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兄さんの秘密

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白羊宮に顔を出して、一言、休みます、もしくは手紙で欠勤の意を伝えるにしても、白羊宮の投函ポストに投函した方が確実なのではないか?
人馬宮に手紙の書き置きなど、教皇やサガが見落とした場合どうするつもりだったのか。それなのに、何故アイオロスはこの方法を取ったのだろうか。
「白羊宮を極力素通りしたかったと見るべきでしょうね」
一つ目の翻訳が終わったのか、カミュはトントンと机で叩いて書類を揃える。
シオンは黙ってカミュの話を聞いていたが、特に感想らしい感想は漏らさなかった。
今留守にしている人間の事をあれこれ議論しても、話は進まない。
と、その時。机上の電話が鳴った。慣れた手付きでサガが電話を取る。
「はい、こちら執務室」
電話を受けたサガの目が、わずかに丸くなる。予想しない相手からの電話だった模様。
「どうしたムウ。お前がこちらに電話を寄越すなど、珍しいな」
サガの言葉を聞き、シオンとカミュも手を止めた。
「ああ、そうか、わかった。しばらく眠らせておいてやれ。後でアイオリアに迎えに行くよう、伝える」
そうムウに伝えると、サガは静かに受話器を置いた。シオンはさらさらと勅令をしたためながら、
「ムウからか」
「はい。アイオロスが今し方戻ってきたようなのですが、白羊宮の玄関先で行き倒れのようになって、眠っていたそうです」
「……行き倒れ」
この聖域では、あまり耳にしない単語である。
サガは続けて、
「現在は一応、居間のカーペットの上に寝かせてあるそうなので、後ほどアイオリアを迎えに寄越すと伝えました」
ほぼ完璧な対応だ。
シオンはそうかと一言呟いた後、しばらく勅令書作成に集中していたが、突然。
「あのアイオロスが行き倒れになるとは、一体何があったのであろうな」
こうぽつりと漏らす。
眉間に皺を寄せて、考え始めるカミュ。
黄金聖闘士の中でも最上級の実力を誇るアイオロスがそうなるなど、本当に何があったのやら……。
「教皇、何者かの襲撃を受けた可能性は?」
「サガよ、アイオロスに手出しするような命知らずの阿呆が、海底にも冥界にも居ると思うか?」
「いや、別の……アスガルドやアニメの映画に出てくるような、我々の与り知らぬ存在が……」
「あったら、とっくにシャカが片付けておろう。彼奴も最近は暇しておると見えて、よくアイオリアの話相手になっておるわ」
「ああ、そういえばそうですね」
取っ付きにくい印象のあるシャカだが、アイオリアとはよく話していた。
ミロやシュラは、『よくあのシャカと長々と会話が出来るな……』と、驚くと同時に感心していたが、アイオリアはあっけらかんと、
『シャカはちゃんと話を聞いてくれるぞ』
その答えが意外すぎて、思わずミロはシュラと顔を見合わせてしまったという。
シオンは書類を文箱に仕舞い、首をコキコキ鳴らしながら椅子から立ち上がる。
「しばし瞑想に入る故、後を頼む」
「御意」
サガとカミュは静かに頭を垂れる。だが二人ともわかっていた。
教皇の瞑想とは、昼寝と同義語である事を。
しかしサガは、偽教皇時代に散々それをやったので、シオンの事をとやかく言う資格はない。

「……アイオロスがこんなに疲れ果てるなんて、一体何でしょうねぇ」
白羊宮の家主、もとい守護者は、自分の家の居間でクークー寝息を立てている次期教皇候補を眺めながら呟く。
カーペットの上で眠っているので掃除機も掛けられないが、どういう訳かアイオロスの身体は泥などでひどく汚れているため、布張りのソファーの上に乗せる気にはなれなかった。
身体の汚れ具合から見るに、山の中を一晩中歩き回っていたような感じである。
しかし、その割にはズボンや靴の汚れは激しくなく、ムウとしては首を傾げる他なかった。
「ん?」
ふとムウは、アイオロスの肩に付着した、一片の小さなゴミに気付いた。
細い細い、それはまるで糸屑のようであったが、手に取ってみると、それは……。
「これは……」
ムウの眉が、考え事をするかのように寄せられる。こんなものが服につく場所なんて……。
『もしかして』
ある仮説が、ムウの頭の中に浮かぶ。それを確かめるため、ムウはアイオロスの身体に鼻を近付け、静かに臭いを嗅ぐ。
微かに鼻につく、泥と血と獣の臭い。
「なるほど」
口元に薄い笑みが浮かぶ。
アイオロスがどんな経緯で『それ』に立ち会う事になったのかはわからないが、随分と疲労困憊ではないか。
黄金聖闘士一人をへばらせるなんて、大したものだ。
「お風呂でもわかしておいてあげましょうか」
ムウが風呂場に向かおうと腰を上げると、玄関のチャイムが鳴った。
「ムウ、兄さんを引き取りに来たぞ」
アイオリアが白羊宮にやってくる。ムウはご面倒をかけてすみませんねと口先だけで言うと、獅子座の聖闘士を居間に通した。
「アイオロスはこちらで眠っています」
「そうか」
と、カーペットの上で眠っているアイオロスを目にし、流石に眉を顰めるアイオリア。
一体自分の兄は、どこで何をしてきたのだか……。
「きっと、シュラに半殺しにされた時は、こんな感じだったのだろうな」
「それ、シュラ本人の前で言わないで下さいね。あの人、中途半端に落ち込みますから」
穏やかに咎めたムウは、使い古したバスタオルを一枚アイオリアに渡した。
これでアイオロスを包んで、人馬宮まで運んでいけということなのだろう。
「すまんな、ムウ」
「どうせ雑巾にするものですから、あまりお気になさらずに」
そう言い残して、クローゼットを開けるムウ。中から掃除機を取り出し、居間の掃除をするのである。

執務が終了したサガとカミュは、人馬宮に足を向けた。行き倒れになったアイオロスがどんな様子なのか、少々気になったのだ。
「ムウの話では、気を失ったように眠っていたとのことですが」
私服姿のカミュが、石段を下りながらそう話す。人馬宮をのぞいた後、アテネ市内で買い物をするつもりらしい。
サガは何をやらかしたのだ、あいつは……と、口の中でしきりに呟いている。
いつもは直筆の書類はアイオロスが清書するのだが、今日は不在だったため全てサガがしたためた。
サガも決して字が汚い訳ではないのだが、ここのところパソコンばかり使用しているので、ペンを握ると手が震えた。
で、出来上がった書類を見て、シオンも渋面を浮かべてしまう。
『……下手な訳ではないのだがな』
そう口では言いつつも、丸い眉の間に浮かんだ皺が、教皇の本音を何よりも雄弁に語っていた。
完璧主義のサガには、シオンのその目が……辛かった。
「カミュは手書きで文字が乱れんな」
「報告書は手書きで書くようにしていますからね」
苦笑いを浮かべながら答えるカミュ。サガは、私も少し字の練習をするか……と独語すると、人馬宮の玄関のドアを開けた。
十二宮は基本、2Kの造りになっている。ただ、その間取りでは使い辛かったり、家族が多くて部屋が足りない場合は、各自でリフォームしていた。
特にそれが顕著なのは白羊宮で、星矢は訪れる度に、
「どこの一般家庭だ?」
とニヤニヤ笑っている。
さて、人馬宮は宮内へのアスレチック建築に力を入れているので、居住スペースのリフォームは行っていない。
作品名:兄さんの秘密 作家名:あまみ