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振り返れば奴がいる 前編

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それから三日後。聖域・教皇の間。
獅子座のアイオリアは教皇シオンに呼びつけられ、玉座の前で上司と対峙していた。
「獅子座アイオリア、参上致しました」
「大儀である。この度お前を呼んだのはな……」
豪奢な玉座の肘掛けに右肘をつき、頬杖をつきつつシオンは告げる。
その態度からアイオリアは、今回の用事が正式な勅命でない事を悟った。
シオンは勅命を下す際、こんなに緩んだ態度を取らない。
玉座の背もたれと平行になるように背筋を伸ばし、両手をそれぞれ肘掛けの上にきちんと置いて、玉座の前の聖闘士たちを見据える。
そのシオンが。まるでTVのクイズ番組でも見るような姿で、アイオリアに向いている。
用件はそれほどシリアスではないのだろう。
そして、アイオリアのその読みは正しかった。
「星矢が日本で学校に通っておるのは存じておろう」
「ええ。瞬や邪武と同じ学校に通い、学問の修練に励んでいると、星矢本人から聞いております」
星矢はちょくちょく聖域に戻ってくるので、アイオリアと顔を合わせる機会も多い。
そのためアイオリアは、星矢の日本での暮らしについて結構な情報を得ていた。
「そこまでわかっているのなら話が早い。実は近々星矢の学校で授業参観が催される。そこでアイオリアよ。星矢の保護者として、参観に出てはくれぬか?」
「……授業……参観ですか」
あまり聞き慣れない単語である。
アイオリアが訝しそうな表情を浮かべている事に気付いたシオンは、保護者が学校に赴き、子供が授業を受けている様子を見学する行事だと説明する。
「本来ならば魔鈴が適任やも知れぬが、仮面をつけた彼奴が一般社会に出るのは……少々差し障りがあろう。様々な要素を考慮した結果、お前が一番適任だと結論が出たのでな。正式な勅命ではあらぬ故に勅命書は出せぬが、路銀は支給する故、行ってはくれぬか?アイオリアよ」
……シオンの視線の先で、アイオリアは笑っていた。
嬉しそうに、幸せそうに笑っていた。
「教皇、授業参観への参加、このアイオリア全力でお受けしましょう!」
「それは助かる。星矢も喜ぶであろう」
シオンは小さく、そしてホッとしたように息を吐く。
アイオリアなら受けてくれるだろうと踏んでいたが、本人からの返答を聞くまでは安心できない。
期待と希望のみで計画を立てるのは、愚か者のやる事だ。
「これが日程表故、よく目を通しておけ。一枚は日本語で書かれた原紙。もう一枚は、それを私がギリシャ語に翻訳したものだ」
「ありがとうございます、教皇!」
……何度も繰り返すが、アイオリアはギリシャ語しか出来ない。
同僚には全員ギリシャ語が通じるので、面倒くさくて他の言語を学ぶ気になれなかったのだ。