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テイルズオブジアビス 星の願いが宿る歌2

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「全部生きて帰れたらの話だからな!」
「とーぜん!」
 アニスが手にしていた人形を巨大化させてその頭部に飛び乗った。アニスは人形師(パペッター)と呼ばれる特殊な譜術士だ。人形を自在に操り戦場を駆ける。アニスが操るトクナガと名付けられた人形はニッと笑ったような口元のステッチや目を模した大きなボタンが特徴で、決して可愛くはない(と言うと方々から怒られるのだが)、どちらかと言うと不気味な部類に入る。それに乗り込むアニスの可愛らしい容姿とのコントラストは強烈で、ひとたび見れば決して忘れることはないだろう。
「作戦は?」
 激しく叩きつけられる触手に対して、結界の維持を続けるティアがルークに問う。
「とにかくあいつを気絶させて動きを止める。それからのことはまたその時考える!」
「相変わらず行き当たりばったり〜」
 アニスが茶化すと、ガイが剣の露を払いながら笑った。
「俺たちらしいだろ?」
「まぁね♡」
 ピシリ、と結界の限界を伝える亀裂音がした。
「行くぞみんな!」
 ルークが走り出し、結界を攻撃する触手を超振動で蹴散らす。ティアは第二譜歌を再び詠唱し、ガイとアニスは、預言士めがけ走るルークのあとを追う。
 預言士はルークしか見えていないのか、その足元ばかりを狙って攻撃してくる。
「当たるかよ!」
 何度かまろびそうになりながらもルークは男との距離を詰めていく。
「弧月閃!」
「流影打!」
 攻撃を外した触手が地面から抜け出し、ルークの背中を狙う前にガイや斬りつけ、アニスがトクナガで叩き潰す。その時、ルークはクンと耳の奥を詰まらせるような耳鳴りを覚えたが、触手の動きを見定めようと意識を取られすぐに気にならなくなった。
「臥龍撃! もひとつ翔舞煌爆破!」
「調子いいなぁ」
 次々触手をちぎっては投げるトクナガの動きに、ガイは呑気に感嘆を漏らす。それを知ってか知らずか、人形の動きはどんどん機敏になっていく。
「空破特攻弾!」
 派手に技を決めると耐えきれなくなった触手がぐしゃりと飛び散り、飛沫がトクナガとアニスを紫に染めた。
「みぎゃー!? 最悪! キモッ! 何しやがる!!」
 最後の方は明らかに言いがかりだが、いよいよスイッチが入り口調が変わってきた。どちらかと言うと、こちらがアニスの素だ。
「もう手加減しねえぞこのヤロー!!」
 アニスの罵声を背中で聞いたくらいにはルークの剣も預言士の体を直接捉えられるまでに接近していた。
「おらっ!」
 思いきって袈裟斬りに鍵を振り下ろすが、いとも容易く触手で阻まれる。
「ちっ……」
 ずぷり、と鍵が触手に沈み、力任せに引き抜こうとしても重くて上手く動かない。むしろ抜けるどころか、鍵は奥へ奥へと引きずり込まれる。まるでこのまま飲み込もうとしているかのようだった。
「……チカラ……」
 預言士の口が動いた。おどろおどろしい声音で男は呟く。
「欲シイ……チカラ……チカラチカラチカラ」
 昏い眼孔にルークは自らの顔が映り込むのが見えた。ぞっ、と背筋が粟立つ。
「放せ……!」
 ビクともしない鍵。苛立ちと恐怖から焦りが生まれ、それ以上鍵を飲ませない為に触手に足をかけ力を込めようとすると、その足も触手の中にグッと沈んだ。まずい、と思った時。
「ホーリーランス!」
 ティアの譜術が触手ごと男を貫いた。強い光に飛ばされる影のように触手の形がゆらぎ、足に感じていた引力が弱まる。はっとして鍵と足が刺さる間に右手を近づけ、
「烈破掌!」
 周りの触手を散らし飛ばすことで自由を取り戻した。間髪入れず、抜き去った剣の勢いそのままに振り下ろす。
「空破絶風撃!」
「エクレールラルム!」
 図ったようにティアの譜術がルークの剣に重なった。身を守っていた触手を完全に弾き飛ばされ、無防備になった男の懐にルークが滑り込み、
「──────鷹爪豪掌破!」
 がら空きの腹部に深く拳を叩き込む。すると男はぐぅ、と唸りその場に倒れ込んだ。元はただの預言士だ、戦闘用に体を鍛えているわけでもない。ルークの攻撃を直接その身に受けるとあっという間に気絶してしまった。それと同時に暴れ回っていた触手もぱたりと動きを止め、霧散するように姿を消した。
「上手くいったか」
「はぁ……だといいけどな」
 ガイやアニスがルークのそばに近寄ってくる。触手の霧散と同時にアニスを汚していた触手の飛沫も消えたが、まだ気になるらしくアニスは自分の服をそこかしこはたいていた。
「あ〜気持ち悪ッ! 結局なんだったわけ? ちゃんと説明してよ!」
「そういやそうだったな。ガイ、頼むわ」
「やっぱりそこは俺なのか……」
 ガイがどこから説明したものかと考えていると、ティアが騎士達と一緒に鉄格子の方へ歩いていくのが見えた。
「ルーク! 中にいた人達が起きたみたい」
 ティアの呼びかけを聞いて遠目に確認すると、確かに鉄格子の中で倒れていた人達が身を捩り、起き上がろうとしているのが見えた。
「そっちは頼んだ!」
 ティアが仕草だけで了解の意を伝える。ならば、とルークは振り返り預言士の方を確認する。伏したまま、微動だにしていない。当然と言えば当然だが、この後はどうするのが正解なのか。宿主が意識を手放した今なら、瘴気集合体を誘き出し消滅させることができるだろうか。
「───────で、いまの正体が恐らくその瘴気集合体だ」
「ふみゅ〜……なーんかまたよくわかんないことになってる〜〜」
 ガイの方はなんとか説明してくれてるな、と考えていると視界の端で何かが動いた。
「……ふたりとも」
「ん、なんだ?」
 ルークは預言士から視線を外さない。しかし、ルークと預言士を見比べたガイ達は首を傾げていた。くそ、と悪態をついて強く声を上げる。
「下がれ、早く!」
 アニスは要領を得ない顔をしていたが、ガイはその一言で察してアニスの手を引きティア達の方へ走り出す。ルークはというと、じりじりと後退はするがそれだけで、左手に握ったローレライの鍵を構え直した。見据える先は、地面の上の預言士──────の背中から湧き出した黒いもやだ。目論見通り、瘴気集合体が姿を現した。
「出たな─────」
 直ぐに消してやる、と意気込んでいたルークだが、その威勢の良さは続く言葉と共に消え去った。もやの噴出はいつまで経っても勢いが収まらず、この部屋を埋め尽くさんばかりだ。ついにルークの鼻先まで拡がってきて、またルークは二歩、三歩と後ろに下がる。
 どこまで出てくるんだよ、と言いたくなったが口を開くと吸気と共に体に入り込みそうで懸命に閉ざす。部屋の半分が黒く染まった時、四方八方に拡がっていたもやは突如収束に向かった。ただの霧状だった暗紫色は預言士の頭上で輪郭を持ち始め、その姿を形作る。今まで見てきた瘴気集合体と外見は大きく変わらない。スライムのような、ぶよぶよとした暗紫色の塊だ。先程預言士の背中から伸びていた触手のようなものが見え隠れしていることと、大きさを除けば。
「……おい、マジかよ…………」
 ルークが思わず口からこぼす。辺りのもやが収束しきった時には、人の背丈の三倍はあろう巨体がルークを見下ろしていた。