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晴れた日の過ごし方 2

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最近のものは随分と小さいなと、今しがた取り付けられたエアコンを見上げながらセシルは思う。
「これで省エネも凄いんだって。カインはこういうところは目敏いよね」
ローザは恋人のその言葉を聞くと、
「カインは電気代を払っているから、その辺は切実なのよ」
「ああ、カイン宛で請求書が来るからね」
『一応』生活費はハイウィンド家に入れているセシルだが、家庭生活のマネージメントはカインに一任している。
『ここは俺の家だからな。当然だろう』
硬質の唇の端を上げられて笑われた。
『あの』表情を見ると、やっぱりカインには敵わないなーと思ったりもする。
こうして新しいエアコンのリモコンをいじったり、説明書を読んでいたりすると、玄関の呼び鈴が鳴った。
「?」
エメラルドの瞳を瞬きさせるセシル。今日はもう、来客の予定はないはずだ。
強いてあげるとすれば、カインが帰ってくるくらいか。
「……誰だ?」
エアコンを設置した居間から玄関へ向かうセシルとローザ。
引き戸を開けるとそこには、完全に生気を失ったエッジが、虚ろな目で立っていた。
ゾンビパウダーでも吸い込んでしまったのではないかと疑いたくなるほどだ。
「……エッジ?」
友人の、あまりにもらしくない様子に、訝しそうに名を呼ぶセシル。
ローザも普段のエッジからはあまりにも想像できない姿に、呆然としていた。
「……何があったのかしら」
これでは、ローザでなくてもそう言いたくなる。
エッジはヨロヨロと玄関の上がり口に腰掛けると、
「……なぁ、いいか?」
「ま、まぁ、構わないよ。とりあえず上がったらどう?」
カインがプリンを作っておいていったんだと続けると、これまで光のなかったエッジの目にほんの少し感情らしきものが浮かんだ。
「……カイン、だと?」
「ああ。今日はカインは人に用事を頼まれて出かけているんだ。それで、僕たちのおやつ用にプリンを……」
プリンについて説明を始めたセシルであったが、それはエッジの大号泣によって中断される事になる。
「出かけたって、他人の用事って、どうせリディアとのデートだろう!!こんちくしょう!!わぁぁぁぁん!!!」
まるで子供のような泣きっぷりだ。
「……リディアと、デート……」
エッジの言い放った言葉に、眉を寄せるローザ。
もしかしたらエッジは、街でカインを見かけたのかも知れない。
そして彼はカインの連れを見て、とんでもない誤解をしているのかも知れない。
「ローザ」
セシルもついついローザと顔を見合わせてしまう。
この様子では、エッジが確実に街でカインを目撃している。
目と目で会話を交わした二人は軽く頷くと、再びエッジに家に上がるように告げた。
「とにかくエッジ、玄関先で泣いていても仕方ないよ。話を聞くから中に入って?」
「そうよ、エッジ。今お茶を入れてくるわね。リンゴも剥くわ」
「……お前ら……」
目を真っ赤にし、鼻をすすり上げるエッジ。
町工場の腕のいい二代目で、取引先からはしっかりした跡取りだとのお褒めの言葉を頂いているのだが、今の姿からは『腕のいい二代目』という言葉も、『しっかりした立派な跡取り』という言葉も、全く連想できない。
恋は人を変えるというが、先人はよく言ったものである。

ようやく居間に入り込んだエッジは、今度はテーブルの上に突っ伏して泣き始めた。
その様は、泣き上戸の酔っぱらいが飲み屋で管を巻いている姿に酷似していた。
カインの作ったプリンを食べながらエッジの話を聞いていたセシルであったが、話の内容は
・デパートで小物を物色していたら、カインとリディアが買い物デートしていた
・一体どうなっているんだ。リディアはカインと付き合っているのか?
・この前リディアにチューしてもらって脈ありだと思っていたのに、なんてことだこのやろー!!
といったものである。
「我ながら、よくここまで聞き取ったよなぁ」
チラシの裏にメモした内容を読み返しながら、セシルは自分の我慢強さに苦笑いする。
ローザは憐憫の情のこもった目でエッジを見つめながら、諭すような口調で、
「でもね、エッジ。一緒に買い物していたからって、付き合っているとは限らないわよ。
私もよくカインに買い物の足を出してもらうけど……私にとってカインは幼馴染みじゃない」
「幼馴染みなら、フツーに買い物行くだろうがー。なんでカインがリディアと……」
「だから、足出して欲しかったんじゃないの?」
「足?」
「そう、足」
セシルのエメラルドの瞳に映るエッジの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていて、とてもではないが見られたものではなかった。
「とりあえず、鼻かんだら?」
ティッシュの箱を渡されたエッジは、ブバババババと鼻をかむ。
あーあ、ティッシュ二枚でも穴空いてるよ。どんだけ鼻つまらせてたんだろう、エッジは。
心の中でそう感想を述べたセシルは、話を続ける。
「リディアの知り合いで車持ってるの、君かカインくらいだもの。僕も一応免許あるけど、車は持っていないからね」
「だったら……」
再びエッジの両眼に浮かぶ涙。
「……どうして俺に声かけねぇんだよ。リディアのためだったら、何処にだって行ってやるのに……」
「それは……」
言い淀むセシル。
なぜリディアがカインと一緒に買い物に出かけたか。
その理由をセシルもローザも知っている。
そして理由を知っているからこそ、セシルはエッジに話すことができなかった。
「どうしたんだよ、セシル。なんで黙ってんだよ」
「あー、それは……」
理由は知っている。
だが今は、それを明らかにする事はできない。
『絶対にエッジには言わないでね』
カインもセシルも、リディアからそうきつく念を押されているのである。
「……おい、セシル!何とか言えよ!」
「あのね、実はリディアから理由については口止めされていてね……」
これは本当の事だから、隠す必要はない。
エッジには黙っていて欲しい。
それがリディアの望みなのだ。
けれども告げられた方のエッジは、不快感をあからさまにした。
「おい、リディアから口止めって、なんでだよ!」
「なんでだよって言われても、とにかくエッジには内緒にしておいて欲しいんだってさ」
「やっぱり、俺には言えない理由なんだろ!!俺に対して、何かやましいことがあるんだろ!!」
早口でまくしたてるエッジ。
恋は人を変えるという例を間近で見てしまったローザはどうリアクションしていいのか分からず、エッジの激高ぶりをただ、ただ眺めている。
確かにエッジには子供っぽいところがあった。
しかし今のエッジは、子供というかガキである。
「どうして、そう、物事を後ろ向きにしか考えられないかな……」
流石のセシルもため息が出てしまう。
今日のエッジは何の手段も講じられないくらいにネガティブになっている。
まぁ、惚れた女がかなりのハンサムと楽しそうに買い物している姿を見てしまったら、そうならざるを得ないのかも知れない、が。
「困ったな……」
ほとほと困り果てた頃、家の車庫に車が入ってきた。
この独特のエンジン音は、カインのRV車。用事が済んだので帰ってきたようだ。
作品名:晴れた日の過ごし方 2 作家名:あまみ