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なんどのぼうけん 1

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ムウが黄金聖衣をまとって白羊宮を守護するのを『実際に』見たのは、あの日が初めてだったのだから。
「それが、どうしたの?」
「あん時星矢達さ、青銅聖闘士なのに十二宮を守護する最強の黄金聖闘士と戦うことになっちまった」
「…………」
皆、青銅聖闘士が黄金聖闘士に勝つのは不可能かと思っていた。
けれども、星矢達は諦めなかった。
傷付き倒れながらも、不可能と思われたことを小宇宙を燃やし、成し遂げたではないか。
「俺、あの時……すげー悔しかったよ。星矢達は命懸けで戦っているのに、俺はあいつらが奇跡を起こすのを待っているしかなかったんだからさ」
あの戦いの歯痒さを、邪武は忘れてはいない。
その後も星矢達は、ポセイドン、ハーデスと強大な敵に立ち向かっていったが、自分たちは聖域で彼らの勝利を願うことしか出来なかった。
本当、俺って何だったのだろう?
戦いが終わり平和な毎日が日常となった今も、時折そのことが頭を過る。
本当、俺って何だったのだろう……。
「ねぇ、邪武、どうしたの?変だよ?」
昔の事を思い出して、少々鬱になってしまったようだ。
「あ、ああ……」
我に帰った様子の邪武は、あー、俺何してんだと呟きながら、右手で頬を叩く。そんな昔の事を今回想していても、事態は全く解決しない。
「とにかくさ、小宇宙を燃やして全力でぶち当たれば、不可能はねーってことだよ。貴鬼も色々見てただろ?」
「そうだけどさー」
それでも、やはり煮え切らない貴鬼。
貴鬼にとってムウは、邪武が考えている以上に絶対的な存在なのである。
「無理かもしれねーけど、無理だと諦めて最初からやらなかったら、絶対に無理なままだろ。
でも、小宇宙を高めて燃やせば、瞬間最大風速だけど、ムウよりも小宇宙を高められるかもしれねーだろ?」
「…………」
反論できない貴鬼。いや、言い返したいのだが、どう言い返していいのか、子供だからよくわからない。
今の邪武は貴鬼が何を言っても、
「やってみなくちゃわからねーだろ!!」
と、反論を受け付けてくれないだろう。ならば……。
「……邪武」
「何だよ、泣き言や諦めは聞かねーぞ」
ほらきた。
貴鬼は腹の下の方にちょっとだけ力を入れて、邪武に告げる。
「オイラ一人じゃ無理だけど……」
その貴鬼の言葉のトーンに、邪武の眉毛の角度が変わる。先程の無理一辺倒とは、いくらか毛色が違っている。
「お前一人じゃ無理だけど、何だよ」
「……オイラ一人じゃ無理だけど、邪武が手伝ってくれるなら……オイラも頑張ってみる」
小声で呟かれた、密やかな決意。
邪武の口元が、目元が、頬が。それぞれ笑いを形作る。
ただの『笑い』ではない。心からの、心の底からの、笑顔。
「当たり前だ!いくらでも、お前の小宇宙だけで足りなければ、俺も手助けしてやる。一人じゃ無理かもしれないけど、二人ならわからないだろ?」
ポンと、貴鬼の肩を叩く邪武。
ようやく、貴鬼の幼い顔が緩やかにほころぶ。
「うん、やってみよう!」
ムウのテレキネシスで閉じたこの空間を、自分たちだけの力で突破できたとしたら。
ムウは少しは驚くだろうか。ムウは少しは一目置いてくれるだろうか。
刹那、貴鬼はそんな事を考える。
あの厳しい師も、少しは自分のことを認めてくれるかしら。
いつも物柔らかく笑っているけれど、家の手伝いをしたりすれば誉めてくれるけれど、聖闘士候補生としての力量を認めてくれることはなかった。
聖衣の修復を手掛ければ、ダメ出しばかり。聖闘士としての修業には、
『それで聖衣を与えるわけにはいきませんね』
と、バッサリ。
貴鬼が必死の思いで形にしたクリスタルウォールを苺で粉々にされた時は、泣くかと思った。
『もし、オイラと邪武の力だけでここを抜け出せたら、ムウ様も誉めてくれるかな?』
あの中性的な美貌にちょっと困った笑顔を浮かべて、
「やれば出来るじゃありませんか」
とため息をついてくれるだろうか。
そんな事を、考える。
そっと目を閉じ、小宇宙を高める貴鬼。
「いっくぞーーー!!」
全身からオーラが立ち上がり、貴鬼の栗色のくせ毛を逆立たせる。
負けじと小宇宙を高める邪武。
今は貴鬼も自分も私服だ。聖闘士なのに聖衣すら着けていない。当たり前だが。
けれども、小宇宙に聖衣は関係ない。そう星矢たちが教えてくれたではないか。
「極限まで高まれ、オイラの小宇宙!ムウ様のサイコキネシスを突き破れ!」
全身の細胞を燃やすかのように、小宇宙を高める貴鬼。足りない、これ位では全然足りない。
細胞を形作っている、分子や原子レベルで小宇宙を燃やして。
全身に眠っている宇宙の欠片を呼び覚ますかのように、小宇宙を、小宇宙を、小宇宙を!!
極限にまで高めて!
「ムウ様に負けるかー!!」
「おおおーーッ!!」
限界まで膨張した小宇宙が、一気に爆発する。
それはさながら超新星のように。
城戸邸の納戸の中で小規模なビッグバンが起こった後、貴鬼と邪武の姿は切り取られたかのように消えていた。
作品名:なんどのぼうけん 1 作家名:あまみ