振り返れば奴がいる 前編
それから数日後。東京・城戸邸。
瞬が学校から帰宅すると、彼が待ち望んでいたエアメールが届いていた。
「ダイダロス先生からだ!」
アンドロメダ島に住む瞬の師からの手紙である。
アンドロメダ島はインフラが整っていないので、連絡手段が手紙だけなのだ。メールはおろか、電話すらない。辛うじて電報がある程度だ。
なお、聖域の勅命が未だに手紙を郵送する形をとっているのも、このようにインフラの整っていない地域のことを考えてのことだったりする。
瞬は嬉しさで顔を輝かせながら、はやる気持ちを押さえつつ、ペーパーナイフで手紙の封を開けた。
あまり質の良くない便箋に、師の筆跡。
そこには保護者として自分を招いてくれたことへの礼と、参観に出席する旨が、丁寧に綴られていた。
『お前が元気に勉強する様を見られるのを、楽しみに待っている』
そう締められた、ダイダロスの手紙。
瞬は胸が一杯になる。
先生が、ダイダロス先生が、日本に来てくれる。
日本に来て、自分の授業を見てくれる!
「……まるで、夢みたい」
瞬は手紙を胸にかき抱くと、師と日本で再会できる日を想像し、幸せそうに微笑んだ。
「ダイダロス先生……」
先生は自分の姿を見て、今の自分を見て、どう思ってくれるだろうか。
喜んでくれるだろうか?
笑ってくれるだろうか?
どんな反応でもいい。
ダイダロス先生に、元気でやっている自分を見てもらえる、それ自体が幸せだから。
「先生、楽しみにしていますね」
授業参観が、楽しみで仕方ない。
その頃、ギリシャ・聖域。
「どうだ、シュラ」
シュラが街に出るために獅子宮を通過すると、スーツ姿の宮の主は鏡に向かってネクタイの結び方の練習中であった。
あまりにもミスマッチな光景に、ぽかーんと口を開けるシュラ。
「……何やってんだ、お前」
「ああ、今度日本の星矢の元へ行くことになってな」
嬉々として答えるアイオリア。
そういえば、アフロディーテがそんなことを話していた記憶があるが、丁度セナのDVDを見ていた時だったので、あまりはっきりと頭に残っていない。
「それで、スーツ着用でネクタイ結びの特訓をしているのか」
「なかなか難しいな、これ」
首に引っ掛けた細長い紐に、四苦八苦している。
一体どのように結んだのか、ネクタイは見事な南京縛りになっていた。
何をどうやったら、ああなるのか。
シュラは一つ息を吐くと、テーブルの上に置かれていた予備のネクタイを手に撮り、アイオリアの横に並んだ。
「シュラ?」
シュラの行動に、目を丸くするアイオリア。
シュラは一体何をやろうとしているのか。
「それが横で手本を見せてやるから、一緒にやってみろ」
首にネクタイを巻き付け、シュラはアイオリアに促す。
その言葉と行動に、アイオリアの胸は一杯になる。
じんわりとした喜びを精悍な顔に浮かべると、不器用な手付きでネクタイをほどいた。
作品名:振り返れば奴がいる 前編 作家名:あまみ