Fate/GO アナザーワールドインスクロース 1
「……あ、ああ。あれってまさか……」
空に巨大な物体が浮かんでいたのだ。
そして、俺たちはその物体がなんなのか一瞬でわかった。
「セミラミスの宝具『虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)』……」
◆◇◆◇◆◇
第3部 守護者と哲学者
ホームズから送られた座標の位置は、荒野で見た山の頂上付近だった。
普通、登山と言えば結構な重装備をしなければいけないが、魔術などで体力を補っているので楽々と険しい山道を登ることができた。
途中、何度かオオカミや魔猪、ワイバーンが襲ってきたが、マシュのお陰でなんとか撃退することができた。
目的の座標までたどり着くと、早速マシュは召喚サークルの設置を開始した。
『やあやあお待たせ。マシュちゃんが召喚サークルを設置している間に、ダ・ヴィンチちゃんの素敵な御高説コーナーと行こうか』
「お手柔らかにお願いします」
ホログラムのダ・ヴィンチちゃんはメガネをかけると小さく咳払いをした。
『今回は、本来の歴史のトロイア戦争についての説明だ。そもそもどうして戦争が起こったかというと、事の発端はギリシャ神話の最高神ゼウスと秩序の女神テミスが増えすぎた人間達を減らすために、人間同士を戦わせる事にしたんだ。さすがに神様が直接人間に手を出すわけにはいかないからね』
「なるほど、そうだったんだ……だったらどのようにして戦争を行わせたんですか?」
『まぁまぁ、そう焦ってはいけないよ。ちょうどその頃オリンポスで人間の子ペーレウスとティターン族の娘テティスの婚儀が行われていたんだ。沢山の男神や女神がその儀に参列したけれど、不和と争いの女神エリスだけが呼ばれなかった。女神エリスはその事に腹を立てて、添え置きと共に黄金の林檎を神々の座に投げ入れたんだ』
「あっ、この辺はわかります。確か、『最も美しい女神へ』って書かれた紙と共に黄金の林檎を投げ入れて、ヘラ、アテナ、アフロディーテがそれぞれ激しい対立をしたんですよね」
『正解! よく勉強しているね。その後ゼウスの一言によって人間に誰が美しいかを決めさせようって話になったんだ。そこに白羽の矢が当たったのが、トロイアの王子パリスだ。いろいろ割愛するけど、彼はアフロディーテの提案を受け入れ、スパルタの王メネオラスの妃ヘレネを奪い去ったんだ。メネラオスは、兄でミュケーナイの王であるアガメムノンにその事件を告げ、さらにオデュッセウスとともにトロイアに赴いてヘレネの引き渡しを求めた。だけど、パリスはこれを断固拒否したため、アガメムノン、メネラオス、オデュッセウスはヘレネ奪還とトロイア懲罰の遠征軍を組織した。これがトロイア戦争の始まりだ』
「……つまり、王道RPGみたいな展開ってことですね。さらわれた姫を助けて、諸悪の根元の魔王を倒す、みたいな」
『まあ、そんな解釈でいいよ』
ダ・ヴィンチちゃんの素敵な御高説が一区切りしたところで召喚サークルの設置が完了した。
早速俺は召喚サークルの前に立ち、令呪を前にだし召喚の詠唱を開始する。
――――告げる。
汝なんじの身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理ことわりに従うならば応えよ。
誓いを此処ここに。
我は常世とこよ総すべての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷しく者。
汝なんじ 三大さんだいの言霊ことだまを纏まとう七天しちてん。
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――
召喚サークルが光だし令呪が熱くなる。
何度やってもこの感覚はどことなく緊張する。
やがて、サークルの中から二人の姿が現れた。
「サーヴァント、ランサー。クーフーリン、召喚に応じて来たぜ。よろしくな、マスター」
「ライダーのサーヴァント、アキレウスだ。人類最速の足に期待しな、マスター!」
全身青タイツの槍兵と銀の鎧の美丈夫がそれぞれ名乗りをあげた。
うん、二人ともカルデアで召喚しているサーヴァント達だ。
「召喚に応じてくださいましてありがとうございます、クーフーリンさん、アキレウスさん」
『うんうん。ギリシャ神話にゆかりのあるアキレウスと、ケルトの英雄クーフーリンがいれば百人力だね。早速で悪いけど、アキレウス君。ここをどう思う?』
「そうだな……確かに俺の知っているギリシアであるとこには変わらないが、何か違うな。既視感ってやつか?」
アキレウスは辺りを見回していると、空に浮かぶ庭園を見つけた。
だけど、アキレウスもクーフーリンもさほど驚きはしなかった。
「空中庭園か。チョコ騒動が懐かしいな」
「アニキ達のんびり畑を耕してたからね」
「まあな。オレは何でもできるからな。今度シミュレーションで牧場でもやってみるか?」
「気が向いたらね」
俺は小さく息を吸い、ゆっくりと吐き出して気持ちを整える。
「……アキレウス。空中庭園に乗り込むけど、できる?」
「当たり前だ、俺の戦車はどこまでも走るぜ! クサントス! バリオス! ペーダソス!」
アキレウスが叫ぶと、どこからともなく三頭の馬とチャリオットが現れた。
アキレウスが先に乗ると俺たちもそれに続いた。
「さあ、走るぜ! 振り落とされんなよ!」
「お手柔らかにぃ!」
合図もなしに急に走り出したせいでバランスを崩し、チャリオットに尻餅をつく。
マシュに快方されながら痛む腰を擦っていると、あっという間に空中庭園に到着した。
「到着だぜ。降りれるか、マスター?」
「だ、大丈夫……よっと」
個人的には三度目となる空中庭園に足を踏み入れたとたん、さらに上空からプレッシャーを感じた。
恐る恐る見上げてみると……人の姿があった。
褐色の肌をしていたその人物はこちらを見ることなく、ただ、空中庭園の上空に佇んでいた。
「あれは……サーヴァントですか?」
『うん、間違いなくサーヴァントだ。それも、女神のサーヴァントだね』
ただ空中に佇んでいるだけのサーヴァントなのにどことなく恐怖を感じる。
『それと悪い知らせだ。あのサーヴァントの反応が強すぎて空中庭園にいると思われる他のサーヴァントの反応が探知できない。現にクーフーリン君とアキレウス君の反応も捉えられない』
「……何か、訳があるんですかね?」
『そう思うのが妥当かもね。ひとまず空中庭園の探索をお願いね』
「了解しました。行動を開始します」
俺たちは一まとめになって空中庭園を歩きだした。
少し奥に向かって進むと、なにやら光輝く場所に出た。
その場に出てみると、そこには黄金の果実を実らせていた木が何本も植えられていた。
「これは……金です。黄金でできた林檎だと思われます」
『黄金の林檎……ギリシャ神話ではよく出てくるキーアイテムだね。これだけ群生しているということは、恐らくここはヘスペリデスの園だと思う』
「ヘスペリデスの園……女神ヘラの果樹園がある園ですね。黄金の林檎の木のお世話をしているヘスペリデスと百の頭を持つ竜ラドンが林檎の木を守っていると言われていますね」
黄金の林檎か。
先ほどのダ・ヴィンチちゃんの御高説でも出てきたけど、ギリシャ神話にとって重要なアイテムらしいね。
作品名:Fate/GO アナザーワールドインスクロース 1 作家名:獅子堂零