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章と旌 ( 第一章 第二章)

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毎朝、一番に起きて、山の高台に登り、周辺の様子を見てくるのが、平旌の日課になっていた。

今朝はいつもと違った。いつもならば、ざらっと、変化がないか、見渡すだけなのだが、今朝は少し緊張して、丁寧に観察していた。
平旌は、何か予感めいたものを、昨夜から感じていた。
南の方角で、何かが動いている。
じっと目を凝らすと、南方面から軍が進軍してくる。
そんなに大きな隊ではない、自分たちを討伐に、敵の応援隊が動いたのだろうか、、、。

平旌は、目を凝らして、じっと見ていた。
「あっ!!。」
そう言うと、転げるように、小隊の潜伏場所に駆け降りていった。

「おぅ、次子様、今朝も変わりは無いだろう?。」
数人の兵士が平旌に声をかけ、笑い合っていた。
一旦戦闘となれば、皆、気が張り詰めるのだが、この所は上手く逃げ回って敵軍を躱(かわ)せている。ここ十日ばかりは敵軍に出くわすことも無かった。
平旌の機転や、思いもよらぬ作戦が大いに役立っていて、平旌は、小隊の兵士にも、一目置かれていた。
「哥哥!、狼煙を上げて!!!、急いで!!!。」
「どうした?、狼煙なんか上げたら、敵に見つかってしまうだろ。」
「良いから、早く早く!!、兄上の軍が来た!、こっちへ向かってる。」
「何?!、長林世子の軍が!!!。」
ようやく故郷に帰れると、小隊の男達は喜んだ。
「だが狼煙を上げれば、我々は敵軍にも見つかるだろう?。」
「うん!、兄上の軍が先に敵軍にぶつかるか、私達が見つけられてぶつかるか、兄上達もそう大きな隊じゃない、だけど、兄上達と私達が挟み撃ちしたら、きっと破れる!!。」
「よしっ!!。」
消しかけた焚き火を、もう一度起こして、その中に狼煙の材や湿った草を、どんどんとくべてゆく。
たちまち真っ白な煙が、木々の間から、天へと昇っていった。
兵士達は鎧を着け、戦さ支度を済ませ、平旌の指す、平章の軍のいる方角へ、山を駆けて降りて行った。
平旌の戦の勘には、皆、舌を巻いていた。静かな山の風の色に、何かを嗅ぎ取るのだ。小隊の兵士の中に、そんな芸当が出来るものはいない。この隊の中では、『子供の言う事』と言って、聞き逃したりできぬ存在になっていた。
天性のものなのだろう、『どうしてそうなると分かる?』と問われても、平旌は『ただ何となく、、』としか答える事が出来ないが、必ず、平旌の言った通りの、状態になるのだ。
平旌は、兵士の間では大将軍であった。

全員が一塊になって、斜面の木々を縫うように駈け下りる。
初めは馬もいたが、見つからぬ事が最優先で、とうに鞍を下ろし、山に放った。

敵軍も、平旌達小隊の狼煙を見つけ、向かって来ていたのだ。
そして両軍は激突した。
敵軍の背後に、平章達の救助軍が向かっているとなると、平旌達の指揮も上がる。
敵軍は小隊の倍以上はいるのだが、平旌達は怯まずに向かっていった。
あとには、長林世子の軍がいる。敵軍がかまわず平旌達と刃を合わせたということは、まだ、平章軍が迫っていることを知らないからだ。このまま挟み撃ちできれば、敵軍を打ち取れる。
「持ち堪えろ!!。」
隊長から怒号が飛ぶ。
平旌の剣の腕が、底らの大人顔負けなのは皆知っていたが、兵士達からは、「出てくるな、隠れていろ」、そう言われていた。
長林王の次子だからではなく、皆、平旌が可愛いのだ。
まだまだ子供の平旌が、戦いで怪我をするのは忍びなかった。今回は逃げる戦さではなく、倒す戦さなのだ。実戦は剣術だけではない。
そう言われていても、平旌は自分の腕に自信満々で、兵士達に混ざり、敵と剣を合わせた。
伊達に平旌に、自信があった訳では無い。
靱(しな)やかに、軽々と、体を使い、時には剛剣を躱し、時には味方の兵士の、窮地を救った。『子供がいる』と、敵が侮った訳ではなく、敵軍の誰も、平旌にかすり傷一つ、負わすことはできなかった。

どの位戦っただろう。不意に敵軍の撤退の鐘が響く。
漸く敵は、平章の軍が迫っているのに、気がついたのだ。
だが、既に手遅れで、平旌の耳でも兄世子軍の蹄の響きを感じていた。
その後、敵軍は右往左往する者、逃げ惑う者、反撃に出る者、様々だった。

次第に蹄の音は近付き、『長林簫』の旗印をたなびかせ、逃げ惑う敵兵を蹴散らしながら、騎馬隊が姿を現した。
その先頭は長林世子の平章である。長林王府の親衛隊で構成された騎馬隊だった。猛突する平章の周りを守りながら、騎馬隊は一塊になり、戦場を切り裂くように真っ直ぐに向かってきた。
「兄上!。」
真っ先に、その姿に気がついたのは、平旌だった。
「兄上??。」
平章は戦場では、槍を自在に奮い、戦うのだ。
地面すれすれに、槍の切っ先を走らせ、幾人もの敵を倒してゆく。いつもの穏やかな平章とは、まるで別人の鬼神の様な姿は、平旌をぞくぞくとさせた。
時折顔を覗かせる、有無を言わさぬ平章の一面にも似ていた。
だが、今日の平章は右手に何も持たず、ただ平旌を目がけ馬を駆る。東青が最も側で、平章を守りながら。二人の馬は見事に並走している。
騎馬隊が敵軍の中央まで入ると、騎馬は散り、それぞれ逃げ惑う敵兵を倒していった。
平章の馬は早い。敵兵は敗色が濃く、逃げ惑う者多数であったが、散り際に平章に、一太刀浴びせようとする者がいた。そんな不意の攻撃から、守りながら走る東青は難儀していた。
弟めがけて疾駆する、平章の馬脚が早すぎるのだ。
「平旌!!。」
ふた月ぶりの再会だった。
「哥哥ー!!。」
平旌は、ふた月も家族と離れていたが、不思議と寂しいという感情は生まれなかった。むしろ一日一日が充実していた。
平旌は、『共に逃げてきた部隊が、全滅させられて、自分もこの地で終わる』とは、全く思っていなかった。
自力での脱出が無理でも、『きっと兄が助けてくれる』と、どんな状況になろうとも、そんな確信しか無かった。
時折、父長林王 簫庭生の怖い顔が浮かんできたが、それを掻き消す程、部隊での経験は楽しく、そして物質的な不足はあったものの、気持ちは満ち足りていた。

平章は馬を走らせたまま、平旌の側でするりと馬を降りる。
そして、兄弟は抱き合って、再会を喜んだ。
平旌の体を引き寄せた瞬間、平章が泣きそうな顔をしていた。
『こんな表情をさせる程、兄に心配をかけた』、初めてそう思った。
決して泣いたりなどしない強い兄なのだ。だが、強い兄に、これ程心配をかけた。
平旌の背は、もうすぐ平章に追いつく、、しかしまだ、体は細い子供だった。ふた月の野営生活で、平旌の肢体は更に細くなっていた。
青年男子の、充実した大きな平章の体に、平旌はすっぽりと、包み込まれる。
同時に、強く抱く兄の腕に、『生きて帰れる』そんな安心感が湧き上がる。何度か、本当に危険な戦闘があった。涙を浮かべ、家族に会いたがっていた兵士の気持ちを、平旌は今、何となく理解出来た。

ぐっと抱き締める力が緩み、平章が平旌の顔を見る。
心配そうな平章の顔は、みるみる笑顔に変わる。見ただけで弟が、大きな怪我もなく、元気そうなのを感じていたのだ。
「全くお前は、こんなに心配させて、、。」