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自分らしく
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彼方から 第二部 第七話

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 森の住人たちの争いを思い返しているのか、少年の眼が、表情が、憂いと悲しみに満ちてゆく。

    刃物を持ち出し お互いに殺し合う前に気づいて欲しかった
    自分たちが操られていることに
    お互いがお互いの憎しみを増幅し
    自らの首を絞めているのだと……

 ノリコを導き、少年は聞かせてゆく、遠い昔の出来事を。
 少年の言う『アイツ』が、何をしたのかを。

    彼らの思いのエネルギーを利用して
    アイツはここに結界を張った
    居心地のいい 自らの棲み処として

    だから 彼らには出口がない

 少年の瞳から一筋……涙が頬を伝ってゆく。

 ――悲しんでる
 ――痛いぐらいの悲しみが、伝わってくる

 かつての住人たちに起こった出来事を、その惨劇を……
 少年はどれほどの思いで見てきたのだろうか。
 成す術もなく、激しさを増してゆく争いを、見ているしかなかったのだろうか。
 伝わってくるのは深い『悲しみ』――憎しみも憤りもない、ただ、『悲しんでいる』

    死に絶えた今も 彼らの魂は苦しんでいる
    恨みと憎しみの念に縛られ あんな化物を作り出した
 
 ――ああ、この彼も
 ――その集落に住んでいたんだろうか

    依り代として棲みついて
    堂々巡りを繰り返している

    出口のない 森の中
    アイツに操られ
    悪意の世界から 抜け出せずに

 ――心ならずも巻き込まれて
 ――殺されたんだろうか

 少年の言葉に、ノリコの心は同調してゆく。
 身に沁み入るように伝わる、彼の心に……

    だけどぼくには 聞こえるんだ

    それに疲れ果て 助けを呼ぶものの声が
    操られながらも 何かが違うと気付き始め
    抜け出そうともがく声が

 俯き、憂いに満ちた表情で語っていた少年の眼差しに、次第に決意の色が見える。

 ――ところであたし、今、幽霊についてってんのよね
 ――い……いいのかしら? なんだか全然、恐くないもんだから……
 ――それに、こんな霧の中、みんなとはぐれちゃって、どうしたらいいのか分からないし……

 そんな、呑気なことを思いながら、ノリコは少年をしっかりと見詰めて、付いてゆく。

    出口をつくりたい
    出口さえあれば その人たちを助け出せる

 ――それに……

    君の仲間も 助け出せる

 ――イザークも……
 ――そう、彼が言うから……
 
 ノリコの脳裏に、イザークが化物に飲み込まれた光景が蘇ってくる。
 通信を交わした時、彼の声はしっかりとしていた、けれど……

    手を借して ノリコ

 イザークは強い。
 自力で、化物から脱出してしまうかもしれない。
 けれど、それでも……
 そうすることで、彼も……そして、森の住人たちの魂も助け出せるのなら――

「あ……あの」
 ノリコは躊躇いがちに、少年に声を掛けた。
「あたっ――あたしは普通の女の子、手を借すが、できるですか?」
 少しの期待と、大きな不安を抱えながら、彼女は少年に訊ねる。

    うん

「あの……」
 ――あたし……何の力もないのに
 
 少年の迷いのない返しに、却ってノリコの方が迷ってしまう。

 ――何の力もないのが情けなくて
 ――他の人達みたいに、何か一つでも出来たらいいなって、いつも……

 それが良く分かっているからこそ、ノリコは自分に自信など、持てなかった。
 イザークやエイジュのように、能力が使える訳ではない。
 ジーナのように占える訳ではない。
 アゴルのように知識が豊富な訳でもない。
 ガーヤやバラゴ、他の面々のように、剣を持って戦える訳でもない。
 こんな時、いつも誰かに護ってもらわなければならない……

 そんな自分に何が……何より、こんな『あたし』でいいのだろうか……と。

    大丈夫 君が君
    そのままで 出来ることだから

 ノリコの不安を、心配を、払うかのような少年の言葉。

   『そのままで……』

 剣を扱えなくても、能力なんか無くても良いのだと。
 ノリコがノリコのままで在ることが大切なのだと――特別なことなど何も必要ないのだと、少年の言葉はそう言ってくれている。
 だから、何の力も無いなんてこと、思わなくていいのだと、そう言ってくれているのだと……

 ノリコはそう思った。
 その『言葉』は、何も出来ないと嘆く彼女の心に、小さくても確かな光を与えていた。


 キィイィィン――!!

「きゃっ!」
 激しい耳鳴りと、何かが頭の中に入り込む感覚に、ノリコは思わず悲鳴を上げ、耳を塞ぐように頭を抱えていた。
 少年の表情が歪む……

 ――あ……頭が

 意識が一瞬遠のく。
 激しい耳鳴りとそれに伴う頭痛に、ノリコは必死に耐えていた。

   *************

 凄まじい爆発音と共に、イザークを飲み込んでいた化物の体が千切れ、四方に飛び散ってゆく。
 動かぬ毛の塊となって、屋根の上から地面へと落ち、動かなくなってゆく。
「……なんだ? この霧は……」
 自らの力で化物から逃れ、地に降り立ち辺りを見回すイザーク。
 今、爆発させた力のせいだろうか、息が少し弾んでいる。
 周囲の状況が何も把握出来ないほど立ち込めている霧に眉を顰め、呟いた。
「そこに居るのはイザークか?」
「アゴル?」
 背後からの声に振り向くと、薄く、ぼんやりと、人影らしきものが霧の中に見える。
 
 ――ッ!?

 不意に、体の異常を感じた。
「凄いな、化物をぶっ飛ばしたのか? さっき、破片に当たってビックリしたぞ」
 後ろを振り返りながら片手に松明を持ち、もう片方の手でジーナの手を引きながら、アゴルが近づいてくる。

 ――カラァン……

 剣を落とし、イザークは自分で自分の体を、抱え込んでいた……まるで、何かを押さえつけようとでもしているかのように。
「どうした?」
 彼の様子の変化に気づき、アゴルが声を掛けてくる。
「アゴ……」
 それに応えようとした時だった。
 
 ――ドシャ……

 イザークは苦し気に顔を歪めると、体を抱え込んだまま、地面に膝から倒れこんだ。

 ――力を使い過ぎた!!
 ――体中の細胞が脈打ってる
 ――ざわざわと、変化しようと騒ぎ出し
 ――『おれ』が、『おれ』じゃないものになろうとしている……!

 ――くそぉ……治まれ!!
 ――おれはお前らの思い通りにはならんぞ!!

「イザークッ!?」
 驚き、アゴルはジーナの手を引いたまま彼の傍らにしゃがみ込む。
「どうした! どこかやられたのかっ!?」
 アゴルの呼び掛けに、イザークは倒れこんだまま、返事を返すことも出来ない。
 そんな余裕、今の彼にはなかった。
 体の奥に眠る力――『それ』が、イザークの体を変化させようとしている……表面へと、出てこようとしている。
 彼の意に、反して……

「その声はアゴルか!?」
「そうだ! おい、大変だ! イザークがっ……!」
 アゴルの更に背後から声が掛かる。
「イザークがどうしたって? 声を掛けてくれ、霧で場所がつかめんっ!」