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楽しい羊一家 その1

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「新聞を読めないとか、テレビの字幕がわからないとか、そのようなことはないのか!?」
「ああ」
ようやくムウは、サガの言いたいことを察したらしい。
「別に、ギリシャの新聞は読みませんから、困りませんね。一応NYタイムズには目を通しますけれど」
「……読めるのか?」
「ええ。ジャミールにこもっていた頃、外国人登山客のポーターをして生活費を稼いでいたことがありまして。それで、会話と読み書きは覚えました」
と、ムウは綺麗なクイーンズイングリッシュで話す。
「イギリス人の登山チームの方に気に入られて、何度かお仕事をしたのです。貴鬼を引き取る前の話ですね」
「……もう、いい。よくわかった」
ムウのギリシャ語作文能力に付いて追求すると、自分の過去の過ちに付いてほじ繰り返されるだけだと悟ったサガは、これ以上何も言わないことにした。
ムウの幼少期の不幸は、ほぼサガが原因と言っても過言ではないのだから。
「なぁ、ムウよ」
「何でしょう?」
ガスの火を止め、鍋をテーブルの上に移動させている。
貴鬼が台所に入って皿を出したり箸を出したりと手伝いを始めたところを見ると、そろそろ食事なのだろう。
「……だったら、英語で報告書を書けばよいのではないか?」
そう言ったところで、サガは気付いた。
「聖域は公式書類は全てギリシャ語だったな」
「ええ」
にっこりと笑ってみせる白羊宮の主。
しかし、その笑みは……どこか剣呑さを孕んでいた。
「どうせ英語で書いても、『ギリシャ語翻訳を添付しろ』とおっしゃるでしょう」
「……アイオロス辺りはな」
「今のところ誰も困っていないのですから、現状のままでいいのではないでしょうか?」
強引にムウは結論付けると、まだ居間にいるシオンとサガを呼んだ。
「お夕食にしましょう。今夜は肉じゃがとかき玉汁、なまりの煮付けです」
相変わらず、どこの国の食卓なのかわからなくなるような献立である。
だが白羊宮の面々に自分がツッコミを入れると、13年前の過ちを引っ張り出されてネチネチやられるのが目に見えているので、
サガは黙って食事をごちそうになる事にした。
『しかし』
サガは畳んだ新聞をテーブルに置きながら、考える。
ムウはほぼ一日中白羊宮にいるのだから、その気になればいくらでも勉強できるだろうに、やらない。
つまりは、作文の力を身に付ける気がないのであろう。
『まぁ、ムウの主な仕事は聖衣の修復と教皇と貴鬼の世話だからな』
あまり書面を出す必要がない。
書類を書くくらいなら聖衣の修復に精を出した方がいいし、難しいギリシャ語の単語を覚えるくらいなら美味しい料理のレシピを熟読した方がよほど日々の生活が楽しくなる。
故にムウは、書類を書かないし、作文も勉強しない。
『黄金聖闘士が、ましてや教皇の弟子がこれでは、下に示しが付かないのだがな……』
けれども、それを今ここで口に出すことは適わない。
もしそれを言葉にしてしまったら、シオンとムウに食事の間中……チクチクと言われるのが目に見えているので、喉の奥で呟くに留めた。
シオンはサガの表情から、彼が心の中で抱いている不満を読み取ったが、ポンと彼の肩を叩くと、
「小難しい語彙では美味い飯は食えぬぞ」
トーンを落とした低い声で静かに囁く。
サガは教皇の言葉に苦笑いを浮かべると、一言。
「御意でございます」

「サガも結構シオン様に甘やかされていますよ。貴方は今でも、教皇の間の沐浴場を使うでしょう?」
「ああ」
「貴方と老師だけですよ。教皇以外であそこをお使いになるのは」
「だが、教皇は何もおっしゃらないが……」
「シオン様は貴方の風呂好きをご存知ですから、大目に見ているだけです」
「………………」
作品名:楽しい羊一家 その1 作家名:あまみ