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Paper Cuts 4

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「君も子供も私のものだ、必ず手に入れる。そして、連邦政府に我々の力を見せつけ、愚かな者どもを排除する」
「シャア!アクシズを落とすなんて馬鹿な事はやめてくれ!そんな事、許される事じゃない!一人の人間がやる事じゃない!貴方がそんな業を背負う必要はない!」
「しかし、このままではスペースノイドは一生愚かな者どもに支配され、虐げられ続ける。そして、いずれは母なる地球も汚染で失ってしまうだろう」
「でも!他に方法はあるだろう⁉︎人はそんなに愚かじゃない筈だ!」
「ならばアムロ、私を止めてみるか?」
「な…に?」
「私は地球寒冷化作戦を実行する。それは成功しても、しなくても地球連邦政府や地球に住む人々に多大な危機感を与えるだろう」
「そりゃ…そうかもしれないが…」
「そして、ネオ・ジオンが決起する事で、スペースノイドはアースノイドからの支配からの脱却を目指し、独立を現実のものとして考えるようになる。それこそが人類の未来にとって必要な事だ。我々はその礎になればいい」
「俺に…どうしろって言うんだ」
「君はここでのスパイ行為を成功させ、連邦に戻ればいい。そして、私に対抗できる機体を用意し、ブライトと共に私を止めに来い。子供は、アクシズ投下の混乱に乗じて我々が保護する。何れにせよ今すぐには動かせない状態なのだろう?」
研究所に潜入した諜報員からは、子供は宇宙に上げるどころか研究所から出す事も現状は難しいとの報告だった。
アムロの言う通り、アムロが命令に従ってさえいれば殺す事はないだろう。
何より、無事に成長すれば、研究材料となる貴重なサンプルだ。最新の注意を払って管理している。
「……それで…俺との番い契約も解消するのか?」
「それは無い」
「しかし…」
「君がオメガだと言う事をどれだけの人間が知っている?」
「え?…研究所の人間と一部の高官、それとブライトだけだ。研究所の強力な抑制剤のお陰で殆どヒートを起こした事がない」
「だろうな」
「シャア?」
シャアはそっとアムロの耳元で何かを囁くと、それに反応して真っ赤に染まる頬に唇を寄せる。
「分かったな、アムロ」
その言葉に、アムロはコクリと頷く事しか出来なかった。


◇◇◇


暫くしてアムロは連邦に戻り、ネオ・ジオンに対抗すべく、ロンド・ベルのブライトと共にνガンダムの開発を始めた。

そしてUC0093.3月、ネオ・ジオンによる地球寒冷化作戦が決行された。

地球連邦政府はアムロがスパイとして入手したアクシズの降下作戦をまともに信じようとせず、ロンド・ベルに応援の手を差し伸べる事もなかった。
しかし、ギリギリになって漸くその危機に気付き軍を送ったが、時すでに遅く半分に割れたアクシズの後方部が地球へと落下を始めた。
それをアムロのνガンダムと、アムロに共感した多くのモビルスーツが押し返そうとスラスター全開にして取り付いたがそんな事で引力に捕まって落下を始めた隕石を止める事など出来るはずも無く、人々が諦め掛けたその時、アムロの想いと人々の想いが共振し、サイコフレームの力が増幅されてオーバーフローした事により奇跡が起きた。
宇宙を、地球をも包み込む様に覆い尽くしたオーロラの様な美しい緑色の光。
その光はアクシズの軌道すらも変え、地球への落下は食い止められたのだった。

しかし、その奇跡の光を生み出した連邦軍のエースパイロット、ニュータイプのアムロ・レイ大尉はそのまま行方不明となり、ロンド・ベル隊の旗艦である「ラー・カイラム」へは帰艦しなかった。
数日間に及ぶ捜索にも関わらず、結局νガンダムは機体の破片すら見つからなかった。
その為、連邦軍は大気圏突入の衝撃でパイロット諸共燃え尽きたとの判断を下し、MIA認定をして事実上アムロは死亡扱いとなった。

その後、地球寒冷化作戦は失敗に終わったものの、ネオ・ジオンへと無事帰還したシャアは地球連邦政府へと和平交渉を持ち掛け、スペースノイドの独立と、地球に住むアースノイドの宇宙への移住計画を提案した。
ネオ・ジオンとそれを支持するスペースノイドの勢いは止まらず、また、私利私欲の為にアクシズをネオ・ジオンに譲渡した連邦政府への不満はアースノイドからも立ち上がり、地球連邦政府は条件付きながらもそれを受け入れる事となった。

シャアの思惑通り、アクシズの降下作戦はネオ・ジオンの勢力を見せつけ、地球連邦政府やアースノイドに大きな危機感と意識改革を植え付けることに成功したのだ。


◇◇◇


穏やかな陽が差し込む病室で、全身に包帯を巻かれたアムロが静かに眠っていた。
なんとか地球落下は免れたももの、アクシズを押し返していたνガンダムが無傷であるはずも無く、激しい衝撃と摩擦熱に晒された機体はコックピットのパイロットにも多大な衝撃を与えた。
あの後、シャアの命令によって宇宙を漂うνガンダムを回収したネオ・ジオンは、敵兵であるにも関わらず、アムロを保護して治療した。
それに反発を持つ者もいたが、たった一機でアクシズを押し返す姿に共感を覚えた者も多く、大きな混乱を招く事無く治療は進められた。
ネオ・ジオンの人間も、全てがあの恐ろしい作戦に賛同していた訳では無い。
だからこそ、あの時アクシズを押し返すモビルスーツの中にはギラドーガの姿もあったのだ。


コンコンと言うノックと共に、一人の男が病室に入ってくる。
「アムロの様子はどうだ?」
アムロの側で治療にあたっていた医師はその人物の姿に、小さく溜め息を吐く。
「何度来ても同じよ、眠っているわ」
男と同じ金の髪にスカイブルーの瞳の女医が男を冷たく遇らう。
「しかしもう一ヶ月だ、アムロは本当に大丈夫なのか?」
「これだけの大怪我なのよ、そんなに直ぐに回復するわけがないでしょう?それに何度か意識を取り戻しているから大丈夫よ」
「しかし…」
「今のアムロに必要なのは休息よ、兄さん」
「アルテイシア、それは分かっているが…」
そう、男はネオ・ジオンの総帥シャア・アズナブル。そしてその女医はシャアの実妹であるアルテイシア・ソム・ダイクンだ。
アクシズ落下の騒ぎに乗じて、ニュータイプ研究所からアムロの子を保護したネオ・ジオンの手の者により、アルテイシアも保護されていた。
当然本人は激しく抵抗し、それを拒否したが、アムロの子を医師として診て欲しいと言う依頼に思わず抵抗の手を止めた。
そしてその子供を診察したアルテイシアは、このまま専門医のいない状態で宇宙へ上げるのは不可能だと判断し、仕方なく子供と共にスウィート・ウォーターへと来たのだ。
子供を専門医に預けたら早々に地球に戻ろうと考えていたところに、今度は瀕死のアムロが運び込まれ、そのままアムロの主治医として治療に当たる事になり今に至る。

アムロは全身を強打した事による骨折と打撲。摩擦熱による火傷を負っていた。
どうにか命を取り留めたものの、過去の人体実験の影響もあり、運び込まれてからもう一ヶ月程になるが、ずっとベッドの住人だ。
とはいえ、全く意識がないわけでは無く、時折目を覚ましては夢現つながらも少し会話は出来ている。
作品名:Paper Cuts 4 作家名:koyuho