悩める金獅子
数日後。ブラジルからギリシャに帰国したアイオリアは、再び稽古に参加するようになった。
以前と違うのは、雑兵たちから然程悪く言われなくなったことだった。
「アイオリア様が力の加減を覚えた」
「アドバイスが適切だ」
と、もっぱらの評判なのだ。
「いきなりライトニングボルトだったのに、今はそれがない」
「一人一人の実力を見て、組み手を始める」
等々、以前の悪評とは180度違う高評価が、アイオリアの稽古に与えられている。
その話をミロから聞いたムウは、あまりにも信じ難い内容だったので、大きな目を真ん丸くしている。
「……アイオリアがですか。それはそれは驚きですねぇ」
カルピスをミネラルウォーターで割り、ミロにサーブする。
ミロは一言礼を言うと、ストローをくわえた。
ムウの作るカルピスは濃度が絶妙で美味しい。既製品より美味しいのではないかと、ミロは思う。
「ああ。ブラジルから戻ってきてから、えらく大人気だぞ。あいつの稽古」
「ブラジルで何かあったのでしょうねぇ」
綺麗な口元に柔らかい笑みを浮かべるムウ。
アルデバランが稽古下手なアイオリアのために、『一肌』脱いでくれたに違いない。
何をどうやったのかは、ムウの与り知らぬ所であるが。
ミロはチューチューとストローでカルピスを吸い上げながら、
「雑兵たちは安心して稽古に出られるようになったと、大喜びだぜ。白銀聖闘士たちも同様だ」
「それが一番ですけどね」
ムウの肩からやや力が抜ける。彼もアイオリアの無茶な稽古で迷惑を被っていた一人なのだ。
「まぁ、『結果が全て』です」
端正な口元に淡い笑みを浮かべると、自身もカルピスのグラスにストローを差し、慣れた手付きでステアした。