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章と旌 ( 第一章 第二章)

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《一章》

十三才の少年、簫平旌は、山の急斜面の岩場を登っていた。
国境の峰や峠を、時には越え、時には戻り、を、ここふた月の間、繰り返していた。
平旌、一人だけではない。左路軍の兵士、三十人程と、行動を共にしていた。
山に籠って、どの位経ったのか、、、、。
敵に遭遇する度に緊張した。一日が長く、、長く感じた。
時には戦い、かと思えば、戦の無い日が数日続く事も、、、。


ーーーーーーーーーーーーー
何故、こんな事になったのか。
それは今から、ふた月ほど前に遡る。

『敵に囲まれるから、甘州に迂回せよ』
平旌はその情報を、単身、左路軍に伝達に来たのだ。
今となっては、本気の功名心だったか、普段の悪戯の延長だったのか、本人にもよく分からない。

ーーーーーーーーーーーーーー

ふた月ほど前、平旌は、軍務に当たる兄平章の共をして、甘州に来ていた。
そして、長林軍の軍営で、将軍が兄平章に、至急の報告をした。平旌は、それをたまたま、隣の部屋で小耳に挟んでしまったのだ。
内容を聞き、この窮地を脱する行動は、『自分にしか出来ない事』だと、平旌は直感的に思った。
平旌の、独断での行動だった。兄が平旌に、こんな事をさせる訳が無い。兄に平旌が『私が伝令に行く』と言ったら、頭ごなしに反対するだろう。だから本当は、何をしに行くか、言わなかった。まだまだ子供で、兵士でもなく、軍の何たるかも知らなかった。
十三才の少年平旌は、『ただ伝えれば良いんだよな』位の軽い気持ちで、無断で甘州の軍営を出た。
『数日、その辺で遊んでくる』そんな言伝を兄に残して。


左路軍の現在地と、進軍する土地は、平章と行ったことがあり、知っている。待ち伏せして、左路軍の将軍に『迂回』の件を伝えて、あわよくば、二、三日、共に行動して、、、そして甘州に向かえば、左路軍の件で待機している兄平章の軍と、多分、そのまま合流できる。
『いい事』をするんだから、兄は自分の事を自慢にするだろう。事の次第を聞いた父長林王だって、自分を見直して、今後は子供扱いしなくなる。考えれば考える程、『良い事ずくめ』だった。
左路軍と兄の軍が合流しなくても、単騎で兄の軍まで帰って来よう。ちゃーっと行って、ちゃーっと帰って来れる、そう軽く考えていたのだ。

途中、敵軍営の端を、通過せねばならなかった。
度胸があるというか、平旌は何食わぬ顔で、土地の子供に成りすまし、『妹が病で、医者を呼びに行くのだ』と、もっともらしい事を言って、敵軍を欺き、まんまと通過した。『早く医者を連れて来ないと、妹が死んでしまう』とか何とか、涙ぐんだり、、、。
だが、状況は常に変わるもの、初め、更着の子供が馬に乗り、駆けて行くのを、敵軍はあっさりと通したが、さすがに訝しんだ。
結局、後をつけられ、平旌が左路軍と合流して半日が過ぎた時、敵軍の襲撃を受けた。
しかし、平旌の伝達により、既に半数以上は撤退の動きに入っていて、ほとんどの梁の兵士は、そこから追撃されることなく、撤退する事が出来たのだ。
迅速さと機動力を考えれば、実はこの無謀な平旌少年の行動が、この状況に最も相応しい動きだったのだが、、。
左路軍本隊は、見事に敵軍との衝突を回避することが出来、犠牲を出さずに済んだ。

だが平旌が、軽ーく単騎で抜け出す当初の計画は、この後、吹き飛んでしまうのであった。
平旌の自業自得であった。

平旌は、左路軍と撤退する途中、主軍から勝手に一人、離れたからだ。
主軍の将軍は、左路軍を救った少年が、長林次子と知り、無事に長林王府に帰さねばと、側に置いて撤退していたのだが、、、将軍の平旌に対する考えが甘かった。平旌は普通の子では無いのだ。
殿(しんがり)の軍が、追撃してくる敵軍と、どう戦うのか見たくて、しれっと将軍の側を離れ、最後尾まで一人下がってきたのだ。
つかず離れず、殿の戦さの様子を窺っていたら、殿軍の一部と共に逃げ遅れた。
ここに来る前は、ちょこっと馬で連絡に行って、ちょこっと馬で帰ってこよう、そんな軽い考えだったのだが、余計な野次馬心を出したが為に、状況が逼迫(ひっぱく)してしまい、平旌の計画通りにはいかなくなった。
しかしそれでも平旌は、『自分と行動を共にしている左路軍小隊は、簡単にこの状況から、脱出できる』と、その時は軽く考えていたのだ。
平旌達を追いかける敵は、人員の多い部隊ではなかった。
この敵の軍の、執拗な追跡から逃げるうちに、平旌達は、山の中に追い込まれた。
平地で隠れるよりも、山に入った方が、逃げ切れる率は高いのだが。
平旌達は、高々、三十名程の小隊だった。全軍を挙げて壊滅させる程の脅威も無く、現実的な話、捕らえてもあまり意味もない。
敵の大隊は、左路軍と一戦交え、打撃を与える作戦が水の泡になったのだ。軍を動かした戦果が、いくらかでも、欲しかったのかも知れない。
それで、敵軍としては、平旌達たかだか小隊を見逃す事も出来ぬのだろう。
平旌達を捕虜に出来れば、梁との交渉の材料として、使えるかも知れない。

この左路軍小隊と行動を共にして、『兄の平章の軍に合流するのは、逃げ切ってから、、』だんだん、平旌に、現実が見えてくる。


敵軍が、早く諦めてくれれば良い。
左路軍小隊は皆、そう願っていたが、それはかなり難しい。
どうにか左路軍の本隊の近くまで進み、自力で合流するのが最も現実的な方策で、助かる道はそれしか無かった。
だが、敵もさる者。平旌達の向かう方角を知っているようで、中々思うように追跡を振り切れなかった。
むしろ、敵軍の本体に追い込まれているのに気付き、大慌てで、脱出した事もあった。



そして現在に至る。もうかれこれ、ふた月以上が過ぎていた。
さすがに平旌も、功名心に駆られ、軽率に、甘州の兄の軍を出てきた事を、大いに後悔していた。

『大人扱いして欲しい、自分は大人並み以上に何でも出来るのに』

父、長林王も、兄、長林世子も、決して平旌の事を大人とは扱ってくれない。
そして最後には、兄はお前の年の頃は、立派に軍務を果たしていた、と。
平旌は、まだたかか十三歳。兄の平章の『出来』が特別なのだ。比較しては平旌が気の毒だった。
平旌の剣の腕は、同じ歳の男子と比べ、突出しており、少々腕の立つ剣士とも、互角に戦える。学問も大人顔負けで、理屈を語らせたらその辺の書生など、正論でコテンパンに論破してしまうのだが、、、。
腕も頭も並以上だ。しかし、平旌の考えている事も、行動も、まだまだ子供のそれであった。どう大人扱い出来ようか。
こうして独断で行動した事も、全く子供っぽいのだ。

隊の兵達は、平旌に良くしてくれた。
季節も良かったのだ。飢えぬ程度に、山の実りがあった。

そのまま進軍していれば、間違いなく、敵軍の大隊に囲まれ、多くの犠牲が出ただろう。死人が出たりせず、逃げおうせた事は、平旌の手柄ではあるのだが、、、、。
兄に嘘をついて、出てきてしまって、既にふた月以上の行方不明の状態で、、、、、長林王府に戻ったら、恐らく平旌は、勝手な行動をしたと、父簫庭生に酷く叱られるだろう。
怒られるのは年柄年中で慣れていたが、、、、、──きっと、また子供扱いされる──、何よりその事の方が嫌だった。