深夜特急
***
目を開けたそこは、見慣れぬ天井だった。
教会の讃美歌
蝋燭の匂い
葬送の鐘の音
ああ
ここは
そうだ
あれは、
認識した、途端。
「――――――――――――ッ!!」
肺腑をえぐるような嗚咽が、喉の奥から溢れた。次から次へとこぼれでた。必死で口を抑える。黒いレースに包まれた手で。これは喪服。そうだ。今朝、これに袖を通した。嘘だ。ああ。ありえない。声が。止まらない。
「…!…ガリー!ハンガリー…!!」
固く鍵を閉じた扉の向こうで、彼女を案じる叫びが聞こえる。オーストリアの、イタリアの、そして声はしないが、きっと憔悴したドイツもいる。ごめん。ごめなさい。わたしは平気。辛いのは貴方たちのほうでしょう。そうよ。大丈夫なのわたしは。そのはずなのに。どうしてか、その声に、応えることすら、できない。
「――――――!――――!!――――――――!!!」
身体がふたつに引き裂かれる。声が枯れても叫びが止まらない。こんなことがあってよいのか。許されてよいのか。理解できない。天が裂ける。地が沈む。世界が。
あの手が あの声が あの笑顔が
もう、 この世の何処にも
ない