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なんどのぼうけん 1

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冥界・アケローン河の岸辺。
そこで部下のスケルトンとポーカーを楽しんでいたカロンは、河岸に亡者とは違う人影が増えているのに気付いた。
「んだぁ?」
冥衣のゴーグル越しに眺める。違う、亡者とは違う。
というか、あの背がでかい方が纏ってる奴、あれ、聖衣じゃねぇか?
目を細めそれを見やったカロンはカードをテーブル代わりにしていた岩の上に置くと、渡し船に乗った。
この冥界に来た以上、カロンは連中を船に乗せる義務がある。
……向こう岸まで連れていく義務まではないが。

テレポートで到着した場所は、まるで見たことのない場所であった。
いつの間にやら聖衣を装着していた邪武と、相変わらずオマケな様子の貴鬼。
突然目の前に現れた、とてもではないがこの世のものとは思えない光景に、驚きと不安と戸惑いと混乱の全てを感じていた。
「……何だよ、ここ」
少なくとも、日本ではない。日本にはこんな荒涼とした場所はない。
いや、ここは地球ですらない。明らかに、空がおかしい。
赤と黒のグラデーションのような色彩が、オーロラのようにゆらゆらと揺らめいている。
そんな空が、この地球上にあるというのか……。
「おい、貴鬼」
「何」
もう、貴鬼の声にも力がない。
自分はムウのサイコキネシスを突破しようと、小宇宙を最大限に燃やしてテレポーテーションしただけなのに。
どうして、こんなわけの分からない場所にたどり着いてしまったのか。
「……お前、どこに飛んだ」
「わかんない」
「……行き先なんかわからなくても、テレポーテーションって出来るものなのか?」
無言で頷く貴鬼。
「オイラ、とにかくここから出たいと思ってテレポーテーションしたんだ。ムウ様に負けないようにって……」
話す声が、段々と涙声になる。
邪武はいつの間にやら聖衣をまとっていたことに驚いていた。
聖衣は確か、城戸邸に置いてあった筈だが、いつ自分の元に。
疑問が解決されないまま、邪武は聖衣をぺたぺた触りながら首を傾げている。
「本当、不思議なことってあるもんだなー!」
自分たちが今おかれている状況について語っているのか、聖衣について語っているのか、貴鬼には分からない。
ただ、あの場所から抜け出したくてテレポートした筈なのに、どうしてこうなったのやら。
一体ここはどこなのか。
一体どうしてこんなところに来てしまったのか。
一体どうすれば元の城戸邸に戻れるのか。
疑問は山のようにあるが、今ここに留まっていても何も変わらない。
「……とにかく、前に進むか。何かヒントがあるかもしれねぇ」
邪武は貴鬼に声をかけると、『前』と思われる方向、空気の動きが感じられる方向に向かった。
ここがどこなのかは未だに不明だが、呼吸は出来ている。空気がある場所なのは、確かだ。
『だが空がおかしい。地上なんだろうか?』
赤と黒のグラデーションに揺らめく空を眺めながら、邪武は内心呟く。
貴鬼はまだべそをかいていたが、歩いているうちに覚悟が決まったのだろう。
涙で顔をパリパリにしながらも、前を向いて歩いている。
やがて二人の視界を霧が覆い出す。
しっとりとした濃霧が、二人の髪や肌を湿らせた。
「んだぁ?」
訪れる変化に身構える邪武。これまでのパターンからいって、霧が立ちこめる場所ではろくな事が無い。
それを貴鬼に言ったら、
「ムウ様に対する嫌味?」
とムッとされそうだが。
『だが霧が立ちこめた際のアンラッキー率というのは、異常なほど高くないか?』
邪武が身構えても仕方ない。現に今だって、とんでもない場所へやって来てしまったではないか。
「そんなことより、これからどうするか、だ」
星矢たちが冥界に突入した際は、沙織にアテナの聖衣を渡すという目的があったので、その小宇宙を追って冥界の最深部へ行けばよかった。
けれども、今は状況が違う。
前に進もうとは決めたものの、どう行動していいのかとんと見当が付かない。
「……貴鬼、お前もう一回小宇宙燃やしてテレポートしてみろよ」
邪武はそう言うのだが、貴鬼は大きな目に涙を浮かべると、
「無理だよぉ……」
と消え入りそうな声で呟く。
先程のテレポートは、貴鬼にしてみれば奇跡の一撃だったのだ。もう一度やれと言われても無理なのだ。
「……取り敢えず、前、か」
どうしたらいいかわからないが、今はこの霧の中を進むしかない。
しばらく歩いた頃だろうか。
霧が晴れ、二人の目の前に広々とした水辺の風景が広がる。何も知らぬ人間がこれを見たら、湖、いや海と間違えることであろう。
それほどまでに広大な光景だった。
「うわ……」
目の前に広がるその景色に、二人は息を飲む。恐ろしい、なんて恐ろしい。
水辺には数多くの亡者が、苦しそうにうめきながらのたうち回っていたのだから。
絶え間なくうめき声と妙な呼吸音が聞こえ、邪武も貴鬼もその様に血の気が引くのを感じた。
……こんな景色の話を以前、邪武は同居している仲間たちから聞いたことがある。
『アケローン河っていう巨大な河があってね。所謂三途の川と同じようなものなんだ』
『そうそう。あっちとこっちの、文字通りの分かれ目なのさ』
他愛無い雑談のはずだった。
それなのに、どうしてこんなにリアリティを持って迫ってくるのだろうか。
何故ならここは……。
「まさかここって、冥界なのかよ……」
呆然と邪武は呟く。話でしか知らない場所。伝聞でしか聞いたことのない場所。
それが今、目の前にある。
貴鬼は邪武の言葉を聞いて、顔色を変える。
「邪武、今何て言ったの?」
「ここは冥界かもしれねぇ。前に星矢や瞬が話していた景色とそっくりだ……」
目の前にある光景は現実のもの。夢ではない、現である。
衝撃の事実に、貴鬼の顔が曇る。
「じゃ、じゃぁオイラ、冥界にテレポートして来ちゃったの?」
「そうとしか考えられねーよ」
苦々しく呟く邪武。
冥界から戻る方法なんて、邪武は知らない。知るはずがない。
ましてや、教皇の愛しい身内とはいえ、貴鬼が知っているはずはない。
ここに居るのは亡者ばかりで、話の通じそうな奴は居ない。
本当にどうすればいいんだ。
星矢たちの話では、アケローン河は入水すると亡者たちがまとわりついて来て、水中に引きずり込まれてしまうという。
つまりは、泳いで渡ることも適わない。
では何の進展もないまま、二人は果てるまでこの河辺に居なくてはいけないのだろうか。
『いや』
邪武たちは星矢たちの話を必死に思い出してみる。
星矢たちは冥界をどう進んでいったか。確か……。
「ねぇ、邪武」
考え始めた邪武の腕を、貴鬼が引っ張る。
現実に戻って川面を見ると、船らしきものが河岸に近付いて来ているではないか。
『……ああ……』
ようやく思い出した。アケローン河には渡し守が居るのである。
天間星アケローンのカロン。腕が立ち、金を払えば敵だろうが味方だろうが仕事をこなす、真の意味でのプロフェッショナルだと、瞬は話していた。
そのカロンが、自分たちを発見した。
「お前ら、こんなところで何してんだ」
船の上から二人に問いかけるカロン。邪武は一瞬構えたが、冥界との間に不戦条約が結ばれていることを思い出すと、拳を下ろした。
「俺も知らねーよ!気付いたらここに居たんだからさ」
「そうか、それは気の毒だな」
作品名:なんどのぼうけん 1 作家名:あまみ