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バー・セロニアスへようこそ 後編

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回想・数ヶ月前


ある夜の事。
たまたま目についたこの店に入ったら、オルフェが澄ました顔でギターを弾いていた。
客としてやってきたシュラに気付いたオルフェは、隠れていた悪事が見つかったような表情を浮かべた後、この山羊座の聖闘士に懇願した。
『黙っていてもらえないか?』
『いいとも』
シュラはとりあえず約束は守り、オルフェがバーでバイトしていることは誰にも言わなかった。
『その代わり、一杯奢れよ』
そう取引を持ちかけたため、オルフェが弾く時はカウンター席でマティーニを楽しんでいた。
しかし、オルフェがアルバイトを始めて2,3ヶ月した頃だろうか。他の聖闘士がバーにぼちぼち顔を出すようになった。
「う……」
サガとアフロディーテ、同時にご来店。
オルフェは静かにギターを置くと、そそくさとバックヤードに引っ込んでしまう。
サガに顔を見られたら、滅茶苦茶マズい。ものすごくマズい。
『……さすがに引っ込んだか』
シュラが吸いかけの煙草に手を伸ばした瞬間、サガに声をかけられる。
「シュラも来ていたのか」
「サガ、どうしてあんたがここに」
サガは家でFXをやりながらブランデーを飲むことが多いと聞いている。
なのに何故、こんな町中のバーに来て飲んでいるのだろうか。
それを訊かれたサガは、少し困ったような表情で、
「このバーのギタリストがプロを遥かに超えた腕だと聞いてな。どれくらい素晴らしいのか、私も聴いてみたくなったのだ」
「ああ、そうですか」
シュラは「案の定だな」と少し冷めた目でこの結果を見ていた。
神に愛された琴の腕の持ち主が、アテネ市内のさほど大きくないバーとはいえ定期的に演奏活動を続けていたら、そりゃ評判になるだろうよ。
そんな評判のいいバーがアテネ市内にあったら、聖闘士の誰かは絶対に飲みに来るだろうよ。
……自分は、本当に偶然であったが。
「サガ、カッコつけないで下さいよ」
同行していたアフロディーテが笑う。
今日のアフロディーテはノースリーブの黒のタートルネックのインナー、青いジャケット、黒のスラックス姿だった。
わざわざタートルネックを着ているのは、昨日の夜知人の女性と会ったからであろう。
「一昨日給料日だったからでしょう?」
「…………」
サガの動きが止まる。そういえばそうだったと思い出すシュラ。
というのも、シュラは生活費をカジノで稼いでいるので、聖闘士としての給料をあまり意識していないのである。
サガも株や投資でかなり儲けているようなのだが、贅沢をするのは給料日近辺と決めているらしい。
サガはアフロディーテの指摘に対し反論しなかった。どうやら図星だった模様。
ただ、反論する代わりに整った眉を寄せると、
「奢って欲しいのか、欲しくないのか?」
「……それは失礼いたしました」
一片の非も付けようの無い完璧に華麗な仕草で、アフロディーテは一礼する。
青金色の髪が緩やかに揺れて、バラの芳香が漂う。
男の自分でも見惚れるくらいなのだから、女性なんてひとたまりも無いだろうなと、妙なことをシュラは考える。
カウンター席に腰掛けた2人はそれぞれ好みの酒をオーダーすると、期待を隠し切れない様子で評判のギタリストの登場を待った。
……しかし。その晩オルフェが再び店に出ることはなかった。
翌日マスターが語るところによれば、「体調が悪くなったので帰ります」と書き残して、無断で早退してしまったらしい。
「いつもは店が閉まるまでいて、後片付けまで手伝ってくれるようないい子なんだけどねぇ。どうしたんだろうね?」
困惑したようにシェイカーを振るマスターであったが、シュラは煙草を吹かしながら苦笑いするしかできなかった。
正社員で勤めている会社の少々困った先輩がアルバイト先に来てしまったので、顔を出せませんでした。
なんて本当のことを、マスターに言えるわけない。