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Fate/GO アナザーワールドインスクロース 1

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シェヘラザードさんが持っていそうな巻物がそこにあった。
ただ、巻いてある紐に至るまで全部が真っ白だった。
試しに脚立に登ったままその白い巻物を開いてみる。
そこには……

(……ホントに真っ白だな。インクどころか汚れすらないな)

なにも書かれていなかった。
何か面白いことが起きそうな気がしてワクワクしていたが、とんだ無駄骨だったようだ。
俺は巻物をもとの場所に戻そうと巻物をしまおうとしたとき、突然、巻物が光を放ち始めた。

「うわっ!」

あまりの眩しさに俺は目をつぶった。
それと同時に感じる浮遊感。
これは……新宿で感じたものと同じく、落下しているな。
どうやら驚きのあまり脚立から落ちたのだろう。
しばらくすると後頭部に衝撃が走り、俺の意識は暗くなった。

……。
………。
…………。
目を覚ますと見慣れた天井が見えた。
そう、あれは間違いなくマイルームの天井だ。
状況を確認すべく俺は上体を起こすと、誰がマイルームに入ってきた。

「センパイ! 目を覚ましたんですね!」

マイルームに入ってきたのは頼れる俺の後輩であり、デミサーヴァントでもあるマシュ・キリエライトだ。
マシュは手にしていた花をマイルームの机に置くと、俺の手を握った。

「紫式部さんからセンパイが落下したと聞いて心配しました! お怪我の具合は大丈夫ですか? 痛みはまだありますか?」
「大丈夫だよ、マシュ。心配してくれてありがとね」

俺はそう言ってマシュの頭を撫でる。
マシュはホッとした様子で安堵のため息を漏らした。
すると俺の肩にモフモフの重量感を感じた。

「フォウフォーウ!」
「フォウさんも心配していましたよ」
「フォウフォウ(てしてし)」

謎の小動物のフォウ君は俺の肩に乗りながら、器用に前足で俺の頬を叩いてくる。
どうやら感謝しろ、と言っているようだった。

「フォウ君もありがとう」
「フォウ!」

フォウ君は肩から飛び降りるとマシュの方へと行った。
俺は後頭部わ擦りながらベッドから起き上がる。

「……うん、大丈夫だ」
「そうですか、それはよかったです。 ……あの、センパイ、その手に持っているのって……」

マシュはフォウ君を抱っこしながら俺の手を指差した。
俺の手にはいつの間にか真っ白な巻物があった。

「ああ、これ? これはだな……」

ただの白紙の巻物だよ、と言おうとしたところでマシュが口を開いた。

「これって、ホームズさんの小説じゃないですか! しかもモリアーティ教授との歴史的大一番が展開される話ですね! まさか巻物で出ているとは驚きでした」
「えっ?」

俺は改めて巻物を見てみる。
……うん、なにも変わらない真っ白な巻物だ。
それなのにマシュにはホームズの小説に見えている?
……なんかおかしいな。

「あの、よかったら今度貸していただけませんか、センパイ」
「あ、ああ、いいぞ」
「ありがとうございます。 ……あっ、そういえばダ・ヴィンチちゃんが呼んでいましたよ。なにやら重要な話らしいです」
「そうか……休みは終わりか」

俺は大きく背伸びをしてから、マシュと共にダ・ヴィンチちゃんがいる管制室へと向かった。
管制室の自動ドアが開くと少女が元気よく手を振っていた。

「やぁやぁ、いらっしゃいだねマスター君。最近調子はどうだい?」
「用件は何ですか?」
「うわ~お。相変わらずのスルースキルだね、立花君。まあいいさ、君を呼んだのは他でもない。先ほど新しい特異点が見つかったのさ」
「……はあ、特異点か……」

どうやら俺が気絶しているの間に新しい特異点が見つかったのだろう。
早めに終わってしまった休息に別れを告げ、気持ちを切り替える。

「特異点の発生場所はどこですか?」
「場所は北緯39.07、東径21.82の地点。すなわちギリシャだ」

マシュの質問に答えるように出てきたのはシャーロック・ホームズ。
言わずと知れた名探偵だ。

「ギリシャかぁ……真っ先に思い付くのがギリシャ神話だね。パッと思い付く西洋の神様を言えば、大抵ギリシャ神話に登場するからね」
「時代は……もしかして」
「そう! 紀元前1200年中期、トロイア戦争の真っ只中だね☆」

トロイア戦争か。
多少の歴史の知識がなくても一度は聞いたことのある有名な戦いだ。
一言で表すなら、人間と神が共に戦った戦争だ。

「極小の反応ではあるけど、聖杯の欠片も確認できました。これは行ってみる価値はありだと思いますね」
「あっ、シオンさん、お疲れ様です」
「うんうん、お疲れ様。頭を打ったと聞いたけど……うん、その様子だと大丈夫そうだね」

彼女はアトラス院の一員であるシオン・エルトナム・ソカリス。
カルデアが崩壊し、命からがら逃げ続けた先にいた彷徨海で俺たちを待っていたという人物。
ペーパームーンの製作者であり、レイシフトに必要なトリスメギストスを生み出した人だ。

「なんだか大層な説明をされた気分だが、今は置いておこう。早速だけどレイシフトの準備に取りかかってください」
「わかりました! ……ところでゴルドルフ所長は?」

先ほどから姿が見えないゴルドルフ所長の事を聞いてみると、ダ・ヴィンチちゃんが呆れたようにため息をついた。

「ゴルドルフ君は今、お腹を壊していてね。かれこれ一時間位トイレに籠りっきりさ。全く、こんな時に体調を崩すなんてさ」
「まあ所長を責めても仕方ないだろう。私から言っておくからマスター藤丸はレイシフトの準備を」
「了解しました! 行こう、マシュ」
「はい!」

俺は一足先に管制室のコフィンに乗り込み、後から準備をしていたマシュが乗り込んだ。

「センパイ。今回も頑張りましょうね」
「あぁ、期待しているよ。俺のサーヴァント」
「はい!」

改めて決意を固めるとコフィンが起動した。
何度も聞きなれた電子音を聞き流しつつ静かに目をつむる。
そして、意識が、感覚が、まるで何かに吸い込まれるように落ちていていく。
さあ、新たな旅の始まりだ。

◆◇◆◇◆◇

第2部 空中庭園

意識が徐々にはっきりとしたのを感じた俺は、ゆっくりと目を開ける。
目の前に広がる光景は、なにもない荒野と大きな山々が連なっていた。

「センパイ。ご無事ですか?」
「あぁ、大丈夫、だね。今回は成功ってとこかな」

マシュとお互いの確認を確かめると電子音が鳴り、ホログラムでできたダ・ヴィンチちゃんが現れた。

『あ~あ~、テステス。通信状況よし! 視覚共有もバッチリ! 立花君、マシュちゃん、不具合は感じるかな?』
「はい、センパイ共々大丈夫です。これより召喚サークルの設営、及び情報収集を開始します」
『オッケー。 それじゃ早速だけど、辺りの様子はどうかな?』
「辺りの様子は……そうですね……」

ダ・ヴィンチちゃんに言われるままに辺りの様子を見てみる。
……うん、なにもないただの荒野だ。

「報告します。何もない荒野だと推測します」
『何もない? 本当にそうかい?』
「はい。枯れた草木が生えている程度で、あとはなにもありません」