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悩める金獅子

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翌日。
午前の家事と修復の下準備を終えたムウは、時間を確認した後昼食の支度を始めた。
台所で冷蔵庫の中身をのぞいていると、昨夜の師の言葉がふと蘇る。
「お昼を倍用意、ですか」
と、目に飛び込んできた業務用の蒸し中華麺。近々皆でバーベキューをやろうと、一昨日購入したものであった。バーベキュー後の焼きそばは、妙に美味い。
「……これにしますか」
野菜室から、たまねぎ、ピーマン、もやし、キャベツ、人参を取り出す。
袋に入った麺をテーブルの上に置き、料理台で野菜の下ごしらえをしていると、金牛宮のお使いから戻った貴鬼が目を丸くした。
「ムウ様!こんなに焼きそば作っちゃうんですか!?オイラこんなに食べられないですよぉ!!」
「シオン様が、今日の昼食は倍用意しておけとおっしゃっていたのですよ。理由は知りませんが」
「ふーん……」
シオンがそう命じるのなら、きっと何かがあるのだろう。
貴鬼は多量に野菜を刻む師の後姿を眺めると、お手伝いを始める。
焼きそばなので、ソースや紅しょうがや青海苔を冷蔵庫から取り出しておく。
ダイニングテーブルの上を片付け、布巾で綺麗に拭く。お皿を用意しようと食器棚の戸を開けると、
「ああ、今日は大皿に盛り付け、そこから各自取る形にしましょう」
野菜と麺を炒めながら、ムウは弟子にそう指示した。
元気に、「ハイ、ムウ様!」と返事をした貴鬼は、パーティくらいにしか使わない直径約40センチの皿を棚の奥から引っ張り出す。これくらい巨大な皿でないと、今日の焼きそばは盛り付けられない。
では、そんな多量の焼きそばを、ムウはどのようにして料理しているのか。
テレキネシスを駆使してフライパンを二つ使い、炒めているのである。
右手と左手に一つずつフライパン。菜箸をテレキネシスで動かし、麺が焦げぬようかき混ぜていた。
黄金聖闘士の中でこれができるのは、おそらくムウだけであろう。
……というより、他の黄金聖闘士はこんなことをやろうとは思わない。
午後12時15分。焼きそば完成。
やはりテレキネシスを駆使して、「配給かよ」と突っ込みたくなるくらい大量の焼きそばを皿に盛り付けていると。
白羊宮の玄関のチャイムが鳴った。つい顔を見合わせるムウと貴鬼。
誰がやってきたのか、玄関に出向かずとも外から感じる巨大な小宇宙で嫌でもわかる。
「……ムウ様」
物言いたげな貴鬼の表情。
貴鬼はこの時、何故シオンがムウに昼食を倍用意しろと告げたのか、やっと理解できた。
ムウは無言で首を振ると、目線で弟子を促した。
「はーい、どちらさまですかー」
そう大きな声で言いながら、貴鬼はドアを開ける。
本当はそんなこと尋ねなくとも、誰が来たのかわかっていた。ドア板越しに感じる黄金の獅子の小宇宙が、来訪者の正体を何より雄弁に語っている。
開かれたドアの向こうには、予想通りの人物の姿があった。
「貴鬼よ、昼時に悪いな」
運動部の学生のようなジャージ姿のアイオリアが、多少申し訳なさそうにわびる。
どういうわけかアイオリアは、昼食時に白羊宮を訪れることが多かった。
本人の性格上意図的なものではないのだろうが、こう何度もランチタイムの訪問が多いと、色々とかんぐりたくなる。
「どうしたの、アイオリア」
「お前の師と話がしたい。いいか?」
「ちょっと待ってて。ムウ様ー!!」
台所の師に、許可を求める貴鬼。ほどなく、「お上がりなさい」と返事があった。
アイオリアはニコッと貴鬼に笑いかけると、家の中へ入った。
なんとなく、なんとなくだが、昔に比べてアイオリアは性格が丸くなった気がする。
貴鬼は最近のアイオリアを見ていて、そう感じる。
以前……聖戦が起きる前は、あんな風に笑顔を見せていたことなど、まずなかったのではないか。
貴鬼の記憶の中にあるアイオリアはしかめっ面が多かったから、尚更そう思うのかもしれない。
「ムウ、邪魔するぞ」
「おや、アイオリア」
ムウは焼きそばをテーブルに配膳中だった。テーブルの上に並べられた野菜焼きそばで、アイオリアの顔に朱が差す。
それを見やったムウは呆れたように、しかしどこか憎めないといった体で、
「沢山作りましたから、召し上がっていってください」
と告げる。
アイオリアの答えは聞くまでもなかった。

「おお、ムウよ!とても美味いな」
アイオリアが大皿を抱えて、山盛りになった野菜焼きそばを頬張っている。
ムウと貴鬼はアイオリアの食べっぷりをしばし呆然と眺めていたが、焼きそばを食べずにいたら、
『食べないなら俺がもらってもいいか?』
と言われかねないので、我に返って箸を動かす。
「アイオリア、我が白羊宮に何の御用ですか?」
ムウが咀嚼の合間に尋ねると、アイオリアは口の中に焼きそばを入れたまま大きく頷く。
一度ごくりと飲み込んだ後、
「俺の稽古が、あまり評判が芳しくないとの噂を耳にしてな……」
そう語る際のアイオリアの表情。
僅かに影が差したように見えたのは、光の加減のせいだけではあるまい。
「なぁ、ムウ。俺は先日、俺の稽古が不評だという噂を、耳にしたのだが……」
「ああ、そうかも知れませんねぇ」
のんびりとした口調で相槌を打つムウ。その右手は、青海苔を焼きそばの上に振りかけている。
アイオリアはムウの言葉にがたんと椅子を鳴らし血相を変えて立ち上がると、ムウに詰め寄った。
「ムウよ、そうかもしれませんとはどういう意味だ!?お前は俺の稽古が不評な理由に、心当たりがあるというのか!?」
詰問するような表情と声であったが、その瞳はどこか頼りなさそうに揺れていた。
アイオリアは不評の噂を耳にしてから、ずっと悩んでいた。
自分は全力で、一生懸命に稽古をつけている。
自分の持てるもの全てを伝えようと見せようと、アイオリアなりに真剣に、雑兵や白銀・青銅聖闘士に向き合ってきたのだが。
何故それが不評なのか、わからなかった。
自分も兄アイオロスに、そう稽古をつけられてきた。故に、アイオロスはこの稽古方法しか知らなかったのだが。
どうしてそれが嫌がられるのか、わからなかった。
「ムウよ、心当たりがあったら教えてはくれないか?」
段々と泣きそうになっている。この様子では相当悩んだようだ。
アイオリアは本当に鈍いですねぇ。
口の中でそう呟くムウ。面と向かって伝えたら泣き出しかねない。
アイオリアも、貴鬼の前で泣くのはいやだろう。
けれどもこの様子では、ムウが口を割らないと梃子でもアテナの命令でも、動きそうにない。
『仕方ありませんね……』
ムウは腹をくくった。
「アイオリア、貴方はどのようにして、皆に稽古をつけていますか?」
「それは勿論、俺は全力で皆に稽古をつけている」
「貴方がどんな時でも全力なのは、貴方の美点であると私も思います。
ですが、稽古の相手は皆、貴方よりも実力が下の人間ですよね?」
「そうだな。白銀、青銅、それに雑兵が主だ」
……その格下の相手にも、全力で拳を向けるアイオリア。これまで死人が出ていないのが、不思議なくらいである。
ムウはお茶を一口飲んで、喉を潤す。そして翡翠色の目でアイオリアを見据えると、
「白銀や青銅、ましてや雑兵が、黄金聖闘士に本気で全力でかかってこられたのでは、嫌になってしまっても仕方ないでしょう」
作品名:悩める金獅子 作家名:あまみ