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Paper Cuts 4

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今は全身の怪我の痛みを緩和する為、麻酔で眠っていると言う状態だ。
何より、何年も酷使し続けた身体は休息を求めているのだろう、アムロはただひたすら眠り続けた。

シャアはベッド脇の椅子に座り、アムロの手を握る。
「アムロ…」
「そんなに心配するなら、どうしてあんな馬鹿の事をしたの?アムロがどうするか、兄さんが一番よく分かっていたでしょう?」
点滴を調整しながらアルテイシアが兄を睨みつける。
「そうだな…しかし、あれは想定外だった。本当はあのまま二つに割れたアクシズは両方とも落下しない筈だった…」
シャアの言葉に、アルテイシアが作業の手を止める。
「どう言う事?」
「内部爆破の勢いが強すぎて、後方部が引力に捕まってしまったんだ。シミュレーションを何度もして完璧な計画の筈だったが、不足の事態と言うのは起こるものだ」
「待ってちょうだい!それでは兄さんは元々アクシズを落とす気は無かったというの?」
「ああ、私としては落としても構わなかったのだが、アムロがどうしてもダメだと言うのでな、ギリギリで回避する作戦だった」
「けれど、アクシズの爆破をしたのはブライト達ロンド・ベルでしょう?どうして兄さんが…」
そこまで言ってアルテイシアはハッと気付く。
「まさか…アムロやブライトは裏で兄さんと繋がっていたの?」
「ブライトは違う、まぁ何か勘付いていたかもしれんがな。アムロがブライトに部下を騙す様な真似はさせられないからと、真実を告げていなかったからな」
「では、アムロは繋がっていたのね」
「ああ、アムロは…私の番いだ」
「え?」
「数年前にアムロを誘拐し、番いにした」
「まさか無理やり…?」
「そうだな、拉致して抑制剤を取り上げ監禁した。そしてヒートのアムロを強引に抱き、番いにした」
「兄さん‼︎貴方って人は!」
怒りに震えるアルテイシアの腕を、少し冷たい手がそっと掴む。
「違う…よ…セイラ…さん…」
「え?」
アルテイシアが掴まれた腕を見ると、それはベッドに眠っていたアムロの手だった。
薄っすらと目を開けたアムロが、力の入らない手でアルテイシアの手を掴んでいた。
「アムロ!」
咄嗟にアムロへと向き直り、その手を握り返す。
「セイ…ラ…さん…無理矢理…じゃ…ないから…俺も…望んだ…事だ…から」
「アムロ…」
そんなアムロにシャアも駆け寄り、顔を覗き込む。
「アムロ!」
「…シャア…」
シャアを見上げ、微笑むアムロにアルテイシアは複雑な表情を浮かべる。
「アムロも…納得した上での番い契約なのね?」
その問いに、アムロが微笑みながらコクリと頷く。
「…そう…」
大きな溜め息を吐くアルテイシアに、アムロが心配気な瞳を返す。
「セイラさん…あの…すみません。俺…実はずっと連邦を裏切っていた…裏でシャアと…ネオ・ジオンと繋がってたんです…」
「どうせ兄さんがそう仕向けたのでしょう?理由はニュータイプ研究所にいたあの子と…あの小さな瓶に入った子かしら…」
「あ!子供は?痛っ」
ガバリと起き上がろうとして、痛みでそのままベッドに突っ伏する。
「ダメよ!まだ動いては!」
痛みを堪えて歯を食いしばるアムロの背中をアルテイシアが優しく摩りながらベッドへとゆっくり寝かせる。
「痛っ…すみませ…ん、それで…子供は…」
「大丈夫よ、長時間の宇宙への移動で少し体調を崩してしまっていたれど、今は回復して元気よ。あとで連れて来てあげるから落ち着いて」
「本当に…?」
「ええ、貴方に逢いたがっているわ」
「そう…ですか…」
ホッとするアムロを、シャアも優しく見守る。
そして、もう一人の子の事も確認する。
「アムロが動ける様になったら、丁重に埋葬してあげましょうね」
アルテイシアの言葉に、アムロの瞳から涙が溢れる。
シャアはもう一人の子もちゃんと連れて来てくれていたのだ。
シャアは涙を流すアムロの頬や額、瞼にキスを落とし、柔らかな癖毛を優しく梳く。
「シャア…ありがとう…」
「私にとっても大切な子だ。当然だろう?」
「…そうか…そうだな…」
「やっぱり、あの子達の父親は兄さんなのね…」
「ああ、そうだ」
アルテイシアが目を伏せ、表情を曇らせる。
「ジオンの血を引く子として、いずれ…あの子に兄さんの後を継がせる気なの?」
その問いに、シャアが首を横に振る。
「いや、そのつもりはない。あの子に限らず、もしも今後、私とアムロの間に子が出来たとしても、後を継がせる気は無い」
「シャア⁉︎」
元々、シャアの後継者を産ませるためにアムロを攫って番いにしたのに、そんな事を言うシャアにアムロが驚きの声を上げる。
「こんな茶番は私で最後だ。もうジオンの血など必要ない。私が生きている間に出来るだけの事はするが、その後は実力のある者が人々を導いていけばいい。そんな人材を育てていくのも私の仕事だと思っている」
「シャア…」
「そうね、もう父の名など必要ないのかもしれないわね。でも兄さん、人材を育てると簡単に言うけれど、とても大変な事だわ」
「そうだな。だからアムロ、私の側で手伝ってくれないだろうか?」
優しく問い掛けるシャアに、アムロがコクリと頷く。
「俺に何が出来るか分からないけど…手伝うよ」
「ありがとう…君が側にいてくれたら、私はどんな事でも成し遂げられる気がする」
「ふふ…大袈裟だな…」
「そんな事はない。本当の事だ」
互いに頬をすり寄せ啄ばむようなキスをする。
そこに、コホンっと咳払いが聞こえ、アムロは側にセイラがいた事を思い出す。
「あ、わわわ!セイラさん!すみません」
「ふふふ、私は席を外すわね。一時間程したら坊やを連れてくるわ。兄さん、もしもアムロの体調に異変が起きたら直ぐにコールして頂戴」
「ああ、分かった」
それだけ告げると、アルテイシアは病室を後にした。
それを見送り、シャアとアムロが互いに視線を合わせる。
「アムロ、ようやく目を覚ましてくれた…」
頬を両手で包み込み、自身の額をアムロの額に触れ合わせる。
「俺…そんなに寝てたのか?」
「ああ、ひと月程眠っていた」
「そんなに⁉︎」
「ああ、その間、私は生きた心地がしなかった…」
「そっか…心配掛けてすまない」
「いや、私の落ち度だ。まさか…アクシズが引力に捕まるとは…君が押し留めてくれなければ、今頃地球は氷の星となっていた。本当にありがとう」
「俺だけの力じゃないよ。あの時あそこにいたパイロット達や、周囲の人たちの心がサイコフレームに力を与えてくれたんだ」
「…そうだな…本当に…奇跡だ…」
「奇跡か…そうだな…」
アムロはあの時の事を思い出し、目を閉じる。
「あの光と…宇宙を漂うアクシズの欠片…それから地球を見て、あんな時なのに綺麗だなって思ったんだ…。まるで…夜空の切り絵細工みたいに見えた」
「切り絵細工?」
「ああ、光と影のコントラストが、昔…何かの本で見た、切り絵細工の絵みたいだなってさ…死ぬかもしれないっていうのに、呑気にそんな事考えてた」
「切り絵細工か…」
「ああ、光に照らし出されて…儚く壊れそうでいて美しい…。それで、その景色の向こうにさ…未来が見えた気がしたんだ」
「未来?」
「ああ、貴方が導く…幸せな未来が…」
「……そうか…」
作品名:Paper Cuts 4 作家名:koyuho