そうとしか言いようがない。
念のため確認してみたが、ティーバッグには『紅茶』と書かれていた。
アイオリアはしきりに首を傾げながら、
「普段お前の家で飲んでいるものと大分違うような気がするのだが」
「おや、貴方もお茶の味がわかるのですねぇ。確かにこれは美味しくないですから」
「今お前に馬鹿にされているのだけはわかった」
「それは失礼。そのようなつもりはなかったのですが」
ムウは相変わらず涼しい顔をしている。
「とにかく、お前の宮の紅茶はとても美味いが、これは正直飲めたものではないな」
「うちはシオン様が味にうるさいですからねぇ。やたらなものを出したらシオン様に叱られてしまいます」
「……あの教皇のお叱りか。あまり考えたくないな」
アイオリアが肩をすくめる。
考えてみれば、ムウはあの教皇と生活を共にしているのだ。
家事一般が達人クラスになるのも、仕方のない話だ。
「サガがロンドンに出た際に、紅茶の買い物を頼むのですよ。やはりイギリスは本場ですね。とても美味しい」
「そうか、そうなのか」
納得したのか、うんうん頷いている。
「では聖域に戻ったら、また白羊宮に行ってもいいか?」
「どうぞ。いつでもお待ちしておりますよ。その代わり……」
優雅で柔和な笑顔の中、ムウの目が一瞬妖しく光る。
アイオリアはそれに気付かなかった。
「その代わり、何だ」
「聖衣の墓場からサルベージしてきた聖衣の修復に使用する血液が不足しているのですよ。よろしければ、献血にご協力下さい」
「………………」
ムウの笑みはとても怖いという事を、アイオリアは改めて思い知った。

翌日。
起床した二人がアスガルドに向かうために身支度を整えていると、アイオリアの携帯電話がピロピロ鳴った。
アイオリアもムウも携帯電話を持っていないのだがそれでは任務に差し障りがあるので、アイオロスが自分の携帯電話を弟に貸したのだ。
「ん?」
発信は、『聖域・教皇の間』。
訝しさを覚えつつ、アイオリアは電話に出る。かけてきたのは、兄アイオロスであった。
『アイオリアか?』
「ああ、兄さん。どうしたんだ?」
『今どこにいる?』
「アスガルドに一番近い村の宿だ。起きて身支度をしているところなので、後一時間もすればあっちに着く」
正確に状況報告をするアイオリア。
すると、電話機の向こうからアイオロスのため息が聞こえる。
「……どうした、兄さん」
二回目のこの問い。
アイオロスは電話の目的をまだ弟に伝えていないのだ。
アイオリアが問いかけたくなるのも仕方のない話だ。
アイオロスは、非常に伝えにくいのだが……と、彼にしては珍しく歯切れの悪い口調で切り出す。
『本当に言い出しにくいのだがな……』
「何だ、兄さん」
アイオリアが少々苛立っている。
『それがな』
あのアイオロスがここまで言い淀むのは珍しい。
ネクタイをウィンザーノットに結んでいたムウも、ついついその内容に耳を峙てる。
『それがな…向こうとチャットソフトで話がついてしまったらしくてな……。アスガルドに出向いて交渉する必要が無くなってしまったのだ』
「はぁ?」
期せずして、素っ頓狂な大声が出てしまうアイオリア。こんな声が出たのには、自分でも驚いた様子だった。
「兄さん、その、どうしてそうなったんだ?」
驚きと焦りと苛立ちがミックスされた声で、アイオリアが詰問する。
アイオロスの回答は、以下のようなものであった。
昨日の夜の話。アテナこと城戸沙織が気分転換にスカイプでおしゃべりを楽しんでいたところ、丁度アスガルドの主・ポラリスのヒルダがログイン。
話の流れで、アテナの聖闘士が明日アスガルドにロイヤリティの配分交渉に赴くという話題になったようだ。
『今、ここで話した方が早くないか?』
とのヒルダの申し出により、ネットをフル活用した交渉が始まり、あっさりと用件が済んでしまったそうなのだ。
『……と、こういう事情なのだ。そこまで出向いてもらったのに申し訳ないが、聖域に戻るようにムウに話してくれ。ここまでの出張費は経費で落とすと教皇もおっしゃっているので、安心しろ』
「そうか、わかった、兄さん」
それ以上何も言わずに、何も言えずに、アイオリアは通話を切った。
この時アイオリアはどうしようもなく、自分でも不思議に思うほどガッカリしていた。
どちらかというとアイオリアは、このテの頭と言葉を少々使う仕事が苦手だった。いや、むしろ嫌いだ。
ええい、面倒!と叫んで、ライトニングプラズマで粉砕したくなる。
けれども、一度受けた任務がこんな形で終わってしまった事に、腹の底がヒクヒクするような苛立ちを覚えていた。
『途中までやりかけた仕事を、終わってもいないのに投げ出すのは気に入らん』
現在のアイオリアの偽らざる本音は、こんなものであった。
ムウは肩で息を吐いた後も仕度を整えている。
任務が中止になった以上、これからギリシャまで戻り、教皇の間に報告に出向かねばならない。
「アイオリア、話はわかりました。用事が済んでしまったのであれば、我々がどうこう言う筋合いはありません。早く聖域に戻りましょうか」
努めて落ち着いた、平時の口調をムウは作る。
慰めるような物言いは、かえって逆効果だ。
ああ、スーツは落ち着きませんねぇ……と、白羊宮に戻ったらジャミール服とエプロンにさっさと着替えようとムウが考えていると。
アイオリアは、丁寧な、とても丁寧な手付きで携帯電話をテーブルの上に置き、同僚に背中を向けたまま、告げた。
「俺の任務は、これで終わりなのか?」
「先程アイオロスにそう言われたのでしょう?まぁ、戻って報告をするまでが任務ですからね。早く帰りましょう」
正直、ムウはホッとしていた。
アイオリアには交渉事は向いていない、言葉を使う仕事は向いていないとわかっているからだ。
少々直情的なアイオリアでは、話がまとまらなくなってしまうのが目に見えている。
だがアイオリアは静かに頭を振ると、
作品名:任務は道連れ・世は情け 作家名:あまみ