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楽しい羊一家 その1

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教皇の子守唄(ララバイ)


シオンが白羊宮に帰ってきた。
ここの数日間、自然災害によるトラブルで各聖闘士のスケジュールを調整しなければならず、文字通り不眠不休で作業に当たっていたのであった。
頼みの綱のサガはイギリスに出張中でユーロスターのチケットが買えず、しばらくロンドンで足止めを食っていた。
アナザーディメンションを使って帰ろうとしたが、行きつけの店で購入したお気に入りのダンヒルの煙草や、アクアスキュータムのコートを抱えつつ、異次元空間を移動するのは非常に面倒なので、帰国できないのを火山のせいにし、ささやかなバカンスを楽しんでいたのであった。
いっそカミュを呼びつけようかとシオンは考えたが、カミュは現在北欧に出張中のため、これまた容易には聖域に戻れない。
故に教皇は、一人黙々と書類の山と格闘していた。
なお次期教皇のアイオロスは、書類の量を見て気絶してしまったので、戦力外としてカウントされている。
帰宅したシオンはまず風呂に入った。
40分程かけて入浴を済ませると、髪もろくに乾かさずに浴衣姿のままソファーに横になる。
グッタリとした様子で仰向けになるシオン。その表情には疲労の色が濃く出ている。
「シオン様も大変でしたからねぇ」
食事の支度をしているムウも、心なしか疲れた様子だ。
それもそのはず。
ここのところヨーロッパ内の空港はほぼ閉鎖されていたので、同僚たちが帰国したり、任務先に赴く際、ムウにテレポーテーションで連れていってもらっていたのだ。
一部の者は瞬間移動ができるのだが、大抵はできなかったり、それほど長距離を飛べなかったりする。
シャカはムウと遜色ない程のテレポート能力があるので、ムウに頼らずにインドに帰ってくれたが、シュラやアルデバランといった、直接攻撃系の聖闘士は概して『ダメ』で、ムウは渋々送り届けていた。
「スペインくらい、歩いて帰ればいいでしょう……」
シュラを送り届けていったムウは、珍しくそうぼやいた。
「私をどこでもドアかなにかと勘違いなさっているのではないでしょうか?」
他の聖闘士にも送迎を頼まれたようで、ムウはややイライラしている。貴鬼はそんな師匠のお手伝いをしながら、
『……ムウ様って見た目が優しそうだから、お願いしやすいんだよねぇ』
と、心の中で呟く。
もの柔らかな外見と言葉遣いのため、「ムウなら頼まれてくれるだろう」と考えてしまうらしい。
ムウは趣味の料理すら面倒になってしまったようで、レトルトのカレーを鍋で湯煎していた。
ご飯は辛うじて炊いたようであるが。
「貴鬼、シオン様を起こして下さい。もう夕食にしましょう」
「はぁい、ムウ様」
疲れてうたた寝している優しいおじいちゃんを起こすのはあまり気が進まないが、ムウの指示ではやらないわけにはいかない。
「……シオン様、ご飯です。起きて下さい。今夜はカレーです」
「……ん、ん……」
長い睫毛が揺れ、閉じられていた瞼がゆっくりと開く。
焦点の定まっていなかった視線がようやく定まり、文字通り夢から覚めたような表情のシオンは、かすれた声で孫弟子の名前を呼ぶ。
「貴鬼か?」
「あ、シオン様。お目覚めですか?」
努めて明るい口調を作って答える。まだシオンは眠いようで、しきりに目をこすっている。
「夕餉か?」
「はい。今晩はカレーですよ」
「そうか」
どうにも声に力がない。
ゆるゆるとソファから起き上がった教皇は、だるい足取りでダイニングに向かった。
こんなシオン、滅多に見られない。

夕食後、シオンは二階に戻るのも億劫なのか、居間のソファに寝転ぶと、クッションを枕にしてTVを見始めた。
丁度映画が放送されており、シオンはギリシャ語吹替えを英語に切り替えると、そのまま視聴する。
シオンはいつも字幕で映画を見る。大抵の外国語は解るので、吹替えが不要なのである。
「……シオン様、オイラが解らないです……」
か細い声で貴鬼が訴えるが、シオンはあっさりと、
「時々翻訳が間違っておる故、原語で聞かねば話の筋が通らぬ」
目に入れても痛くない程溺愛している孫弟子の頼みを一蹴する。
いつもならすぐに聞き入れるだろうに、だ。
貴鬼はプゥと頬を膨らませると、寝室から本を持ってくる。シオンの横で本をめくるだけでも、貴鬼は十分に楽しいのだ。
と、本を読みつつ、貴鬼は『とある事』に気付いた。
ソファーの上のシオンの様子がおかしいのである。
「?」
映画に見入っているのか、身動き一つしないとは思っていたが。スースーと静かな寝息が聞こえるではないか。
「シオン様?」
本を伏せ、この優しいおじいちゃんの名を呼ぶが、返事は、ない。返ってくるのは、寝息のみ。
「んもー……」
呆れたように貴鬼は頬を膨らませると、テレビのリモコンを手に取る。
「テレビ見てないんじゃ、消しちゃいますからね!」
電源ボタンを押し、誰も見ていなかったテレビを消す、が。
その途端。
「……何故、消す」
どこかくぐもった声が、居間に響く。
目をぱちくりさせる貴鬼に、薄目のシオンは続けて、
「見ておるのだ。私の許可なく消すでない」
「はぁい、シオン様」
再び、テレビ画面に映画の続きが流れる。
シオンはテレキネシスでリモコンを引き寄せるとカチカチと設定をいじり、外国語音声に変えてしまう。
こうなると、貴鬼が映画を楽しむのは不可能となる。吹替えでないと、何がなんだか分からないのだ。
「ま、いっかー」
映画の内容は分からなくとも、シオンの横で本を読んでいるだけでも、十分に楽しい。
ここ数日一緒に居られなかった大好きなおじいちゃんの横でページをめくるのは、貴鬼にとってはとても心安らぐ、幸せな時間であった。
3ページほど、貴鬼が本を読み進めた頃であろうか。
……またまたシオンから漏れる、寝息。
そっとシオンの顔をのぞくと、教皇は先程と同じように、目を閉じ穏やかに呼吸を繰り返していた。
明らかに、どこからどう見ても。
これは、眠っている。
「んもぉぉぉーっ!!」
懲りずにまたテレビのリモコンを手に取り、再度電源を落とす。
白羊宮ではテレビを見ていない時は消すという、家庭内ルールがあるのである。
なのに、それを家長自らが破ってどうするのだろうか。
「シオン様~、寝ちゃうならテレビつけてなくてもいいじゃないですかー」
ぼやきながらリモコンをテーブルの上に置く。
「もぉー。寝るならお風呂に入って、ちゃんと部屋に戻ってベッドで寝ましょうよぉー」
ソファの上で夢の世界に飛び込んでいるシオンにそう勧めてみるが、シオンは非常に眠たげな声で、
「寝ておらぬわ」
の一点張りだ。
だが、何をどう見間違っても、眠っている。
クッションを枕にし、目を閉じて静かに呼吸している様は、誰がどう見ても、眠っている。
「でもシオン様、寝てないって言ってても、目はつぶってるじゃないですか。目を開けてないんじゃ、テレビつけてても意味ないじゃないですか」
他の聖闘士が見たら、肝を冷やしまくるに違いない。
あのシオンに、聖域の教皇に、ここまでずけずけ言ってしまっていいのだろうか、と。
シオンにここまで遠慮なくものが言えるのは、親友の老師と、そして白羊宮のマスコット(別名:オマケ)の貴鬼くらいだ。
作品名:楽しい羊一家 その1 作家名:あまみ