楽しい羊一家 その1
日常ワンカット 城戸邸編
夏の午後三時。城戸邸の台所でムウがおやつを準備している。
人に頼まれてやっているわけではなく、単にムウが美味しいおやつを食べたいがための行動である。
ムウは聖域に駐留している時も、非常時以外はおやつを欠かさない。
今日のおやつは、ジャガイモの素揚げだ。しかし、ただの素揚げではない。
薄く切ったジャガイモをクッキー用の型抜きで抜き、星やハートの形にして揚げる。
ジャガイモの残った部分は鍋で茹でて、夕飯のコロッケに使用する。
「うわー」
台所にやってきた星矢が、クッキングペーパーの上に乗っている揚げたジャガイモを見て目を丸くしている。
おやつ程度に、こんなに気合入れるか、フツー。
芋なんて適当に切って揚げればいいじゃんと思うのだが、菜箸でジャガイモの揚がり具合を見ているムウは、
「ただ揚げるよりも、一工夫あった方がいいでしょう?食べる時もその方が楽しいですし」
と、こともなげに言う。
おやつにここまでうるさいのは、ひょっとしてシオンの意向なのかと尋ねたところ、
「いいえ?シオン様はおやつは気になさいません。普段は教皇の間でお仕事をなさっていますから、おやつを召し上がりませんし」
「ああ、そういえばそうだな」
シオンは日中は教皇の間で職務に励んでいる。
となると、おやつを凝りまくるのは……ムウの趣味か。
「ムウってさ、本当に料理上手いよなぁ」
「料理は楽しいですよ。自分で頑張れば頑張る程、美味しいものが食べられますし」
「……なるほど」
食いしん坊が料理上手と言われる理由を、星矢は悟った。
シオンも味にはうるさいし、羊一家は代々食い道楽なのかも知れない。
[chapter:日常ワンカット 白羊宮の夜編]
作品名:楽しい羊一家 その1 作家名:あまみ