悩める金獅子
この時もムウの顔をのぞき、甘く穏やかな口調で訊ねてくる。ムウは小さく頷くと、昼間のシャカとの会話内容を師に伝えた。
「……と、こういうことがあったのです。シオン様」
淡々と語り終えたムウ。シオンは懐手で顎を撫でながら、
「お前の言い分も、シャカの言い分もわかるな」
シオンにしては曖昧な物の言い方をした。
「シャカが彼奴に理由を話さなかったのは案の定ではあったが、彼奴なりにアイオリアを想った結果なのであろうな」
シオンは妙に嬉しそうである。
それに少々気分を害するムウ。
この師匠は、一体何が楽しいのか。
「シオン様、何故そんなに楽しそうなのですか?」
「何故であろうな?」
くっくっくと喉の奥で笑うと、豪奢な銀の髪が揺れる。若い頃は見事な金髪だったらしいが、現在は月の光で染め上げたような見事な銀髪である。
「シオン様!」
らしくもなく、語調が荒くなる。シオンは子供を宥めるかのようにムウの頭を軽く撫でると、
「私は嬉しいのよ。アイオリアは幼い頃、仲間から疎外されていたという話を聞いておったのでな。アイオリアを想う人間がおって、私は嬉しいのよ。アイオロスも胸を撫で下ろそう」
「ああ……」
ようやく納得するムウ。
シオンはシャカの言葉の内容ではなく、シャカがそう発言するに到った経緯を思い、嬉しがっているようなのだ。
アイオロスも胸を撫で下ろすと言っているあたり、もしかしたら執務中、アイオロスが心配だ心配だとぼやいていたのかもしれない。
「まぁ、アイオリアの稽古が目に余るようなら、こちらで対策を採る。彼奴の元に自らの稽古が不評だとの噂が届いたのであれば、彼奴の次の行動は自ずと見えよう」
「?」
ムウは時折、自分の師の言葉が理解できない時がある。不思議そうに己の顔を見返す弟子にシオンは笑って、
「明日の昼餉は倍用意しておけ」
とだけ告げた。