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自分らしく
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彼方から 第二部 第七話

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 ――あたし……今、何をしようとしていたのかしら

 思い出せない。
 確かに、何かをしようとしていたはずなのに……

     ノリコ!

 誰かの呼び掛け。
 聞き覚えのある声……

     ノリコ!!

 強く、名前を呼ぶ少年の姿が浮かぶ。

 ――あ……そう――だ
 ――行かなきゃ……彼が、助けがいるって、言ってたんだっけ……
 
 その姿に、ノリコが一歩、足を踏み出した時だった。
 
    『ノリコを守ってくれ!!』
 
 脳裏に、化物に飲み込まれそうになりながら、そう叫んだイザークの姿が浮かび上がってくる。
 化物に飲み込まれるイザーク……繰り返される映像に、ノリコはイザークの名を叫んだ。

    『危ない ノリコ!』
    『う』
    『バーナダム!』

 背中を痛めているのに、身を挺して助けてくれた。

    『一方は火を作れ』
    『もう一方はノリコを守れ』

 化物に襲われてからの皆の行動の全てが、まるで映画でも見ているかのように再現される。
 想いが、蘇る。

 ――みんな……!!

    『ごめんなさい ごめんなさい』
    『何謝ってんだい ノリコ』

 ――そうだ、みんな……みんな、あたしが弱いばっかりに
 ――大変な目に遭ってる

 ――ああ、あたしにも
 ――少しでも、みんなを守る力があったら……

 ――あったら……

 もしも、あったとしたなら、どうするだろうか……
 それで本当に、皆の助けになれるのだろうか。
 皆が酷い目に、遭わずに済むというのだろうか……

 力は欲しい。
 けれど、素直にそれを心から望むことは出来なかった。

     いいよ ぼくが力をあげる

 それは、さっきの少年の声。
 振り向けば確かに、そこには、光に包まれた少年の姿があった。

    ぼくの方へおいで ノリコ

 優し気に微笑み、そう言ってくる少年。
 先ほどまでの憂いに満ちた表情は、なかった。

 ――え?

 霞懸かったような思考の中で、ノリコは矛盾に気づく。
 もう一人、確かに強く名を呼ぶ少年がいたことに。

    ノリコ!!

 もう一人の少年が、必死に手を伸ばし、悲痛な面持ちで名を呼んでくる。

    そっちへ行っちゃダメだよ
    力をあげられなくなっちゃう

 力をくれるという少年がそう言いながら、手を差し伸べてくる。
 どこか無機質な笑みを浮かべている。

    今のままの君じゃ 大したことは何もできない
    そう思っているんだろ? ノリコ

 ――うん……

 そう、確かにそう思っている。
 いや――そう、思っていた。

    何がいい? 男達のように剣を振るう力?
    占者のような 不思議な力?
    ぼくなら その力をあげられる
    だから……こっちへおいで ノリコ

 それは、甘い……甘い誘惑の言葉。
 欲するものをくれるという、欲望を満たしてくれるという――望みを、叶えてくれるという、『甘い罠』。
 ノリコに力をくれるという少年の表情は、確信に満ちている。
 誰もが逆らうことのできない、我欲。
 暫し、抗って見せても、いずれは……堕ちる。
 ノリコも、例外ではない――そう、確信している。

 力をくれるという少年を、ノリコは少しの間、じっと、見詰めていた。

 ――でも……

 だが、ノリコの足は反対の方へ――強く名前を呼んでくれる、憂いに満ちた表情を見せる、もう一人の少年の方へと向いていた。

    ノリコ!!

 ――あの彼が
 ――今のままのあたしに出来ることがあるって言ってた

 その先に見える少年の姿はとても小さくて、遠い。
 
 ――やるべきことが、今の自分にあるのに
 ――それを放り出さなきゃ貰えない力なんて……
 ――いらない

 けれど、ハッキリと捉えられる。

 ――あたしが今、行かなきゃいけないのは、あっちだ!!

 ノリコは、遠くに見える、もう一人の少年が放つ光に向けて、走り出した。

    ノリコッ!?

 走り出したその背に、力をくれると言った少年が叫ぶように名前をぶつけてくる。
 瞬間、気配が変わる。
 不気味な音が、ノリコの耳朶を掴んだ。
 薄く、消えかかっている少年の姿の背後に、霧を纏った『何か』のシルエットが見える。
「きゃあああっ!!」
 ズルズルと音を立て、這いずってくるのはあの、化物。
 黒く細い髪の毛を依り代とし、幾人もの人々の負の念を集め、力を付けた化物の姿。
 焦点の戻った瞳に、霞が晴れたノリコの思考に、その姿が映り、恐怖が戻ってくる。

    幻術から抜け出せたんだね!

「え?」
 怯え、足が止まるノリコに、少年が声を掛ける。

    きみは今まで あいつの幻術にかかっていたんだよ!
    その間に 距離を詰められた!!

 ――え?

    走って! ノリコ!!

 ――えーーーっ!!

 少年に言われるがまま、何がどうなっているのか把握しきれぬまま、ノリコは全力で走り始めた。

 ――げ……幻術……
 ――じ……じゃあ、あの力をくれるって言ってたのが……

 暗闇の中、優しく微笑んで手を差し伸べてきたのが、『化物』……
 走りながら、改めてその怖さを感じる。
 バーナダムをおかしくしたのも、幻術ではなかったにせよ、今みたいに、精神に攻撃をされていたのだと、思う。
 気づかないうちに……

 ――いつも、力が欲しいと思っていたのは事実なのに
 ――どうしてあたしは、あいつの言うことに引っ掛からなかったのかしら
 
 ふと、そう思った。
 確かに、化物の幻術にかかっていた。
 自分の力の無さを痛感させられていた。
 なのに、どうして……

 視界に、宙に浮く少年の姿が入ってくる。

    『君が君 そのままで出来ることだから』

 少年が言ってくれた言葉が、頭の中で響いている。

 ――あの言葉だ
 ――あの時、あたし、何だかパワーが出るような気がしたんだ

 そのままでいいと――無理も、背伸びも、しなくていいのだと、自らに無いものを、欲する必要などないのだと……

「あ」  ベシャッ

    ノリコ!!

 どういうタイミングか……思い切り、顔から地面に突っ込むように転んでいた。
 
 ――足がもつれた
 ――恐さで体が委縮して、上手く走れない
 ――こういう時はどうする
 ――自分に無い力を欲しがって、嘆くのか……

 自分に起きたこと、自分にあるもの、今すべきこと、そして今出来ること……
 ノリコは前を見ていた。
 客観的に、自分自身を見ていた。

 ――違うっ! 違うぞ!!

 ノリコは力強く、地面に両の手の平を着くと、

 ――そんなことじゃ、パワーは出ないんだ!

 ガバッと、思い切り良く、体を起こした。

 ――あたしのままで出来ること、それは何だ

 すぐに立ち上がると、少年を追って走り出す。

 ――あたしは非力だ

 その後ろを、髪の毛の化物が追ってくる。
 触手を伸ばし、捉えようとしてくる。

 ――逃げることしか出来ない
 ――だったら……

 ――精一杯逃げることだ!!